ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#53 『砂糖の世界史』 世界商品・砂糖に動かされる人の歴史

大好きな岩波ジュニア新書シリーズ。

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

 

「世界史を学ぶなら塩の歴史を学べ!」と高校の時いわれて当時は意味がよくわからなかったんですが、
今になってみると、一つのテーマにぐっと絞りそれにまつわるエトセトラを見ていくと世界の趨勢を大まかにかつ具体的に把握することができて、 良い方法だったんだなぁと理解するに至りました。

今回はお砂糖の話。

著者は川北稔さん。大阪大学で長く教鞭をとられた、西洋史のエキスパートです。

生まれつきお砂糖が嫌いな人はいない

みなさん、基本は甘いものが大好きですよね。古文でも「甘し」と書いて「うまし」と読むんだと教わりました。それくらい、おいしさ=甘さ、というのは普遍的なことなんだと思います。

お砂糖の起源はインドネシアにあると言われており、その後インドあたりまで広がっていきます。その後紀元前4世紀にイスラム帝国がインドに至り、その中で中東・ヨーロッパにもさとうというものがもたらされました。

それまで、甘味といえば蜂蜜しか知らなかったヨーロッパ人にとっては、砂糖の強烈な甘さと純白さは、なにか神秘的なものにみえたことでしょう。なおそれが、非常に高価なものであったこともあって、ますますそれは神秘性を帯びたともいえましょう。(pp.18)

純白。圧倒的な甘さ。

そんな魅力に溢れたお砂糖は至る土地すべてで人々を魅力したのです。

お砂糖とプランテーション

ヨーロッパに伝わった当時、希少品だったお砂糖は食品・調味料というよりむしろ"薬"という位置づけでした。

砂糖が本格的に使われ始めた16、17世紀には、砂糖には、結核の治療など10種類以上の効能が期待されていました。(pp.8)

アラビアでは、すでに11世紀の偉大な医学者アヴィセンナ(イブン・スィーナー)が「砂糖菓子こそは、万能薬である」と断言していました(pp.63)

そんな砂糖を一般の人(といっても裕福な人だけど)も楽しめる"世界商品"にしたのは、大航海時代の旗手、ポルトガルでした。アフリカやアメリカ大陸に積極的に進出し、そこに当時まだ希少品だった砂糖のプランテーションを次々と建設します。そのプランテーションで働くことになったのが、アフリカから強制的に連れてこられた黒人奴隷です。

農業が一挙に変わり、そのために風景がすっかり変わった結果、これらの島々はプランテーションにおおわれ、底に住む人間の構成も大きく変わりました。すなわち、かつてはたくさん住んでいたカリベ族がほとんど消滅させられてしまい、それに変わってアフリカから連れてこられた黒人の奴隷が、人口のほとんどを占めるようになったのです。(pp.40)

お砂糖の魅力が、人を大陸から引き剥がし、かつその国をモノカルチャー経済で支配してしまったのでした。その影響は、いまも続いています。

イギリスのお砂糖消費事情

お砂糖の消費をいっそう加速させたのが、当時大英帝国として世界を席巻していたイギリスのお茶消費拡大でした。

お茶の中にお砂糖を入れるという"発明"が、砂糖消費を一層拡大させることになったのです。

お茶×お砂糖という組み合わせはどこかの国で行われていた文化ではなく、ゆーたら「高級品のお茶の中に、高級品のお砂糖いれちゃう私、ものすごくリッチじゃない?」というブルジョワなイギリス紳士が生み出したもの、とのこと。

けっきょく、茶と砂糖という2つのステイタス・シンボルを重ねることで、砂糖入り紅茶は「非の打ち所のない」ステイタス・シンボルになったのです。(pp.80) 

この飲み方が一般大衆のあこがれとなり、労働者もこれにならった生活習慣を取り入れることで、砂糖の消費量も合わせて増えていった、そんな歴史があります。

コーヒーハウス

長くなってきました。これが最後。

砂糖入りのお茶(あるいはコーヒー)が一般に広がってくると、ロンドンの町に"コーヒーハウス"が栄えることになります。ここでは、一杯のお茶を楽しみながら新聞を読み、情報交換をし、一種のサロンの役割を果たすことになります。

ここから生まれた代表的な業種・職業が、保険だったり、株式取引だったりするわけです。

お砂糖⇨お茶⇨コーヒーハウス⇨情報産業、という流れで、世界が動き出していきました。

おわりに

その他にも、アメリカ新大陸でのティーパーティー事件や、プランテーションでの生活の実際など、砂糖にまつわる色んなお話がでてきます。

かつ、岩波ジュニア新書なので、文体も平易で読みやすい。

世界史を学ぼうとする若い人にお薦めの良著です。

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)