記録#4『世界からバナナがなくなる前に』効率を追って脆弱さが生まれる
ここ最近、食や農業の問題はそこかしこで取り上げられています。
途上国を中心とした飢餓、都市における食料廃棄、不衛生な環境で抗生物質まみれで育てられる牛や鶏に起因する食肉の安全性、遺伝子組み換え作物の登場...
どれも大きな問題です。そんな中で、この本でまた一つ大きなテーマが自分の中で増えました。
"農作物の品種の多様性喪失"です。
世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち
- 作者: ロブ・ダン,高橋洋
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2017/07/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「世界中で摂取されているカロリーの80%は、たった12種類の植物から得られている」そんな驚きのデータからこの本は始まります。
有史以来、ヒトは野生の植物を採取し、それを栽培する術を開発し、農業として育ててきました。その方法は地域ごとに異なり、それに合わせて品種も各地域で独自の発展を遂げてきました。しかし産業革命以降、農業の工業化が進み、育てる品種を絞り込んで、肥料や殺虫剤を使いながら最大効率で栽培する手法が主流になります。
表題のバナナやゴム、カカオ、コーヒー、ジャガイモ、キャッサバ...
あらゆる品種で限られた品種を効率的に育てる農業が中心となり、それに合わせて、真菌やウイルス、害虫等による被害がでると広範囲で一気に広がる事になります。そういう意味で、現代の農業は短期的な効率性・生産性が最大化されている一方で、一度被害が出たときのインパクトが非常に大きくなるという意味での脆弱性を抱えています。
この本の中にも、このような脆弱性が露見した悲しいストーリーが色々出てきます。
- パナマ病でなくなってしまった甘くて美味しいバナナの品種・グロスミッチェル
- アフリカのキャッサバ栽培を救うために、南米のアマゾンに"天敵"を探しに行くスイス生まれのヒッピー研究者
- 天然ゴムを安定的に確保しようとブラジルで天然ゴムプランテーションの運営に乗り出したヘンリー・フォードとその失敗
- ナチスが迫る1940年代のロシア・レニングラードで、採集した植物の種子を必死に守りながら餓死していった研究者たち
- 政敵を追い落とすために作物をダメにする菌をばらまく農業テロを行い何百万人もの職を失わせた農業団体関係者
生産性向上が叫ばれるこの世の中で、品種絞込みの流れが止まることはないでしょう。そんな中で、世界中が飛行機でつながりヒトも自由に移動する中で、菌やウイルスが運ばれるスピードも上がっていきます。
それによって、いろんな作物が壊滅的なダメージを受ける頻度は高まり、より深い社会問題として認識される日が早晩来る気がします。一部ではもう来ているのかもしれませんが。
日々仕事をしていると工学系・情報系のテクノロジーのお話にたくさん触れますが、ヒトの生き死にに関わる食のテクノロジーについても、もっと突っ込んでいこうと感じました。
これまでは研究者や農業メーカーの努力によって、上のような様々な問題が解決されてきました。これからも同じようになんとかなるのでしょうか。。そんな問題意識が頭のなかに植え付けられる、深くて良い本でした。
記録#3『アルゴリズム思考術』コンピュータに"考え方"を学ぶ
はじめに
新卒で入った会社では入社するまえに課題図書が配られ、コンサルタントとして働く上で必要な財務会計や英語に関する本の他に、『イシューからはじめよ』や『論点思考』『仮説思考』といった、仕事をする上で役立つ考え方についてのものもありました。
色んな分野でこの「仕事をするときの心構え・考え方」に関する本があると思いますが、それはどれも「その分野で実績を上げた/有名な人が、後進たちに向けて書く」というものです。
- 「私はこうやったらうまくいった(から、他の人もやるべき)」
- 「私にはこんな反省がある(皆さんは同じ過ちを繰り返さないように)」
上で紹介した『イシューからはじめよ』等、先人の知恵を濃縮して伝えてくれるこのような書籍はものすごく参考になります。それは、同じ人間である以上、同じような失敗をする可能性があり、同じような成功の経路を辿れる可能性があるからです。
コンピュータの思考法を学ぶ
しかし、私たちが学ぶ対象は「人」からだけでよいのでしょうか?もっと良く生きるために、学びの対象を広げることはできないのでしょうか?
問題解決にもっぱら強い先生。そう、「コンピュータ」です。
将棋や囲碁、チェスなんかの分野では、人間が到達できないほどの高みまで登ってしまったコンピュータ。彼らは物事をどう考えているのか(アルゴリズム*1、といいます)、それを知ることができるのが下の本です。
コンピュータの思考法を学ぶ
原題は"Algorithm to live by"、生きていくためのアルゴリズム。
以下、"はじめに"から抜粋。
誰もが直面する問題もある。われわれの生が有限な空間と時間の中で営まれているという事実から、直接的に生じる問題だ。
一日のあいだに、あるいは10年のあいだに、何をすべきで何をしないでおくべきか。
どの程度の無秩序なら受け入れるべきで、どの程度の秩序なら過剰なのか。
最も充実した人生を送るには、未知の経験とお気に入りの経験とのあいだでどんな バランスをとるべきか。(Kindle版 位置: 121)
仕事にしろ日々の生活にしろ、上のような決断に日々私たちはさらされています。
- 目の前の仕事を今片付けるべき?それとも明日で良い?
- 同僚と飲みに行く?家族のいる家にすぐ帰る?
- キャリアはこれでいい?転職すべき?
- 社内ルールとして統一すべき?それとも都度対応したほうがいい?
- ランチは前行って美味しかったところに行くべき?新規を開拓?
この決断をもっと良いものにするために、コンピュータから学べることはないでしょうか?
これらは人間だけの問題と思われるかもしれないが、じつはそうではない。 半世紀以上前から、コンピューター科学者はこうした日常のジレンマに相当する問題に取り組み、多くを解決してきた。
今日こそ行動すべきかと一日レベルでタイミングを見極めるのさえ人間には難しいが、われわれを取り巻くコンピューターはミリ秒レベルでやすやすと判断を下している。コンピューターが判断を下す際の方法から、われわれが学べることはたくさんある。(Kindle版 位置: 125)
- 負荷を最小限にして最短の時間でユーザーの要求すべてに応じるには、プロセッサーの「注意」 をどう配分すべきか。
- 異なるタスクの切り替えはどんなタイミングで行なうべきで、 そもそもタスクはいくつ実行すべきか。
- 限られたメモリー資源を活用するには、どんな方法がベストか。
- データをさらに集めるべきか、それとも既存のデータだけを使って作業すべきか。
素晴らしい。 ぜひ参考にしたい。扱っているテーマは、
- 最適停止問題:どのタイミングで決断を下すか
- 探索と活用:いつまであたらしい選択肢を探し続けるのか
- ソート・並び替え:どれくらいの手間をかけて、何の順序で並べるか
- キャッシュ:どの記憶を頭に残し、忘れるか
- スケジューリング:何から手をつけるべきか。割り込みを許すか
- ベイズの法則:手元の情報をもとに、未来をどう予測するか
- 過適応:複雑さ・ノイズにどのくらい対応するか
- 制約緩和:解けない問題を解けるようにするにはどうするか
- ランダム性:全体ではなく一部を取り上げることで済ませられないか
- ネットワーク:どのような頻度と量のコミュニケーションをとるか
- ゲーム理論:他人に期待通りの動きをしてもらうためにどうするか
生きていくための考え方、という視点で言うと、特に前半の「最適停止問題」「探索と活用」「ソート」あたりはとても参考になると思います。
"やめどき"を考えよ
われわれは、合理的な意思決定とはすべての選択肢を徹底的に調べ上げて入念に比較したうえで最良の選択肢を選ぶことだと信じ込んでいる。しかし実際には、時計(または心臓)が音を立てて動いているとき、意思決定(あるいは思考全般)のさまざまな側面のなかで、やめるタイミングほど重要なものはほとんどない。(Kindle版 位置: 753)
若いときには探索を、年を取ったら活用を
決定を下すときにいつもそれが最後の決定であるかのように考えるなら、確かに活用だけが意味をなす。
しかし一生のあいだにはたくさんの決定を下すはずだ。それらの決定に関して、とりわけ人生の序盤には、探索 ──最良のものよりも新しいもの、安全なものよりおもしろいもの、熟慮されたものよりもランダム なもの── を重視するほうがじつは合理的ではないか。(Kindle版 位置: 1,408)
合理性をどう考えるか
人はほぼ絶え間なく、コンピューター科学で困難なケースと見なされる状況に向きあっている。
このようなときに有効なアルゴリズムがあれば、推測を行ない、より単純な解決策を優先し、エラーのコストと遅延のコストのトレードオフを行ない、賭けに出ることができる。
これらは合理的なやり方が使えないときの妥協策ではない。まさに合理的なやり方なのだ。(Kindle版 位置: 6,680)
おわりに
この本の中で紹介されている問題、アルゴリズムによる解決方法は、これまでコンピュータサイエンティストが全力で取り組んできたものです。その意味では、アルゴリズムから学ぶことも、最初に紹介したような人から学ぶ構造と同じでしょう。
ただし、問題解決について学びたいのであれば、中途半端なプロフェッショナルのスキル本を読むよりも、コンピュータがどう考えているかから学ぶほうがよっぽど良いと思います。コンピュータは問題解決のプロフェッショナルです。その中に組み込まれたアルゴリズムには、何千何万という優れたコンピュータサイエンティストの叡智が詰まっているはずですから。
記録#2『それでも人生にイエスと言う(V・E・フランクル)』ナチス強制収容所からの帰還。
ヴィクトル・E・フランクルの「それでも人生にイエスという」を年末年始に読みました。
オーストリアの精神科医で、第二次世界大戦時には強制収容所に送られそこで家族の多くを失いました。戦後は精神療法医として活動しつつ、"生きること"に関して多く発信をしました。『夜と霧』が有名で、アメリカ図書館協議会によると「歴史上これまで最も多く読まれた10冊の書物のうちの一つ」とされています。
- 作者: V.E.フランクル,山田邦男,松田美佳
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 1993/12/25
- メディア: 単行本
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この本は、ナチスの強制収容所から開放された翌年にウィーン市民大学で行った3講演の記録です。1本目は「生きる意味と価値」、2本目は 「病を超えて」、3本目は「人生にイエスと言う」と訳されています。
とても素敵な本です。ぜひ皆さん読んで下さい。
いつも誰にでも役立つアドバイスなんてない
それはたとえば、チェスの世界チャンピオンにインタビューして、「ところで、先生、どういう手が一番いい手だとお考えでしょうか」と尋ねるようなレポーターの質問が、とんちんかんなのと同じです。そもそも、全く特定の、具体的な勝負の局面、具体的な駒の配置を離れて、特定のいい手、そればかりか一番いい唯一の手というものがありうるでしょうか。(pp.30)
世の中にある、「こうすればすべてうまくいく!」みたいなお話って、ほんまかいなと。「幸せ」をキーワードにAmazon検索すると、ダイエットや筋トレ、ヨガ、占い、ペン字にいたるまで、「これをやると幸せになれますよ」って本が溢れています。
どんな人、どんなときにも無敵の一手なんて存在しない。その場その場での最善手があるのみです。
ちなみに将棋の羽生善治さんは著書「上達するヒント」で、形成を判断する要素として、
- 駒の損得:自分が適切な武器・ツールを持っているのか、失っていないか
- 手番:相手の先手をとれているのか・機先を制せているか
- 玉の堅さ:守りの体制は十分か、急所はないか
- 駒の効率:自分の武器を活かせているか、不活の駒がないか
を挙げています。何を優先するのか、何は犠牲にしてもよいのか、それを踏まえて次の一手が決まります。
スポーツというまさに人間らしい活動
困難に対してどのような態度を取るかということのうちに、その人の本来のものが現れ、また、意味のある人生が実現されるのです。私たちは、スポーツマン精神という本当に人間らしい精神も忘れてはなりません。スポーツ選手がすることといえば、困難によって成長するために困難を作り出すことにほかならないではありませんか。(pp.38)
今年はオリンピックもワールドカップもあります。盛り上がりましょう!
創造は誰にでも可能
一流のスープは二流の芸術作品より創造的である(pp.189)
A.マズローの言葉らしいですね。
学校にいるときは美術や音楽の成績が悪くて、創造的な活動と全く縁のなかった私ですが、今年はなにか良いものを創れればと思います。
問わない、応える。
私たちが「生きる意味があるか」と問うのは、はじめから誤っているのです。つまり、私たちは、生きる意味を問うてはならないのです。人生こそが問いを出し私たちに問を提起しているからです。私達は問われている存在なのです。(pp.27)
V・E・フランクルのいちばん有名な思想と言ってもいいと思います。我々が人生の意味を問うのではなく、人生が我々に意味を問いかけてくれるんだと。
それがなぜなのか、ぜひ本を読んでみてください。
イエスから始める、そんな2018年にしたいと思います。
記録#1『自動人形の城(川添愛)』コンピュータとの対話は人を優しくする。
年末に読みたかった本のうちの一冊、川添愛さんの『自動人形の城 人工知能の意図理解をめぐる物語』を読みました。その読後感想です。
自動人形の城(オートマトンの城): 人工知能の意図理解をめぐる物語
- 作者: 川添愛
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2017/12/18
- メディア: 単行本
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あらすじ
勉強ぎらいでわがままな11歳の王子.彼の浅はかな言動がきっかけで,邪悪な魔術師により城中の人間が人形に置き換えられてしまった.その絶望的な状況に王子はどう立ち向かうのか? そして,城の人たちは無事帰還することができるのか? 「人工知能」と「人間の言葉」をテーマとして,『白と黒のとびら』『精霊の箱』の著者が創作する新たな世界.
(東京大学出版会Web)
過去の記事でも紹介した、「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」に引き続き。前作、言語とは何か?コンピュータにとっての言葉とは何か?について、物語でわかりやすく伝えてくれる素晴らしい本でした。
もう少し詳しく
今回の本のテーマは、人工知能(AI)。
舞台はハルヴァ王国のクリオ城。11歳のルーディメント王子は勉強が大嫌いで、新しくついた教育係のパウリーノのお陰でやっと文字が読めるようになったところ。おまけに身勝手でわがまま。
「ここ数日、王子様のお目覚めがよくなさそうなので、みな心配しているのでございますよ。何かご不満があるのなら、言ってくださいまし」
王子はますます不機嫌になる。言わないとわからないのか?何も言わなくても僕の気持ちを理解するのが、お前たちの仕事だろうに。それなのに、「分からないから言え」と逆位こちらに命令するとはなんと無礼なことだろうか。(pp.2)
優秀な召使や衛兵で守られていたクリオ城。国王が留守の間に、魔法使いドニエルの口車に乗った王子の発言のせいで、パウリーノは黒猫に、他の人間はすべて自動人形に変えられてしまう。自動人形は、人の言葉を理解し、人と同じように動くことができ、なんでも言うことを聞かせることができる。ただ、それだけしかできません。
- 「アン=マリー、この服の襟元をゆるめてくれ」→襟を破る→「なんでこんなことをするんだ!」→「私は自分の手で、こんなことをしました」
- 「カッテリーナ。僕、お腹がすいたんだけど」→「私のお腹は、すいていませんわ」
- 「門の中に誰も入れるな」→自分も入れなくなる
王子は大混乱。誰も自分の思い通りに動いてくれない。甘やかされてきた王子は自分で服を着ることもできなければ、満足に食事をすることもできません。
そんな中、王子は叔父のサザリア公がハルヴァ王国の乗っ取りを目論んでいることを知ります。サザリア公は、王国を支えるソラッツィ主教会の副大主教キーユ・オ・ホーニックをクリオ城に招き、王子の愚かさを彼に知らしめることで王位を継ぐのは自分だとアピールすることを考えます。
副大主教の来城は7日後。城にいるのは自分と自動人形だけ。追い詰められた王子は、黒猫パウリーノの力を借りながら、少しずつ自動人形の扱い方を学んでいきます。
- 会話なのか、命令なのかをはっきりさせたほうがうまく扱えること
「ナモーリオ。僕、その本を見たいんだけど」
「私もぜひ、見てみたいです」おかしな返事。これは予想通りだ。「その本を見たい」と願望を言うだけでは、人形への命令にはならないのだ。王子は言い直してみる。
「ナモーリオ、その本を僕に渡してくれ」
するとナモーリオは目を光らせ、机から台帳を手に取り、王子に渡した。
(やっぱり、正しかった)
(pp.61)
- 自動人形は、"目的"を理解できないこと
「さっき、あの人形が卵をあんなふうに割ったのは、こっちの目的がわからないからなんだ。普通、厨房 -つまり料理をする場所で、『卵を割ってくれ』って言われたら、料理に使うために割るんだな、と思うだろ?そしてそう思ったら、卵の中身を受け止める器をまず用意するものだし、できるだけ中身が壊れないように、そして殻が混ざらないように、十分に気をつけて割るもんだ」(pp.138)
- 全部のときには全部、一つのときには一つ、一部のときにはどの部分かを伝えたほうがよいこと
そうだ、と王子は徐々に思い出す。ただ「矢」や「パン」とか言うと、人形は「一本の矢」「一個のパン」と考えてしまうのだ。だから、矢を全部拾ってほしいときには「全部」とはっきり言わないとだめだし、パンを二個取ってほしいときは「二個」と言わなければならない。
(pp.147-148)
- 人間の心づもりによって定義がころころ変わるものには対応できないこと
パウリーノは思い出した。かなり昔、魔術の師匠のベルナルドが「人形には、『ごみ』という言葉が伝わらない」という古代の記述を見つけたことがあったのだ。(pp.164)
『ごみ』を例に上げると、我々が何らかのものを『要らないから捨てよう』と判断した時、それに『ごみ』という言葉を貼り付けたことになる。しかし、『やっぱり必要だ』と思い直したりすると、その物体は『ごみ』ではなくなる。つまり、『ごみ』という言葉を剥がしたことになる。(pp.165)
- 自動人形に面白さや笑いを教えるのがとてもむずかしいこと
「『笑い』の難しいところは、人に笑いを引き起こすものが何なのか、よくわかっていない点です。怒りも悲しみも喜びも、その根源まで突き詰めれば、人がその生存を脅かすような危機を感知したり、逆にそういった危機から離れたりする事に関係のある感情です。つまり、生存の可能性に強く関係している。それに対して『笑い』は、一見したところ、生存可能性との関係が明確ではありません」(pp.209)
王子はうまく自動人形を扱い、副大主教との食事会を乗り切り、サザリア公から城を守りきることができるのか。ハルヴァ王国の行方は。
読後雑感
黒猫パウリーノの支援を受けながら成長していく王子に微笑みつつ、終盤はハラハラしながら読みました。お話として、とても面白いです! 最初の50ページくらいは「王子お前ほんまいいかげんにしろよ」と思いながらイライラします。
王子が自動人形にいろいろ命令してみるもうまくいかないシーンでは、プログラミングでエラーが出たときのことが頭をよぎりました。笑
コンピュータと対話することは人を優しくする
「自分が相手に対して何を期待しているか」を明らかにしないとコンピュータは動いてくれません。そしてそれを、コンピュータがわかる言葉で、彼らが従う形式で伝えなければいけません。適当に伝えて、「後はあなたが解釈してください」ではうまくいかないのです。
2017年読書ログ記事でも紹介した「理解の秘密」という本の中で、
大事なのは、簡単にではなく明確にすること
という言葉が出てきます。 自分が何を望むのか、それを明確にして、明確に相手に伝えること。それが明確に実現されるような適切な手段で。
コンピュータと対話することは、自分が求めることを明確にし、それを相手がわかる言語へと変換し続ける行為だと思います。それはつまり、自分という存在を相手の立場から見つめ続けることです。
期待通りに動かしたいなら機械やコンピュータは素晴らしい
自動人形は疲れることがありません。一度指示をすればそれを守り続けます。王子のようにわがままを言うこともなければ、命令が長いからといって途中でそれを遮ることもありません。
日常生活の中にもルンバやAIスピーカー等の"自動人形"がどんどん入ってくるのは素晴らしいことだなぁとあらためて感じます。
それでも、人の期待を超え続けてこそ
「...ですが、こうは思われませんか?あなた様が下僕たちに望むのは、単にあなたの命令を忠実に実行することでしょうか?むしろ、その命令の裏にある『あなたにとって大切なこと』を彼らが理解し、それに配慮した上で、最も良い行動を選ぶことが望ましいのではないですか?そしてそのために必要なのは、彼らが『自分にとって大切なこと』を判断する力を使って、『あなたにとって大切なこと』を想像することではないでしょうか?」
ドニエルは黙って聞いている。ポーレットはさらに続ける。
「もちろん、他人同士のことですから、相手のことが常に正しく想像できるとはかぎりません。時には、間違うこともあるでしょう。しかし、私はそれでかまわないと考えています」
「間違ってもいいというのか?主人の意に沿わないことがあっても良い、と?」
「ええ。他人の意に沿えるかどうかには、賭けのような側面があります。でも、私はそれを恐れてはいません。むしろ、真の意味で他人の意に沿うためには、結果的に相手に逆らうことになってもかまわないと思えるほどの、強固な意志と創造性が必要であると考えています。つまり、私にとってそれは、一種の芸術なのです」(pp.239)
とても良い本でした。
週刊誌のAI特集なんか読まずに、これを読みましょう。
まとめ#15 2017年】今年の27冊
こんにちは。2017年もそろそろ終わりですね。
来年2018年ですが、父と兄、私の年齢がすべて素数になるという、最高の年になるであろう予兆が出ているのですでに楽しみです。
年末の読書ブログも今年で5年目です(過去記事→13年、14年、15年、16年)
今年読んだ本161冊のうち、読んでよかったなと思う本を少しのコメントと一緒に紹介していこうとおもいます。
書いている人の紹介
- チーム医療・チームケアを支援するMedicalCare Station運営チームで働いています。
- 長野出身。
- たまねぎと大泉洋さんが好きです。
- 知識と対話の力を信じています。
目次
本の紹介
よりよい仕事をするための本
キングダム
キングダム 48 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 原泰久
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2017/11/17
- メディア: Kindle版
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さっそく漫画です。(全48巻読んでますが1冊としてカウントしてます一応...)
圧倒的に面白いのはもちろんですが、「キングダムに学ぶ~~」的な本が出るほど*1リーダーシップや組織運営について示唆があります。
王騎、王翦、桓騎、楊端和、蒙驁、蒙武、騰、昌平君、李牧、廉頗、媧燐*2、、、、優れた武将には哲学があって、人を魅了します*3。そしてその人の色にあった組織が出来上がる。個性がない武将、色がない組織は簡単に消えていきます。(漫画なのでそりゃそうなんですが)
学びの深い漫画でした。そして、普通に泣きます。何度も。
現代中国経営者列伝
キングダムは秦の始皇帝を描いた本ですが、現代の中国の経営者の方々のお話も同じくらいドラマがあって面白いです。
HaierやLenovoと言った誰でも知ってる会社から、Alibaba、騰訊(Tencent)、華為(Huawei)、小米(Xiaomi)まで、各創業者の成り上がりストーリー。
この30年の中国の経済成長は、盆と正月が一緒に来たならぬ、「明治維新と高度経済成長が一気にやってきた」状態である(本書pp.5 序章)
国家と政策に翻弄されながら主に30代以降に成り上がっていった創業者たちの精神は、シリコンバレー等での成功物語として語られる人たちのそれとは大きく異ると感じました。これを読んで以来、スマホはずっとHuaweiです。
BIG MAGIC 「夢中になる」ことからはじめよう。
- 作者: エリザベス・ギルバート,Elizabeth Gilbert,神奈川夏子
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2017/10/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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読んだタイミングがよかったのか、この3ヶ月で一番"救われた"本でした。著者は、「食べて、祈って、恋をして(原題: Eat, Pray, Love)」を書いたエリザベス・ギルバート。
インスピレーションが降臨してくるときや、すばらしい芸術作品を堪能しているとき、最高の忘我の境地を何回か経験しました。そして、芸術的直観の源泉は神聖で奇跡的なものであると、固く信じています。しかし、だからといって、何もかもをひどく深刻にとらえる必要はないのです。なぜなら、つまるところ人間の芸術表現は、ありがたくもすがすがしいほどに、余剰の活動だからです。 まさにこの理由のために、私は創造活動を愛しているのです。(Kindle版 位置:1,901)
たしかに、お金はあったほうがいいとは思います。でも、創造的な人生を生きるためにお金だけが必要なのだとしたら、大富豪こそがこの世でもっとも想像力豊かで、新しいものを生み出し、独特の考えを持つ人たちであるはず。けれど、現実は違います。すべての人間にとって、創造性を育むために必要不可欠なのは、勇気を持ち、魔法を受け入れ、許されていると知り、決してあきらめずに、信じ続ける心です。しかもこれらはみな、誰の手にも届くところにあります。だからといって、創造的な人生がつねに楽だというわけではありません。けれど、やろうと思えばいつでも手に入るものなのです。(Kindle版 位置:2,067)
私が大好きな、素敵な言葉がたくさん出てくる真っ直ぐな文章ばかりでした。今この瞬間、何かを作ろうとするすべての人におすすめです。
楽しく学べる「知財」入門
このAmazonで表示される表紙だと良さが出ないんですが、もう最高なんですよ。
『楽しく学べる「知財」入門』の表紙がグッと心を惹きつけると話題に! - Togetter*4
本の内容としては、知財の分類(著作権・特許権・実用新案権・意匠権・商標権 等)とその違いを示した上で、それぞれが認められるとき、認められないときを裁判の実例ベースで紹介しています。
良い意味で、著者の稲穂さんは"知財オタク"なんだと思います。こんな判例どっから見つけてくるんだろう...
How Google Works 私たちの働き方とマネジメント
How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス) ―私たちの働き方とマネジメント
- 作者: エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ,アラン・イーグル,ラリー・ペイジ,土方奈美
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2014/10/09
- メディア: 単行本
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少し前の本ですが、それでもなお魅力を失わない、素敵な本でした。
出てからだいぶ時間がたった本ですし、内容については詳しいブログがたくさんあるので、割愛します。*5
広告を中心としたビジネスモデルでいろいろ言われることのあるGoogleですが*6、そもそもの検索サービスはもちろん、gmailやGoogle map、Google Driveなんかでものすごい貢献を世界に対して為していると日々感じます。技術の果実を感じながら、前向きに生きていけたらなぁと思う次第です。
野村證券第2事業法人部
私の読後第一感は、「なるほど、一昔前の株屋さんは詐欺をやっていたのか」でした。笑
2017年は住友銀行秘史だったり生涯投資家(村上ファンドの村上世彰さん)だったり、過去/現在の訴訟に絡んだ金融マンの暴露的な本が数冊出ました。どれを読んでも、内向きでエゴイスティックなお話で、距離をおいて読んだから良いものの関係者だったら直視できないだろうという内容です。
お金でお金を増やすという世界からはできるだけ離れておきたいなぁという思いを新たにした本でした。
STARTUP:アイデアから利益を生み出す組織マネジメント
STARTUP(スタートアップ):アイデアから利益を生みだす組織マネジメント
- 作者: ダイアナ・キャンダー,牧野洋
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/08/25
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事業がうまく行かず倒産寸前のスタートアップ創業者を主人公に、小説の形式で事業運営の原則を語る本です*7。「顧客の偏頭痛級の課題を発見せよ」が一言サマリー。
- 原則① スタートアップの目的は顧客を見つけることであって商品を作ることではない
- 原則② 人は製品やサービスを買うのではなく、問題の解決策を買う
- 原則③ 起業家は探偵であり、占い師ではない(どんな起業家にも未来は予測できない)
- 原則④ 成功する起業家はリスクを取るのではなく、運を呼び込む
「これをやると●を安く顧客に届けられます」→「それって顧客のなんの課題を解決しているの?」、「このプロダクトは☓☓という技術を使っていて、、」→「顧客にとってなんの価値があるの?」、よく見るQ&A...
原則④を説明するためなのか、本の舞台はラスベガスのポーカー会場。読んだ後、ポーカーを始めてみたくなりました。
世界を正しくみるための本
鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。
家の近くにIncubatorっていう素敵なサイエンスバーがありまして(食べログ)*8、そこで1~2ヶ月に一度開催される「研究者Live!」ってイベントが最高なんですよ*9。
など魅力あふれるタイトルの会が並ぶんですが、私が特に感動したのがカマキリと渡り鳥に関する会でした。自然とは、生物とはなんて美しいんだろう、なんて奥深いんだろうと感嘆ものです。
この本からは、鳥類学者の著者の戦いと、一方で生物に対する畏敬の念が見えます。そして、真摯な研究者の姿が見えます。タイトルはあれですが、「鳥、好きじゃん」ってなります。
動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか
動物は動物でも、こっちの本は大真面目です。いかにもフランス人、って感じの文の書き方でした。(そんなにフランス人のこともその文章のことも知らんけど)
問題意識がその時の私にどストライクで、
- そもそもむっちゃ脚が速いやついるし、
- 手帳もペンもないのに食べ物の保存場所を忘れないし、
- カーナビも地図アプリもなく長い距離を正確に移動できるし、
動物すごい、、、と思っていました。
ただ、上の項目も結局人間目線でのできること・したいことを軸に動物を評価しただけなので、もう一段階メタで認知しないと動物の本当の賢さは見えてこないんでしょうね。
ホッキョクグマは「人間って裸だと15℃のところに放置すると死ぬの?ショボ」と思うだろうし、ナマケモノは「人間って一日16時間~も活動しないと生命維持していけないの?ショボ」と思うかもしれないし。動物すごい。すごい世界がまだまだある。
バッタを倒しにアフリカへ
紹介している本の中でも、ベストの1冊です。一気に読みきってしまった思い出。
以下、4-6月まとめのときのレビューから。
--
研究のしすぎでバッタアレルギーになるほどの前のめりさ。研究室を抜け出してフィールドワークをするために、モーリタニアへ。
一番はっきりと覚えているのは、現地の研究所所長が著者に対して「電線に5羽の鳥がいて、手元の銃には3発の弾がある。何羽しとめられるだろう?」と問いかけるシーです。さて、一体何羽でしょう?
気になる方は、ぜひ手にとってみてください。
--
著者の前野ウルドさん、現在研究の旅に出られている模様。
私は、研究のことを世に知ってもらう宣伝活動と研究活動の2軸を柱にバランスを考え、動いております。
私も、目の前の仕事と並行して、何かの研究をしたいなぁと思っています。
悲鳴をあげる身体
自分が3月に書いた感想から。
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過食や拒食、ピアシングといった体へのある種の暴力と、筋トレやライザップ的ダイエットなどに代表される身体を管理下におく取り組みは、同一線上にあるのだろうと個人的には思います。この本を読んで、もっと感覚器官としての身体に任せて、遊びと余裕を持って、楽に過ごしていきたいな、と感じました。
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先々月くらいまで体重が着々と減っていたんですが、最近だいぶ戻すことに成功しました!!!!!成功しました!!!!!
数学小説 確固たる曖昧さ
- 作者: ガウラヴスリ,ハートシュ・シンバル,Gaurav Suri,Hartosh Singh Bal,東江一紀
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2013/02/01
- メディア: 単行本
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大丈夫、数学に詳しくなくても読めます。
数学的心理こそが絶対で唯一の真理だとするインド人の青年がアメリカ・NY近郊の宗教色の強い街を訪れたところ、「キリストを侮辱した罪」で捕まってしまう。勾留中、判事とその青年は一対一で「神とは?」「真理とは何か?」「数学はそれにどう貢献するか?」「そもそも数学的な真理とは何か?」について語らっていきます。
「なんとなく正しいっぽい」で成り立っているもの、だからこそ成立しているもの、たくさんあります*10。
「完全に正しいもの」を「正しくないもの」or「わからないもの」と誤認しないことや完全な正しさを証明していくことも大事ですが、単なる「正しいっぽいもの」を「完全に正しいもの」と信じ込んでしまわないことは更に大事なんじゃないかと思います。数学は、それを私たちに教えてくれます。
孫子
言わずと知れた古典、孫子。キングダム(上述)に影響されて再読しました。
高校生の時に古典で教わったときの孫子のイメージは「戦争はこうやったら上手くいくで!」ってことを書いた本だったんですが、今読むと「戦争は国民の一大事や。やる前によく考えや。やるとしても交渉や計略から入りや。城攻めはあかんで。戦うならぱっと終わらせや。ぱっと終わらせるにはこうしたらいいで。」ってところまで丁寧に書いてあって、戦略の本であって、ロジックの本であって、理念の本でした。
特に私が美しいなとおもった文章はこれ。
乱は治に生じ、怯は勇に生じ、弱は彊に生ず。治乱は数なり。勇怯は勢なり。彊弱は形なり。(勢篇 第五の四)
治まるか乱れるかは部隊編成の問題で、自軍が勇敢になるか臆病になるかは勢いの問題で、 強くなるか弱くなるかは軍全体の体制の問題である。
働きたくないイタチと言葉がわかるロボット
働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」
- 作者: 川添愛,花松あゆみ
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2017/06/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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これも前の記事に書いていました。下記、その引用です。
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「AIすげー!」「Amazon echoが*11!Google Homeが!」と週刊誌含めて喧しいですが、何を読んでも「人間ができることを代わりにやってくれる!例えば...」的な例示が中心で、原理原則の部分についてあまり理解が深まりませんでした。
そんな中でこの本です、「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」タイトル素敵すぎないですか。タイトルは緩めですし内容もとてもわかり易いんですが、すごくしっかりした自然言語処理のお話です。主人公のイタチたちがサボりたい一心で「自分たちの代わりに全部やってくれるロボット」を作ろうと、周りのいろいろな動物たちの知恵を借りながら(パクリながら)なんとかしようとするハートウォーミングストーリーです。
言葉を理解する、っていうことはどういうことなのか。音声で言えば、空気の振動・波を音に変換して、音を意味のある塊(単語)にまとめ上げて、文章として成立させる。その文章そのものの意味合いや文章と文章の間の論理的な関係、さらには発話者の意図を推論しながら、システムとしての回答を導き出すところまでやる。とってもハードルの高いそうな道のりですね。。ここにチャレンジされている研究者の方々、スタートアップの皆さん素晴らしい。。
働きたくない・怠惰でありたい、っていうのは新しい技術やサービスを生み出す大きな原動力になると思っているので、このイタチたちのことを馬鹿にせず見習いたいと思います。
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心穏やかに過ごすための本
人生ドラクエ化マニュアル
人生ドラクエ化マニュアル<オーサーズエディション>: 定価5,500円のドラクエに面白さで負ける人生を送ってどうする!? (JUNZO)
- 作者: JUNZO
- 出版社/メーカー: JUNZO
- 発売日: 2015/04/25
- メディア: Kindle版
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ゲームが大好きでゲームプロデューサーになって、面白いゲームの要素を突き詰めたら
- 目的
- ルール
- 敵
の3つが必要な要素だと気づいた*12。ある日、この3要素を自分の人生に投入したら、ドラクエのように人生がワクワクする体験に変わるんじゃないかと思いつく。
人間がプレイするゲームとは、
- 目的:デフォルト設定はなく自由に追加変更可能
- 経験値:勝っても負けても勝手に貯まる
- シナリオ:画一的な事前シナリオはなく偶然が支配
- プレイヤー:好みや得意分野が別れる
- 形式:4Dリアルタイム現実体感型
- 選択可能コマンド:無数に存在
- ゲームオーバー:測定不能の時間制限あり。強制終了。コンティニュー不可。
ルール"もどき"に流されず、面白いゲームを作って、プレイしていきたいです。
〆切本
文章をお仕事にする方々の、「〆切」というものに対する恐怖・怨念が詰まった本でした。ある人は最近の体調や世の中の動向について長々と書いた上で最後の一行「間に合いそうにないので原稿遅れますよろしく」と書いてみたり、またある人は間に合わない理由を丁寧に述べ、またある人は「こんなに〆切を守れないものなんだなぁ私は」とその様を文章にしてしまう。
外山滋比古さんは、
仕事を先にのばせば、いくらでものびる。そしてのびた仕事ほど、やりにくくなる。あがりもおもしろくない。兵は拙速をたっとぶ。どうせ上々の首尾などということは叶えられないことだと諦める。(中略)
今日できることを明日に延ばすな。(pp.282-283 〆切の効果・効能)
といいますが、それができないのが人間というものでして。
表紙にある、「背景 〆切に遅れそうです」とだけ書かれた手紙をいつの日か出してみたいです。
反応しない練習
反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」
- 作者: 草薙龍瞬
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/中経出版
- 発売日: 2015/07/31
- メディア: 単行本
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Amazonランキング大賞2017の「趣味・実用・自己啓発」ジャンルにランクインしていました。私も素晴らしい本だと思いました。
下記、1-3月の投稿で書いた書評の一部です。
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世の中のほとんどのことは自分ではコントロールできないから自分に都合の悪いことを起きないようにすることはできない、その事実をまず受け入れよう。ただし、日々の怒りだったり嫉妬だったりは(自分が勝手にしている)反応であって、「これは単なる自分の反応だ。この反応するかどうか、自分は選択できる」と認識できれば、人はもっと心穏やかに充実して過ごせるはずと。
タイトルの通り、超・合理的。
別のところで、女優のジョディ・フォスターが、
Being understood is not the most essential thing in life.
とおっしゃっているのを聞いて、これも素敵だなぁと思いました。good quoteです。
なんかいらいらするなぁとか、どうも不安が抜けない、そんな人は是非。楽になります。
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あらためて、"Being understood is not the most essential thing in life"って素敵な言葉ですね。
鈍感な世界に生きる 敏感な人たち
"Highly Sensitive Person (HSP, むちゃ敏感な人の意)"というのを、この本を読んで初めて知りました。要は感受性が強くてすぐ動揺するような人とのことです。(判定するテストが載っているブログはこちら)
私も試しにテストしてみたところ、判定基準を大きく超過し見事HSP認定されました....!!
自身がどういう結果になるにせよ、人の内面は多様で、理解しようとする姿勢を失ってはいけないと感じます。敏感な人たちでも落ち着いて生きていける、素敵な世界を。
いま、死んでもいいように
人生の不条理さについて、そうだなぁそうだなぁという言葉が多くありました。
①満足したいと思うように脳が設計されているくせに、その脳は絶対満足しない。
②死を避けたがるように脳が設定されているくせに、絶対死ぬ。
(Kindle版 位置: 363 )
「人は、死んですべてを失う」ではなく、「この私が、死んですべてを失う」のです。この私が、死ぬ。いなくなる。
それを忘れているので、つまらないものを大事だと思いこんで追い求めもし、つまらない違いにこだわって言い争ったりもするのです。
そうか、どの道、私はそのうち、すっぱりきっぱり退場して、いなくなるのだ。だったら、これも、あれも、けっこう、どうでもいいじゃないか。
明日も、明後日も、半年後も、一年後も、十年後も、その後もずーっとこの意識が永続するかのように錯覚しているからこそ、争いたくもなるのです。つまり、生存欲求の延長線上で永遠に生きるかのような気にさせられているからこそ、です。(Kindle版 位置: 2,026)
そう思ったら、細かいことでごちゃごちゃ考えず、腹をくくってやるだけだなと*13。
技術を磨くための本
理解の秘密
理解の秘密―マジカル・インストラクション (BOOKS IN・FORM Special)
- 作者: リチャード・ソウルワーマン,Richard Saul Wurman,松岡正剛
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 1993/04
- メディア: 単行本
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デザインのことを学びたくてフォローしているThe GUILDの深津さん(彼のnoteブログはこちら) が紹介していた本です。彼が紹介した瞬間にAmazonから在庫が消え去って、定価2,800円の本が一時40,000円超えしていました*14*15。笑
仕事上での指示、本書の中ではインストラクションと呼ばれますが、これには5つの要素があると整理されています。
- 送り手:誰がそのインストラクションを出すか
- 受け手:誰がそのインストラクションを受け取るのか
- コンテンツ:インストラクションの内容は何か
- チャンネル:インストラクションはどのようにして送り手から受け手に届くか
- コンテクスト:インストラクションの事前に上記4つはどのような状態にあったか
世の職場には、"欠陥インストラクション"だらけです。そのときには、上の何かが狂っているのです。コミュニケーションや対話をデザインするチームに所属する人間として、とても学びのあった本でした。
大事なのは、簡単にではなく明確にすることだ (pp.169 方法はいくつもある)
本書の中で特に心に残っている言葉です。
アルゴリズム思考術
コンピュータはどう考えているか(あるいは、人はコンピュータにどう考えさせているのか)を踏まえて、人間もそれと同じように考えてみるとどうなるだろう?という問題提起です。
例えば、最適停止問題。
私が学んだ経済学部では、人間は判断する対象にかかわるすべての情報を理解した上で(完全情報下で)その時の最適な"選択"をするんだと教えられました*16。しかし、現実世界では、すべての情報が手元に揃うことはありません。
われわれは、合理的な意思決定とはすべての選択肢を徹底的に調べ上げて入念に比較したうえで最良の選択肢を選ぶことだと信じ込んでいる。
しかし実際には、時計(または心臓)が音を立てて動いているとき、意思決定(あるいは思考全般)のさまざまな側面のなかで、やめるタイミングほど重要なものはほとんどない。(Kindle版 位置: 753)
本を読んでいて、コンピュータはこんな処理をしているのか!っていう驚きもあり、学びの深い本でした。また読み直したい。
後もう一つ。未来を明るく感じさせてくれる言葉もありました。
晩年とは、何十年もかけて集めてきた情報を活用する機会である。おそらくそう考えることで得られる最も深遠な洞察は、人生は時間とともによくなるはずだということだ。(Kindle版 位置: 1,459)
将棋・ひと目の手筋
今年改めて将棋を始めまして、将棋ウォーズでアマチュア1級になりました。お願いしたら免状ももらえるらしいです。いま申請したら羽生竜王の署名が...!!
最初強くなるには、まずは詰将棋と手筋の勉強を!ってことだったので、空き時間に少しずつ、繰り返し読んでいます。渡辺現棋王監修のこの本は、シンプルで解説もわかりやすいので大好きです。
2018年は将棋センターにも顔を出して対面で指す経験をつみたいです。東京在住で夜や週末に時間がある同じくらいのレベルの方、ぜひ指しましょう!
みんなのPython 第4版
年初からPythonを少しずつ触り始め、10月からはデータサイエンスの講座にも行ってみました。Web上の動画講座だったりいろいろあるんですが、自分のペースで行きつ戻りつ勉強したいなと思いこの「みんパイ」で勉強しました。
Facebookグループで著者の柴田さんがPythonの参考記事をシェアしてくれるので、それも役立っています。
来年は何かのデータを触って形にして、もっとPythonとの関わりを深めていきたいと思います!
年末年始に読みたい本
自動人形の城
自動人形の城(オートマトンの城): 人工知能の意図理解をめぐる物語
- 作者: 川添愛
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2017/12/18
- メディア: 単行本
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上で紹介した「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」の著者・川添さんが出した本。
問題解決大全
い、いちおう仕事に役立つ本も読まなきゃなって...
わが半生
ストア派哲学に関心が高まっています。現代でその一番の実践者の一人、チャーチルの人生から何かを学び取りたいと思っています。
上達するヒント
将棋ももっと強くなりたいです。
キングダム
正座で読み直します。
以上です。みなさんも、良い年末と、素晴らしい2018年をお過ごしください。
*2:さすがGoogle日本語入力、予測変換にすべて出てくる...
*3:わたしは桓騎が好きです
*4:智辯和歌山のCと混同した私は、広島カープファン失格かもしれません...
*6:http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-taira/google-new-america_a_23195659/
*7:この主人公がやっているハイエンドなロードバイクを低価格で提供してくれるサービス、ぜひ利用したい...
*8:私はそこで博士号を取得しています。15回訪れると取得できます
*9:お店自体が最高なのでイベントがなくても楽しめます
*10:「正しいっぽい」の精度が99.9999999999999999999%だったりするんですが、100%とはいいきれない
*11:今年Alexaを家に導入したのですがまだただのニュース読み上げ機です
*12:同じタイミングで読んでいたテトリスに関する本について、最初期のテトリスは目的も敵もないゲームだったにも関わらず人を熱狂させたことについて考察されていた
*13:上に紹介したBIG MAGICと合わせて読んで、人がするすべての活動なんて結局余剰なんだから「真剣にやれよ!仕事じゃないんだぞ!」という言葉はまさに真なり、と思ったりしました
*14:記事を書いている12/26時点でも19,147円です
*15:わたしは1,000円くらいで買えましたよかった...
*16:間違っていたら私が寝ぼけて授業を聞いていなかったせいです
まとめ#14 2017年7~9月】読んでよかった本5冊
こんにちは。 今回も淡々と、読んで面白かった本を紹介していきます。
働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」
- 作者: 川添愛,花松あゆみ
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2017/06/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「AIすげー!」「Amazon echoが!Google Homeが!」と週刊誌含めて喧しいですが、何を読んでも「人間ができることを代わりにやってくれる!例えば...」的な例示が中心で、原理原則の部分についてあまり理解が深まりませんでした。
そんな中でこの本です、「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」タイトル素敵すぎないですか。タイトルは緩めですし内容もとてもわかり易いんですが、すごくしっかりした自然言語処理のお話です。主人公のイタチたちがサボりたい一心で「自分たちの代わりに全部やってくれるロボット」を作ろうと、周りのいろいろな動物たちの知恵を借りながら(パクリながら)なんとかしようとするハートウォーミングストーリーです。
言葉を理解する、っていうことはどういうことなのか。音声で言えば、空気の振動・波を音に変換して、音を意味のある塊(単語)にまとめ上げて、文章として成立させる。その文章そのものの意味合いや文章と文章の間の論理的な関係、さらには発話者の意図を推論しながら、システムとしての回答を導き出すところまでやる。とってもハードルの高いそうな道のりですね。。ここにチャレンジされている研究者の方々、スタートアップの皆さん素晴らしい。。
働きたくない・怠惰でありたい、っていうのは新しい技術やサービスを生み出す大きな原動力になると思っているので、このイタチたちのことを馬鹿にせず見習いたいと思います。
不思議で美しいシリーズ。他にも貝やミクロ世界があるのですが、山だらけ・長野県出身の私としてはまずは石でしょうと。
紹介されている石は瑪瑙という種類のもので、石英なんかが層状に積み重なって独特の色合いを出すもので、きれいだなぁって柄もあればぎょっとするものもあります。
何も考えずただただボーっとしたいときは、チリやメキシコで取れる石の断面図を見ることで癒やされております。
次はミクロ世界版を買ってみよう。
再読。
ワーナーパークという架空の外資系消費財会社をモデルに、そこで30年間に渡りコントローラーとして経理・財務の責任者を努めた日本人男性のお話。いろんなところの解説記事を見ると、ファイザーに買収されたワーナーランバートという会社がモデルのようです。
ごりごりビジネスの話かと思いきや、話の多くが社内政治のお話です。。でもそれがとても興味深い。本国から送られてくるCEOすぐ秘書と関係持ってまうやん、、、社内の別勢力を潰すために会社早上がりしてスナックみたいなところでくだまいてるやん、、、
タイトルの割に軽い内容が多いので、少し長めの移動が入ったときなどにばーっと読むのがリフレッシュになって良いかもしれません。
実はまだ読んでる途中なんですが、とても素敵な本なのでご紹介。
問題意識は邦訳タイトルそのままで、人は知性という点でヒトという種を特別視しすぎではないか、認知という視点で、ヒト以外の動物に驚くような何かがあるんじゃないか、そんな点を中心に展開していきます。
ちょっと前に読んだ「動物になって生きてみた」と合わせて、まだまだ自分は動物界の"天動説"の中でいきているんじゃないかと思うようになりました。ヒトが地球の中心で、その他の動植物は周辺物に過ぎない、かのように。(もちろん生き物はみな自分視点を捨てられない/捨てないけど)まだまだわからない、見えないことは多いですね。what a wonderful world。
現金、特に高額紙幣をなくしちゃおう、と提案する激しめの本。地下経済は現金を中心に回っていて、高額紙幣があることによる徴税漏れなどの損失は見過ごせないほど大きい、とのこと。たしかにVシネマに現ナマはつきもの。。
韓国なんかを見ていると国をあげてクレジットカード利用を奨励していて(そのためにレシート宝くじまでして)、そのおかげで脱税がごそっと減ったみたいなお話もありました。2013年には一人あたりの平均クレジットカード保有枚数が5枚、2014年には一人あたりの年間クレジットカード利用回数が150回くらいだと言うデータまで出されています。地下鉄のチケットまでクレカですからね。
貨幣ってなんだ?は経済学部の授業でもたまに出てくるふんわりトピックですが、ICOだったり仮想通貨なんかのニュースなんかも合わせてみると、またひと盛り上がりしていきそうなテーマだと感じます。
バーっと書いてしまって見直しもしていないので、誤字脱字、間違いなんかがあるかもしれません。ご容赦下さいませませ。
それではまた年末に。
まとめ#13 2017年4~6月】読んでよかった本5冊
こんにちは。
夜寝る前、移動中、お風呂の中、、、リラックスするのに読書は自分にあっているなぁと思う日々です。
この3ヶ月で読んだ本のご紹介です。
●スタートアップバブル
元Newsweek記者が、SaaSを提供するスタートアップのHub Spotへ。
50代のおじちゃんが(東海岸とはいえ)スタートアップ感満載の企業で苦闘する姿が描かれています。
WELQやらメルカリやらCASHやら、界隈は盛り上がりっぱなしですが、このような本もどんどん出てきて、議論が盛り上がれば良いなぁと思います。
●バッタを倒しにアフリカへ
この3ヶ月で一番心を揺さぶられて、一気に読みきってしまった本。いろんなところで書評が書かれていますね。
研究のしすぎでバッタアレルギーになるほどの前のめりさ。研究室を抜け出してフィールドワークをするために、モーリタニアへ。
一番はっきりと覚えているのは、現地の研究所所長が著者に対して「電線に5羽の鳥がいて、手元の銃には3発の弾がある。何羽しとめられるだろう?」と問いかけるシーンです。さて、一体何羽でしょう?
気になる方は、ぜひ手にとってみてください。
●鈍感な世界に生きる敏感なひとたち
自分自身、この本の中で紹介されるHSPというタイプです。
人と争うのは苦手。周りに合わせるのは得意。
そんな人たちにとって生きていきやすいコミュニティに貢献していきたいなぁと、改めて思った最近です。
●死してなお踊れ
時宗を開いた一遍上人のお話。
やたらとしがらみに溢れた武家の家に生まれ、そこから離れて出家したものの、なんてことはない、仏教界もしがらみだらけじゃないか。
そんな中でたどり着いた、踊り念仏というカタチ。
わたし自身あまり知らなかったんですが、数時間なんてもんじゃなく、数日間踊り続けるんですね。死者も出るほどだったとか。
浄土宗の極みである時宗ですが、一周回って、原始仏教に近づいていったようにも見えるのはなんかすごいなぁと思いました。
●クランボルツに学ぶ夢のあきらめ方
夢は代謝する。
この表現に会えたことだけでも価値のある一冊だったと思います。
お金は誰かが持ってっちゃうけど、頭の中のものは誰も持っていけない。
次の目標ができたら良いじゃない。
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こんな感じです。また3ヶ月後に。