記録#165 『デザインマネジメント』オフィスに一冊おいておきたい。
デザインマネジメント デザインをビジネス戦略に活かす基礎知識
- 作者: キャスリーン・ベスト
- 出版社/メーカー: 美術出版社
- 発売日: 2008/10/16
- メディア: 大型本
- クリック: 4回
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前記事に続き、デザインマネジメントの本。こちらのほうは、事例に深く入り込むというよりも、デザインプロジェクトを進める上で実務上気をつけること、のようなテイストの強い内容です。
デザインの領域
デザインマネジメントという言葉を使うときに、
- 戦略のレイヤー:組織全般の方針や任務、検討課題を定義するデザイン
- 戦術のレイヤー:事業や職能のチームやプロセス、システムのデザイン
- 運用のレイヤー:造形や色味を扱うクラシカルデザイン・ビジュアルデザイン
の3つの層を区別しています。想定しているのは、「デザインと言うと3つ目の内容ばっかりだと捉えられますけど、1~2もあるんですよ」ということ。
やっていることは、私がコンサルティングファームにいたときに対応していた内容と一緒。こういうところにデザイナーが参画してくると、アウトプットもぜんぜん違うでしょうね。
具体的に準備されたコンテンツ
著者自身がデザインファームの立場ということで、発注を受けたデザイナーがいかにしてしっかりした価値を出すか・それを伝えるか、というところに多くのページが割かれています。
デザイナーに限らず、コンサルタントやライターなど、外部者として企業プロジェクトに参画する人間にとっては重要な要素(クライアントコミュニケーションの方法、成果物の提示の仕方、等)が含まれていました。
特に参考になったのは、
- 案件キックオフのときに利用するクライアント・ブリーフ資料の構成・内容
- SMARTな目標、それぞれのゴールと優先順位
- 社員候補の注意を引き、雇用し、働き続けてもらうための論点
あたり。
さらには、巻末にあるデザインの領域における第一人者たちによる「デザインマネジメントとはなにか」ということに対するコメント。彼らの視点では、デザインマネジメントは、
- クリエイティブのマネジメントのみならず、ビジネスのマネジメントも含む
- 対象物のデザインのみならず、制作過程のマネジメントも含む
- 社内のみ、社外のみのマネジメントではなく、顧客やメディア、ステークホルダーも含めたプロジェクト全体のマネジメントも含む
- マネジメントのみならず、将来を見据えたリーダーシップも含む
と、かなり広い領域を対象にしています。
これを1人のデザインマネージャーが全て扱うのはほぼ不可能なので、マネジメントチームを大きくする等、分業をしながらこなしていくことになるんでしょうね。
大型本らしく、実務に役立つアイディアと個別の事例が混じり合った、良い本でした。
デザインマネジメント デザインをビジネス戦略に活かす基礎知識
- 作者: キャスリーン・ベスト
- 出版社/メーカー: 美術出版社
- 発売日: 2008/10/16
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記録#164 『デザインマネジメント』リフレーミング道具としてのデザイン。
東芝→amadanaでデザイナーととして活躍され、現在はデザインファーム代表をしつつ慶應大学のシステムデザインマネジメント分野で教授をされている田子さんの書籍。
「経営にデザインを!」と言われてる機会も増えたここ最近ですが、日本におけるデザイン経営・デザインマネジメント関連の本というと、これが最もポピュラーではないでしょうか。
デザインを経営に取り込む意義と、その要素
人間らしい暮らしを未来へとつないでいくためには、ロジカルな志向はそのままに、驚きや感動、喜びといった完成的なアプローチを加えたり、その双方を行き来しながら検討するプロセスが大事になる。それにより持続可能な企業活動が実現でき、結果として企業価値(ブランド価値)も向上する。
(本書 pp.24)
田子さんが語るデザインの三要素は、
- ロジック:本質を見つめ直し、リフレームする(多角的に要素とつなぎ合わせて再構築する中に論理という筋を通し、多様化した世界を最適化する総合力)
- センス:知覚を統合して知性を持って表現する(楽しさやワクワク缶といった見えない価値を見極める感性)
- ラブ:数値化できない人間の本質に迫る(商品を手に取る消費者も、それを作り出す生産者も、すべての人の心を充足されることを目指す慈愛)
この3つのすべてバランスを取ることことが、デザインマネジメントの本質だと。
デザイン=センス、と捉えている人がまだまだ多い中にあって、新鮮な視点でした。
なぜ?を問うデザイン
OSOROやnastaといった本書で紹介されている田子さんのプロジェクト事例を見るにつつけ、「なぜ?」という問いを大切にされていることがわかります。
- 対 顧客:そもそもの課題を発掘し製品の訴求ポイントを明確化する「なぜ?」
- 対 社内:社内で共感を生み出しメンバーを動機づけるための「なぜ?」
いずれのプロジェクトでも、まず最初に現場に足を運び、社員と話し、社史・社内報を通じて会社ごとを自分ごと化して「なぜこのプロジェクト・この製品が必要なのか」をまず問いかける。その後に、徹底してユーザーの視点に立ち、どのようなコンセプトの商品がなぜ求められるかを考え抜く。また、「なぜ?」を社内のプロジェクトメンバーにも植え付けて、プロジェクトが前進するための推進力を生み出す。
ここにも、ロジックとセンスとラブがありました。まさにデザインマネジメント。
スーパー具体的なnastaのプロトタイプ発展事例
最も参考になった内容の一つに、新しいコンセプトの洗濯バサミ・nastaのプロトタイプがどう発展していったかが記載されていること。
- キービジュアルを作成→「これは良さそうだ」
- 早速手近な素材でラピッドプロトタイプに→「うん、これも良さそうだ」
- 光造形で、基礎的な形状の確認モデルを作成→「バネの力が足りない。それを増やそうとすると金型の数が増えて生産コストが合わない」
- バネの形状を見直した修正モデルを作成→「nastaらしさを失ってしまった。女性社員にも不評」
- 設計全般を見直してパーツの角度を開いた新モデルを作成→「機能としてはいい感じ。しかし造形としての美しさを失ってしまった」
- Step.1で描いたものを見ながら、機構に影響が出ない範囲で個別のパーツを修正。さらに最終仕様素材の特性も踏まえて設計をFIX→「いい感じ!」
まずは機能上の問題が出て、それに対処しようとデザインが普通になってしまう...ここで立ち止まってしまう(↑でいうところの4)のが通常のプロダクト開発かなと。しかしそこで立ち止まらずに、5→6と進めていくところがさすが。
ざっくり読後感
↑のような内容に加えて、顧客価値連鎖分析だったり、ラーニング・ピラミッドだったり、素敵なコンセプトがあり、かつ「対等ではないパートナーシップ」のように受発注関係にあるステークホルダーでの不幸事例など、実践的なお話も。
学びのある、素敵な本でした。デザインに直接携わる方のみならず、新規事業や、まだ世にない新たな価値を追求することに取り組んでいるすべての人に、参考になる内容があるかと思います。
また、デザインマネジメント周りだと、経産省のプロジェクトでデザイン経営に関するレポートも出ています。Takramの田川さんだったりLoftworkの林さんだったり、この分野の優れた人が集まってかきあげたレポート、面白く拝読しました。こちらも是非。
記録#163 『コンピュータはなぜ動くのか』歴史を感じるメモリ="Pentium"...
コンピュータはなぜ動くのか?知っておきたいハードウエア&ソフトウエアの基礎知識?
- 作者: 矢沢久雄,日経ソフトウエア
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2003/06/02
- メディア: 単行本
- 購入: 43人 クリック: 514回
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川添愛さんの書籍の中で紹介されていた本書、第1刷が出たのは2003年です。
コンピュータの絶対的な基礎
世に出てから15年が経っているものの、本書の中で語られる3つの基本ポイントは普遍だと思います。
- コンピュータは、入力、演算、出力を行う装置である
- プログラムは、命令とデータの集合体である
- コンピュータの都合は、人間の感覚と異なる場合がある
1つめはコンピュータが"計算機"として稼働していること、2つめはフォン・ノイマンの貢献により高速計算・処理が可能になったこと、3つめは2進数・16進数への変換により文字・色・音など様々な要素を"計算機"で扱えるようになったこと、それぞれを示しています。
こういうレベルから振り返ることができるのはとってもありがたいこと。
この本はさらに、「マシンを作ってみよう!」みたいな方向性に進んでいき私では手が出ない領域に行ってしまうんですが、アルゴリズム・データベースあたりで私でも分かる内容に帰ってきます。
特に、データの取扱におけるFIFO or LIFOあたりの区別と、それが処理速度に及ぼす影響はなるほどそうだよな、となる内容。
下記のような文面が出てきて、歴史を感じるところも。。
みなさんがお使いのWindowsパソコンの中には、Pentium(ペンティアム)という名前のCPUが一つだけ装備されていることでしょう。メモリーは、記憶容量(32M~256Mバイト程度でしょう)に応じて複数が装備されています。
(本書 pp.26)
いまやCPUはCore i9シリーズ、メモリーはノートPCの標準構成で4~8GB。
時代の進歩とは恐ろしいものですね...!!
コンピュータはなぜ動くのか?知っておきたいハードウエア&ソフトウエアの基礎知識?
- 作者: 矢沢久雄,日経ソフトウエア
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2003/06/02
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記録#162 『愛×数学×短歌』平行線、奇数・偶数、方程式、タクシー数、、、すべてに愛を。
数学のコンセプトを使って、愛を語る短歌を。
Twitterで行われていた企画で、集まった短歌はその数2,000!その中でいい作品をまとめているのが本書。
素敵。
優秀作3作はこんな感じ。
途中式 全部とばして 答えだけ
合わせるような 台詞はやめて
(小春まりかさん)
いままでの想いを全部かけてある
「好き!」に付いてる階乗の記号
(きよだまさきさん)
平行線 1゜動けば 交差する
だから私も 一歩踏み出す
(ごまだれさん)
3作目、青春感があって大好きです...!!
本書の中で、一作一作に数学に関する解説を入れてくださってるんですが、時たまダイレクトな指摘が。。
↓
いい感じ。
ふんわりと笑顔になれる、素敵な本でした。おすすめ。
記録#161 『猿たちの狂宴』博士中退→ゴールドマン・サックス、そしてスタートアップのカオスへ。
- 作者: アントニオガルシアマルティネス,Antonio Garcia Martinez,石垣賀子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/06/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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生々しさたっぷり、シリコンバレーの現場から。
「スタートアップのようなイノベーション!」「西海岸!」のような方が多い現場で働いている私ですが、そんなに素晴らしいものなのかね?と常々思っています。
確かに多くのスタートアップが沸き起こる環境は素晴らしいし、スーツの代わりにパーカーとサンダルで働ける環境は羨ましい。でも、実際に現地にいる方々のブログを読んだりすると、生活コストも高いしプレッシャーはあるしで、私にはできないな、というのが個人的な感覚でした。
そんな中で、本書。
著者のアントニア・ガルシア・マルティネスは、UCBの博士課程で物理学を研究しながらも中退。ストラテジストとしてゴールドマン・サックスで働き始めます。3年がたったある日、ふと目にした広告関連スタートアップの求人広告を見かけたことをきっかけに、スタートアップの世界に足を踏み入れます。
とにかく激動
この本は上下巻で成り立っていますが、どのページを開いても、戦いの最中です。
- 数百名の従業員を抱えながら、まともな顧客を捕まえられないスタートアップでの奮闘
- マネジメントに対する不信と、Yコンビネーター参加をきっかけにした独立、仲間の巻き込み。
- デモデイに向けた全力疾走。
- 資金調達のためのエンジェル投資家とのバタバタ交渉。
- うまくいきかけたときに立ち上がる、前の所属先からの提訴。
- プロダクトづくりのための全力疾走。
- 同時に持ち上がるフェイスブック・ツイッターとの買収交渉。
- 会社をツイッターに売り払いながら、CEOの自分だけフェイスブックに行くというウルトラCを達成させるための交渉。
- プロダクトマネージャーとして、統制の取れていない当時のフェイスブック広告チームで収益を上げるために行う舵取り。
- FBXという渾身のプロダクトを成長させるために行った根回しや社内政治、そしてその後の敗北
幾分誇張されたところもあると思いますが、ここにスタートアップのリアルがあると思います。TechCrunchやWIREDで取り上げられるようなきらびやかな世界では決してなく、政治がうずまき、人間同士が戦い、感情で物事が破綻する世界なんだと。
著者が書いているシリコンバレーの文化。
現実には、シリコンバレーの資本主義はごくシンプルだった。
投資家とは、時間よりも金を思っている人間である。
従業員とは、金よりも時間を持っている人間である。
起業家とは、単に人をそそのかす仲介役である。
スタートアップとは、他人の金を使って行うビジネス上の実験である。
マーケティングはセックスと同じである。負け犬だけが金を払う。
企業文化とは暗黙のものである。
事実上ルールなどない。法があるだけだ。
成功はあらゆる罪を許す。
あなたに情報をリークするものは、あなたの情報もリークする。
能力主義とは、見えすいた芝居を称えるためのプロパガンダである。
強欲と虚栄は、ブルジョワ社会を動かす両翼のエンジンである。
マネージャー職の大半は無能で、惰性と政治事情によって職を維持しているに過ぎない。
訴訟とは、企業間の対立をうまく仕立てて書いた物語に出てくる、金のかかる見せかけに過ぎない。
資本主義とは、すべてのプレーヤー、すなわち投資家、従業員、起業家、消費者が共謀して行う、道徳観念を超えた茶番である。
(上巻、pp.99-100)
おもしろい。
ぜひご一読をおすすめします。笑いながら読める、スタートアップというものの実態についてのドキュメンタリー。
- 作者: アントニオガルシアマルティネス,Antonio Garcia Martinez,石垣賀子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/06/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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記録#160 『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』
大好きな川添愛さんの新作が。
コンピュータ、どうやってつくったんですか?:はじめて学ぶ、コンピュータの歴史としくみ
- 作者: 川添愛
- 出版社/メーカー: 東京書籍
- 発売日: 2018/08/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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川添さんの前々作、前作のコンピュータ・AIというものに関する書籍が私のような門外漢にもとってもわかりやすく、 すっかりファンです。
今回の作品は、そもそもコンピュータというものがどういう要素から成り立っているかを書いたもの。
ある日天使がコンピュータに詳しい人間のところに訪ねてきて「なんとか中の世界でもコンピュータを作ってみたいんですが...」と相談するところからお話が始まります。その人は、コンピュータというものの成り立ちとそのために必要な考え方を懇切丁寧に天使に伝えてい来ます。
コンピュータは
- 数字で表された情報を扱う「デジタル機器」であること
- 電子機器であり、電気の操作で計算すること
- プログラムによって様々な計算ができること
の3つがかけ合わさることで成り立っているもの。そのために、本書の中では①数②論理③プログラムについて詳しく解説されています。
- 数と数字というものはどう異なるのか?
- 数字そのものだけではなく、文字や音、画像を数字に変換する仕組みとは?
- どのような数字として扱うと、電気の仕組みを活用した効率的な仕組みができるのか?
- フォン・ノイマンが考案したアイディアは何がそれほど新しかったのか?
- メモリとCPUという場所で何が行われているのか?
わかりやすかったです...!!
初心者の人でもわかりやすい、本当におすすめの書籍です。
コンピュータ、どうやってつくったんですか?:はじめて学ぶ、コンピュータの歴史としくみ
- 作者: 川添愛
- 出版社/メーカー: 東京書籍
- 発売日: 2018/08/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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記録#159 『終わった人』会社人間にはいつか訪れる、定年退職後の生活
よく聞いているPodcastで紹介されていた本書。
主人公は、メガバンク・万邦銀行の子会社で専務として退職の日を迎えた田代さん。
必死の努力で東大法学部に入り、メガバンクに入社して順調に出世の道を歩むも50歳を目前にして子会社に出向・転籍。元から高かったプライドをなかなか捨てられないまま、退職の日を迎える。明日からはもう、会社という居場所もない。
そんな田代さんは自分のことを、「終わった人」なのだと痛感する。
朝起きてから、行くところもない。妻を温泉旅行に誘うも、彼女は40代から学び始めた美容師の資格を生かして働くことに忙しい。スポーツジムに行けば同じような老人だらけ、そしてやたら皆つるみたがる。「私はそんなところにいるべき人間ではない」と、そこに身をおくこともできない田代さん。
カルチャーセンターに通ってみたり、大学院を目指してみたり、ちょっと恋してみたり、ベンチャーの顧問になってみたり。成功したり、失敗したり。その根底にある、私もまだまだ!終わりたくない!という思いが垣間見えます。
最後の最後は、ハッピーエンドというか、サッドエンドとというか、なんとも言えない結末を迎えます。来年定年を迎える自分の父にも、この本をおすすめしてみようかな。
終わりに
文章中にも出てきますが、サラリーマンという立場だと、それがどんな組織に所属しているのであれ、自分自身が人生の舵を持つのは難しいものなのかもしれないなと感じました。
幸いにも今は自分で会社をやる立場になりました。
終わった人にならないよう、常に何かを始め、関わっていく人生でありたいなと思いました。この本の中に出てくる、二宮さんのように。