ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#164 『デザインマネジメント』リフレーミング道具としてのデザイン。

 

デザインマネジメント

デザインマネジメント

 

東芝amadanaでデザイナーととして活躍され、現在はデザインファーム代表をしつつ慶應大学のシステムデザインマネジメント分野で教授をされている田子さんの書籍。

「経営にデザインを!」と言われてる機会も増えたここ最近ですが、日本におけるデザイン経営・デザインマネジメント関連の本というと、これが最もポピュラーではないでしょうか。

デザインを経営に取り込む意義と、その要素

人間らしい暮らしを未来へとつないでいくためには、ロジカルな志向はそのままに、驚きや感動、喜びといった完成的なアプローチを加えたり、その双方を行き来しながら検討するプロセスが大事になる。それにより持続可能な企業活動が実現でき、結果として企業価値(ブランド価値)も向上する。

(本書 pp.24) 

 田子さんが語るデザインの三要素は、

  • ロジック:本質を見つめ直し、リフレームする(多角的に要素とつなぎ合わせて再構築する中に論理という筋を通し、多様化した世界を最適化する総合力)
  • センス:知覚を統合して知性を持って表現する(楽しさやワクワク缶といった見えない価値を見極める感性)
  • ラブ:数値化できない人間の本質に迫る(商品を手に取る消費者も、それを作り出す生産者も、すべての人の心を充足されることを目指す慈愛)

この3つのすべてバランスを取ることことが、デザインマネジメントの本質だと。

デザイン=センス、と捉えている人がまだまだ多い中にあって、新鮮な視点でした。

なぜ?を問うデザイン

OSOROnastaといった本書で紹介されている田子さんのプロジェクト事例を見るにつつけ、「なぜ?」という問いを大切にされていることがわかります。

  • 対 顧客:そもそもの課題を発掘し製品の訴求ポイントを明確化する「なぜ?」
  • 対 社内:社内で共感を生み出しメンバーを動機づけるための「なぜ?」

いずれのプロジェクトでも、まず最初に現場に足を運び、社員と話し、社史・社内報を通じて会社ごとを自分ごと化して「なぜこのプロジェクト・この製品が必要なのか」をまず問いかける。その後に、徹底してユーザーの視点に立ち、どのようなコンセプトの商品がなぜ求められるかを考え抜く。また、「なぜ?」を社内のプロジェクトメンバーにも植え付けて、プロジェクトが前進するための推進力を生み出す。

ここにも、ロジックとセンスとラブがありました。まさにデザインマネジメント。

スーパー具体的なnastaのプロトタイプ発展事例

最も参考になった内容の一つに、新しいコンセプトの洗濯バサミ・nastaのプロトタイプがどう発展していったかが記載されていること。

  1. キービジュアルを作成→「これは良さそうだ」
  2. 早速手近な素材でラピッドプロトタイプに→「うん、これも良さそうだ」
  3. 光造形で、基礎的な形状の確認モデルを作成→「バネの力が足りない。それを増やそうとすると金型の数が増えて生産コストが合わない」
  4. バネの形状を見直した修正モデルを作成→「nastaらしさを失ってしまった。女性社員にも不評」
  5. 設計全般を見直してパーツの角度を開いた新モデルを作成→「機能としてはいい感じ。しかし造形としての美しさを失ってしまった」
  6. Step.1で描いたものを見ながら、機構に影響が出ない範囲で個別のパーツを修正。さらに最終仕様素材の特性も踏まえて設計をFIX→「いい感じ!」

まずは機能上の問題が出て、それに対処しようとデザインが普通になってしまう...ここで立ち止まってしまう(↑でいうところの4)のが通常のプロダクト開発かなと。しかしそこで立ち止まらずに、5→6と進めていくところがさすが。

ざっくり読後感

↑のような内容に加えて、顧客価値連鎖分析だったり、ラーニング・ピラミッドだったり、素敵なコンセプトがあり、かつ「対等ではないパートナーシップ」のように受発注関係にあるステークホルダーでの不幸事例など、実践的なお話も。

学びのある、素敵な本でした。デザインに直接携わる方のみならず、新規事業や、まだ世にない新たな価値を追求することに取り組んでいるすべての人に、参考になる内容があるかと思います。 

また、デザインマネジメント周りだと、経産省のプロジェクトでデザイン経営に関するレポートも出ています。Takramの田川さんだったりLoftworkの林さんだったり、この分野の優れた人が集まってかきあげたレポート、面白く拝読しました。こちらも是非。

「デザイン経営」宣言

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