記録#161 『猿たちの狂宴』博士中退→ゴールドマン・サックス、そしてスタートアップのカオスへ。
- 作者: アントニオガルシアマルティネス,Antonio Garcia Martinez,石垣賀子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/06/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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生々しさたっぷり、シリコンバレーの現場から。
「スタートアップのようなイノベーション!」「西海岸!」のような方が多い現場で働いている私ですが、そんなに素晴らしいものなのかね?と常々思っています。
確かに多くのスタートアップが沸き起こる環境は素晴らしいし、スーツの代わりにパーカーとサンダルで働ける環境は羨ましい。でも、実際に現地にいる方々のブログを読んだりすると、生活コストも高いしプレッシャーはあるしで、私にはできないな、というのが個人的な感覚でした。
そんな中で、本書。
著者のアントニア・ガルシア・マルティネスは、UCBの博士課程で物理学を研究しながらも中退。ストラテジストとしてゴールドマン・サックスで働き始めます。3年がたったある日、ふと目にした広告関連スタートアップの求人広告を見かけたことをきっかけに、スタートアップの世界に足を踏み入れます。
とにかく激動
この本は上下巻で成り立っていますが、どのページを開いても、戦いの最中です。
- 数百名の従業員を抱えながら、まともな顧客を捕まえられないスタートアップでの奮闘
- マネジメントに対する不信と、Yコンビネーター参加をきっかけにした独立、仲間の巻き込み。
- デモデイに向けた全力疾走。
- 資金調達のためのエンジェル投資家とのバタバタ交渉。
- うまくいきかけたときに立ち上がる、前の所属先からの提訴。
- プロダクトづくりのための全力疾走。
- 同時に持ち上がるフェイスブック・ツイッターとの買収交渉。
- 会社をツイッターに売り払いながら、CEOの自分だけフェイスブックに行くというウルトラCを達成させるための交渉。
- プロダクトマネージャーとして、統制の取れていない当時のフェイスブック広告チームで収益を上げるために行う舵取り。
- FBXという渾身のプロダクトを成長させるために行った根回しや社内政治、そしてその後の敗北
幾分誇張されたところもあると思いますが、ここにスタートアップのリアルがあると思います。TechCrunchやWIREDで取り上げられるようなきらびやかな世界では決してなく、政治がうずまき、人間同士が戦い、感情で物事が破綻する世界なんだと。
著者が書いているシリコンバレーの文化。
現実には、シリコンバレーの資本主義はごくシンプルだった。
投資家とは、時間よりも金を思っている人間である。
従業員とは、金よりも時間を持っている人間である。
起業家とは、単に人をそそのかす仲介役である。
スタートアップとは、他人の金を使って行うビジネス上の実験である。
マーケティングはセックスと同じである。負け犬だけが金を払う。
企業文化とは暗黙のものである。
事実上ルールなどない。法があるだけだ。
成功はあらゆる罪を許す。
あなたに情報をリークするものは、あなたの情報もリークする。
能力主義とは、見えすいた芝居を称えるためのプロパガンダである。
強欲と虚栄は、ブルジョワ社会を動かす両翼のエンジンである。
マネージャー職の大半は無能で、惰性と政治事情によって職を維持しているに過ぎない。
訴訟とは、企業間の対立をうまく仕立てて書いた物語に出てくる、金のかかる見せかけに過ぎない。
資本主義とは、すべてのプレーヤー、すなわち投資家、従業員、起業家、消費者が共謀して行う、道徳観念を超えた茶番である。
(上巻、pp.99-100)
おもしろい。
ぜひご一読をおすすめします。笑いながら読める、スタートアップというものの実態についてのドキュメンタリー。
- 作者: アントニオガルシアマルティネス,Antonio Garcia Martinez,石垣賀子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/06/19
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