ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#53 『砂糖の世界史』 世界商品・砂糖に動かされる人の歴史

大好きな岩波ジュニア新書シリーズ。

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

 

「世界史を学ぶなら塩の歴史を学べ!」と高校の時いわれて当時は意味がよくわからなかったんですが、
今になってみると、一つのテーマにぐっと絞りそれにまつわるエトセトラを見ていくと世界の趨勢を大まかにかつ具体的に把握することができて、 良い方法だったんだなぁと理解するに至りました。

今回はお砂糖の話。

著者は川北稔さん。大阪大学で長く教鞭をとられた、西洋史のエキスパートです。

生まれつきお砂糖が嫌いな人はいない

みなさん、基本は甘いものが大好きですよね。古文でも「甘し」と書いて「うまし」と読むんだと教わりました。それくらい、おいしさ=甘さ、というのは普遍的なことなんだと思います。

お砂糖の起源はインドネシアにあると言われており、その後インドあたりまで広がっていきます。その後紀元前4世紀にイスラム帝国がインドに至り、その中で中東・ヨーロッパにもさとうというものがもたらされました。

それまで、甘味といえば蜂蜜しか知らなかったヨーロッパ人にとっては、砂糖の強烈な甘さと純白さは、なにか神秘的なものにみえたことでしょう。なおそれが、非常に高価なものであったこともあって、ますますそれは神秘性を帯びたともいえましょう。(pp.18)

純白。圧倒的な甘さ。

そんな魅力に溢れたお砂糖は至る土地すべてで人々を魅力したのです。

お砂糖とプランテーション

ヨーロッパに伝わった当時、希少品だったお砂糖は食品・調味料というよりむしろ"薬"という位置づけでした。

砂糖が本格的に使われ始めた16、17世紀には、砂糖には、結核の治療など10種類以上の効能が期待されていました。(pp.8)

アラビアでは、すでに11世紀の偉大な医学者アヴィセンナ(イブン・スィーナー)が「砂糖菓子こそは、万能薬である」と断言していました(pp.63)

そんな砂糖を一般の人(といっても裕福な人だけど)も楽しめる"世界商品"にしたのは、大航海時代の旗手、ポルトガルでした。アフリカやアメリカ大陸に積極的に進出し、そこに当時まだ希少品だった砂糖のプランテーションを次々と建設します。そのプランテーションで働くことになったのが、アフリカから強制的に連れてこられた黒人奴隷です。

農業が一挙に変わり、そのために風景がすっかり変わった結果、これらの島々はプランテーションにおおわれ、底に住む人間の構成も大きく変わりました。すなわち、かつてはたくさん住んでいたカリベ族がほとんど消滅させられてしまい、それに変わってアフリカから連れてこられた黒人の奴隷が、人口のほとんどを占めるようになったのです。(pp.40)

お砂糖の魅力が、人を大陸から引き剥がし、かつその国をモノカルチャー経済で支配してしまったのでした。その影響は、いまも続いています。

イギリスのお砂糖消費事情

お砂糖の消費をいっそう加速させたのが、当時大英帝国として世界を席巻していたイギリスのお茶消費拡大でした。

お茶の中にお砂糖を入れるという"発明"が、砂糖消費を一層拡大させることになったのです。

お茶×お砂糖という組み合わせはどこかの国で行われていた文化ではなく、ゆーたら「高級品のお茶の中に、高級品のお砂糖いれちゃう私、ものすごくリッチじゃない?」というブルジョワなイギリス紳士が生み出したもの、とのこと。

けっきょく、茶と砂糖という2つのステイタス・シンボルを重ねることで、砂糖入り紅茶は「非の打ち所のない」ステイタス・シンボルになったのです。(pp.80) 

この飲み方が一般大衆のあこがれとなり、労働者もこれにならった生活習慣を取り入れることで、砂糖の消費量も合わせて増えていった、そんな歴史があります。

コーヒーハウス

長くなってきました。これが最後。

砂糖入りのお茶(あるいはコーヒー)が一般に広がってくると、ロンドンの町に"コーヒーハウス"が栄えることになります。ここでは、一杯のお茶を楽しみながら新聞を読み、情報交換をし、一種のサロンの役割を果たすことになります。

ここから生まれた代表的な業種・職業が、保険だったり、株式取引だったりするわけです。

お砂糖⇨お茶⇨コーヒーハウス⇨情報産業、という流れで、世界が動き出していきました。

おわりに

その他にも、アメリカ新大陸でのティーパーティー事件や、プランテーションでの生活の実際など、砂糖にまつわる色んなお話がでてきます。

かつ、岩波ジュニア新書なので、文体も平易で読みやすい。

世界史を学ぼうとする若い人にお薦めの良著です。

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

 

 

 

記録#52 『ボードゲーム デザイナー ガイドブック』 楽しいゲームの作り方。

最近日本でも盛り上がりを見せているボードゲーム

この本はドイツで出版されたものですが、ボードゲームデザイナーとという職業があるんですね。

熟練のボードゲームデザイナーである著者が書く、ボードゲームデザインのガイドブックがこちら。

ボードゲーム デザイナー ガイドブック 〜ボードゲーム デザイナーを目指す人への実践的なアドバイス

ボードゲーム デザイナー ガイドブック 〜ボードゲーム デザイナーを目指す人への実践的なアドバイス

  • 作者: トム・ヴェルネック,小野卓也
  • 出版社/メーカー: スモール出版
  • 発売日: 2018/05/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

私はゲームというものそのものに関心を持って読みはじめましたが、「人を動かすための仕掛け」について学びを得られた気がします。

なにがボードゲームを良いものにするのか

  • 面白い基本アイディア
  • 革新的な構造
  • 明確なゲーム進行
  • 革新的で魅力的なゲーム用具
  • サプライズ効果
  • ゲーム進行のテンポ
  • インタラクション
  • 興奮曲線
  • キングメーカー効果
  • 順位が途中で決まらないこと
  • 最後まで参加できること
  • チャンスとリスクのバランス
  • 決定性と一貫性
  • 規則性
  • 一義的なルール
  • 敷居の低さ
  • ターゲット層とのフィット

ゲームのルールを誰かに伝えるときに含むべき内容とは

  • ゲームのタイトル
  • ゲームの種類(思考ゲーム、戦略ゲーム、等)
  • 対象とするプレイヤー人数
  • 対象年齢の幅
  • ゲームの平均所要時間
  • 用具リスト
  • ゲームの背景にあるストーリー
  • ゲームの目的/アイディアの簡単な説明
  • ゲームの準備
  • ゲームの進行ルール
  • ゲームが終了する条件
  • 勝者の決め方
  • (場合によって)戦略のヒント
  • (場合によって)ゲーム進行の例
  • (場合によって)プレイヤー人数が異なる場合の特別ルール
  • クレジット

プロトタイピング

とにかくテストせよ!テストプレイせよ!というのがメッセージでした。

友人に何度もテストプレイしてもらって、彼らを観察し、ルールを修正していけ、と。

面白い視点を得られた本でした。

記録#51 『まんがでわかる オーナー社長のM&A』事業継承・中小企業M&Aをマンガで。

投資ファンドの人が書いた「個人で小企業買っちゃいないよ!」本を読んでから、 もう少しプロセスを追ってみようと思っていました。

nozomitanaka.hatenablog.com

その中で手を伸ばしたのが、中小企業M&Aでかなりのシェアを持っている日本M&Aセンター監修で作成しているマンガ。サクッと読めます。

まんがでわかる オーナー社長のM&A

まんがでわかる オーナー社長のM&A

 

登場人物は

  • 酒蔵の6代目当主で頑固一徹、でも体調の問題もあり会社をたたもうとするお父さん
  • 東京に出てきているけどお父さんのことが心配、なんとか酒蔵を存続させられないかを模索する娘さん
  • 娘さんの婚約者の友人で、中小企業M&Aに詳しいコンサルタント

という感じ。

M&Aというものを結婚に例えながら、相性が大事!デューデリジェンス(DD)をしっかりしよう!という内容の本でした。最後は無事に、中堅企業に引き取られて(結婚して)いきます。

本編の合間に、M&A全体がどんなプロセスで進んでいくのか、DDって何をするのか、中小企業M&Aの標準的な企業価値算出法はなにか、などの解説もあります。

そのあたりを読んでいくと、「こんなにうまくいかんやろ...」という視点もありつつ、流れ全体を1時間くらいでぱーっとおえる、便利な本だと思いました。

最後の最後に「M&Aのご相談はこちらまで!」というFAXフォーマットまで用意されていたのはさすが日本M&Aセンター、、、というところです。 

まんがでわかる オーナー社長のM&A

まんがでわかる オーナー社長のM&A

 

 

記録#50 『教養としての「ローマ史」の読み方』ローマの成功・失敗から学ぼう。

ギボンの『ローマ帝国衰亡史』しかり、国家や大きい組織の行く末を考える上で多くの人の研究対象となってきたローマ史。

都市国家・ローマの成立から拡大、分裂、滅亡に至るまで、かなりのロングストーリー&話の入り組み方なので、そもそもどういった視点でこの歴史を捉えるべきなのか、ということについて難しい点がありました。

そんな中で、ローマ史を専門とする本村先生の新著が出ました。 

教養としての「ローマ史」の読み方
 

 私もこの本を通じて、

  • アテネなどのギリシャ各都市が小さくとどまる中、なぜローマは帝国になったのか
  • そもそもローマの共和制ってどんなふうに成り立っていたのか
  • たっっっっっっくさんいるそれぞれの独裁官や皇帝はどのように評価されるべきなのか
  • ローマ帝国衰退の理由をどのように捉えるべきなのか

などいろいろ勉強させていただきました。細かい人の名前などは全く覚えられないんですが、まさにタイトルにある"教養"として、自分なりにローマ帝国というものに対する感想を持てるくらいまでにはなれたと思います。本当に良著。

民主主義、というものの捉え方

本村先生の文体を読んでいると、現代ではある種の前提になっている「民主主義を基盤とした政治」というところに問いを投げかけているように感じました。

  • 国としての正しい意思決定をするための手続きは民主主義で担保されるのか
  • 民主主義政治において往々にして起こるポピュリズムとどう向き合えばよいのか

原始的な民主主義が採用されていたギリシア社会と異なり、古代ローマを支えていたのは元老院を中心とする共和制でした。

 政務官や、最高権力者である執政官の任期を一年というごく短いものにしたのは、ローマの共和政が、まさに「反独裁のためのシステム」だったからだと言えます。

 ローマ人は、なぜこれほどまでに独裁を嫌ったのでしょう。

 それは、ローマ人が「自分たちは自由人である」という強い意識を持っていたからだと考えられます。つまり、一人の人間に支配されることを、自らの自由を侵すものとして嫌悪したのです。これは古代ローマを理解する上で押さえておくべきポイントです。

Kindle位置:363)

 ローマ帝国末期、時の皇帝・カラカラ帝は帝国全体に対してローマ市民権を付与することで人心の掌握および軍隊の拡充を図ります。しかし、この施策が奏功することはありませんでした。

 彼にとっては、帝国内のすべての地域が平等でした。東も西も、北も南も関係ない。イタリア的なものを特にありがたがるということもない。そういう意味では、ローマは彼の治世において「空前の民主化、均等化」が生じたのです。これは、彼によってローマが、「ローマ人の帝国」から「ローマ帝国」になったということです。

 こうした民主化、均等化は、現代の感覚で言うと素晴らしいことのように思いますが、問題がなかったわけではありません。なぜなら、広い帝国全土において均等な価値を認めたことによって、皇帝権力の基盤がどこにあるのかということがあやふやになってしまったからです。

 その結果、「権力ではなく権威を以て治めよ」というローマの伝統は失われ、露骨な権力、つまり「軍事力」が皇帝権力の基盤になってしまいました

 (Kindle位置:2,811)

民主主義というものが広がった結果、国というものを捉える基盤がゆるいでしまい、結果的に軍事力や経済力という、ある種のわかり易い指標に基づいた国家運営しかできなくなってしまう。

いまの民主主義国家でも、同じことが起きているのではないでしょうか。

寛容な社会・非寛容な社会

古代ローマについて私が驚いたものは、その懐の深さ、寛容性です。

 もともとローマ人は、寛容な人々でした。

 勇敢に戦った敗戦将軍を受け入れ、雪辱のチャンスを与え、スキピオは差し出された美女を婚約者のもとに祝儀をつけて返しました。カエサルは自分を裏切ったブルトゥスを何度も許し、併合した属州の人々にローマのやり方を押しつけることもしませんでした。ローマ人に対してはもちろん、異民族に対してもローマ人は寛容な精神で対していたのです。

Kindle位置:3,741)

負けた将軍に再チャレンジの機会を与える。打ち負かした相手からの貢物を返納する。自分を裏切った相手を赦す。異民族に独自の慣習を認める。

これだけの大国家ながら、ローマ帝国の根底に流れていたのは自由と寛容の精神でした。

しかしこれが、帝政末期になると変容していきます。

 そうした「寛容なローマ人」が時間とともに変質し、非寛容になったことにこそ、ゲルマン人の大移動後に起きた、繰り返される暴動の本当の原因があるということです。

 この視点は、現在のアメリカにおける不法移民への対処のあり方や、ヨーロッパ諸国の中東難民受け入れ問題など、この時期のローマが抱えていたのと類似した諸問題を考える上で、とても重要なものだと思います。

 (Kindle位置:3,741)

 社会が停滞し、多神教的な考え方が一神教的なものに移り変わり、だんだんに全体が非寛容になっていくことが、鶏と卵の話はあれど、帝国が崩壊していった原因のひとつなんでしょう。

おわりに

タイトルにある通り、ただローマ史を紹介するだけではなく、「現代の我々がローマ史をどう読み解くべきか」という視座を与えてくれる、素晴らしい本でした。

上に書いたような俯瞰した視点だけではなく、ネロ帝は本当に暴君だったのか、ディオクレティアヌス帝はキリスト教とどう向き合ったのか、カエサルポンペイウスはリーダーシップの視点でどう異なったのか、人にまつわる色んなお話が出てきます。

内容濃密なので、じっくり腰を据えて読めるタイミングで1ページ目を開くのがおすすめです。

教養としての「ローマ史」の読み方

教養としての「ローマ史」の読み方

 

 

P.S.

個人的に一番気になったのは、カエサルクレオパトラの子供の名前がカエサリオンだということです。むっちゃださい。。 

記録#49 『サラリーマンは300万円で会社を買いなさい』資本家になろう...!

 日本創生投資という投資ファンドを運営されている三戸さんの新著。

  • 大企業であなた(想定読者は40~50代?)が培った、当たり前を当たり前に実行するマネジメント能力は中小企業でこそ生きるはず
  • 中小企業が直面する事業継承の課題を考えると、リタイア後あるいは50代くらいから中小企業を買収してその代表として活躍する道もある
  • その時の投資額は安ければ数百万からありえるし、役員報酬などのアップサイドも数億円期待できることを考えると、良い投資なんじゃないですか?(最近は個人保証を求められることも減ってるし)

というのが主な内容。

企業・事業を一から立ち上げることの難しさ

本書のはじめは、「事業をイチから始めるくらいなら、ある程度出来上がったものを買っちゃったほうがいいよ」というところから始まります。

起業とは、会社を作ることではありません。事業を作ることです。会社を作ることは誰でもできます。ネットで「会社 作り方」と検索し、その通りに手続きするだけです。しかし、今すでにあるサービスや商品を自らの手で販売していくだけでも大変なのに、まして、世にないサービスや商品を創造し、市場に浸透させていくベンチャービジネスを軌道に乗せるのは、並大抵のことではありません。
Kindle位置:452)

これはむちゃくちゃ同意で、ただ会社を登記するだけならなんてことはないんですが(それでも面倒くさいけど)、事業を立ち上げ、運営していくことを考えると大変なハードルの高さです。

事業はアイディアではなくオペレーション。効果的なオペレーションを一から考えて実現できる人はそれほど多くない気がします。それであれば、事業を自分で立ち上げるより、ある程度オペレーションが確立されていて、その改善にのみ注力すれば良い「途中参加」のほうが難易度は低いのかもしれません。

飲食業は事業の運営難易度がスーパー高い業種

三戸さんの話の展開は次に、「飲食業はやめておけよ!」と伝えるところに。

多くのシニアが退職後の飲食店開業を夢見て、その一部の人はそれを実現させていくものの、成功確率はそれほど高くない。むしろすべてを失うリスクの大きさが目立つ、とのこと。(本書の中に出てくる自死された方の事例は本当に痛ましいです...)

飲食業はPEファンドががんがん入っている領域であることから分かる通り、オペレーションの叡智が成功/失敗を分ける領域だと思います。そこに、夢見た個人経営者が入っていってもなかなか市場が受け入れてくれない、受け入れてもらえるまでに疲弊してしまう、ということなんでしょう。

どんな買収案件があるのか、最近はぐぐれるよ

 2017年くらいから中小企業のM&A、事業継承系に参入する民間企業も増えていて、

  • ビズリーチ・サクシード
  • TRANBI
  • 事業引継ぎ支援センター(公的機関)

 などで案件を確認することが出来ます。興味本位で覗いてみてはいかがでしょう??

事業承継・M&A案件一覧|M&AマーケットTRANBI【トランビ】

おわりに

私が今関わっている医療介護領域に関連して、本書の中で紹介されていた事業売却相談案件の中に、

  • 介護事業所
  • 従業員10~30名
  • 売上 1億円以下

というものがありました。

一人あたり利益が300~1,000万円だとそもそもの運営も厳しいだろうなと。かつそれで「施設の入居は満室に近い」というコメントが付いているらしいので、単価は推して知るべし・・・

小さな会社にまつわる厳しさと一抹の希望を改めて学ばせてくれる本でした。

 

 

記録#48 『完全教祖マニュアル』これであなたも教祖になれる!

ちくま新書は宗教系の本もたくさん出されています。

そんな中でこの本、『完全教祖マニュアル』。他の本は、『神道儒教・仏教 ─江戸思想史のなかの三教』だったり『神道入門 ─民俗伝承学から日本文化を読む』だったりする中で、この尖ったタイトル。

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

 

 中身、最高に面白いです。はじめに、からエンジン全開。

教祖にさえなれば人生バラ色です! あなたの運命は、いままさにこの瞬間に変わろうとしています! 本書を信じるのです!本書を信じなさい。本書を信じれば救われます ---。

(Kindle位置:)

内容としては、

  • 宗教というものを作り手の視点から見ていこう!
  • キリスト教イスラム教、仏教などの今はメジャーな宗教も新興宗教と呼ばれていた時代があるはず!
  • それらが以下にこれだけの大宗教へと成長していったかを見ながら、教祖になるためのTipsをまとめよう!

という感じ。文体はとても柔らかく面白いんですが、学びの深い本です。

何を信仰させる?教義の話

宗教の根幹、何を信じる人たちなのか、という教義について。

著者さんは、神様が実際にいるかどうかとか気にせず、いたとしたら人をハッピーにできるかで考えればいいじゃん、としています。それは実際にハッピーにする全知全能の神、という視点もあれば

 宗教で大切なことは、それが正しいかどうかではなく、人をハッピーにできるかどうかです。神もこれと同じで、「いる」と仮定した場合に、そこからどんな素晴らしいことを得られるか。問題はそこなのです。
つまり、あなたが神にどんな「機能」を期待するのか、そこから考えれば良い(Kindle頁:26)

努力したってダメな時はダメ。では、そういった理不尽にぶつかった時はどうすれば良いのでしょう?

 そう、ここで神です。もし、あなたが全知全能の神を信じていれば、「まあ、これも神の思し召しだろう」と神のせいにできるのです。誤解している人も多いと思いますが、神は別に努力した人すべての夢を叶える必要なんてありません。良い結果など出なくても一向に構わないのです。ただ、信者が「神は絶対間違えない。必ず正しいことをする」と本気で信じてさえいれば、どんな結果が出たとしても「これが神の意志なら間違いない」と肯定的に受け入れられるのです。神の役割はむしろここにあります。神は困っていれば助けてくれる便利なお助けキャラではなく、困っていること自体を肯定する存在だと言える(Kindle頁:26)

誰に信仰させるか?信者の話

じゃあ誰をハッピーにするのか。宗教は反社会的なものとして、一般社会とは違った評価軸を示し、その価値軸で「負け組」を救済せよ、と迫ります。

社会は常に正しいわけではありません。そして、社会の提示する価値基準では「負け組」となってしまう人が必ず存在します。そこであなたがすべきこととは、社会に反する新しい価値基準を提唱し、「負け組」の人を「勝ち組」へと変えてハッピーにすることなのです。つまり、あなたが石を投げたいと思う人たちこそ、あなたが救うべき人たちなのです(Kindle頁:39)

更にこのとき、相手が実際に困ってる場合ではなくても、「いやいやあなたは実は困ってるんですよ」と信じさせることも宗教の力。キリスト教の原罪だったり、仏教の悪人正機の基となっている考え方でもあります。

ここで大事なのは、相手は今まで「困っていると認識していなかった」ことです。「困っている」と思っていない相手に対して、「実はお前はこれこれこういう理由で、本当は既に困ってるんだぞ」というわけですから、ここにどういう理由を持ってくるかであなたのオリジナリティが問われます。そこで、もしあなたに「世間的には困ってないけど、あなただけは困っていること」があれば、それは大きなアドバンテージとなるでしょう。(Kindle頁:78) 

 この他にも、大衆に迎合しよう!インテリを巻き込もう!不要なものを売ろう!みたいな話がどんどん出てきてにやにや笑えます。それと真面目な宗教成立の考察があいまっているので、最後まで楽しく読み切れました。

おわりに

本書の中に、不幸に出会ったときの各宗教の捉え方に関する描写があるんですが、それがとても的を得ている感じがしました。

たとえば、病気や事故など何かの不幸に見舞われた時、ユダヤ教であれば「これも神の思し召し。神のすることは人間には計り知れないから神を信頼して耐えよう」と考えます。また、キリスト教も「神の思し召し。神を信じよう」と考えますし、イスラム教は「神が我々をテストしている」と考えるわけです。こうして意味付けられたことにより、弱っている人たちは「ただただ弱っている」のではなく、「何らかの意味があって弱っている」ことに気付きます。そして、その意味ゆえに自分の不幸を受け入れることができるようになるのです。これも一つのハッピーの形と言えるでしょう。  なお、仏教は不幸に説明を付けるというよりは、考え方一つで不幸もどうにかしようという宗教ですから、坊さんに相談しても、「病気になって不幸? そりゃ生きていれば病気にもなります」でたぶん終わりです。(Kindle頁:135)

 面白い。とってもいい本でした!

記録#47 『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』

Twitterの有名人、借金玉(@syakkin_dama)さん。

はてなブログも好きで良く拝見してます。

syakkin-dama.hatenablog.com

そんな借金玉さんが出版した、発達障害の方向けのライフハック術の本がこちらです。

私自身はADHDでもASDでもなく、ただ内向性がとても高いHSP(Highly Sensitive Person)なだけなんですが、参考になることばかりでした。

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術
 

仕事術

第1章、まずカバンの選び方から始まったところに驚きました。それくらい、どんなツールを使うか(人間の頭に頼らないか)が大切、ということなんだと思います。

  • とにかく一箇所に集約すること(カバン、手帳、片付け箱、アイデアシート)
  • 突っ込んだ中身は一覧できるように。「見えない=存在しない」ということ
  • その中身に対してすぐにアクセスできる・取り出せること

上の3つ、「集約化」「一覧性」「一手アクセス」は、借金玉さんが仕事をする上で通底するテーマ・コンセプト何だと感じました。

それを徹底するためのカバン選定、バインダーを活用した仕事術、手帳の活用法、印鑑の準備、素晴らしいと感じました。

本書の中で紹介されていた神棚ハックはさっそく実践しようと思っています。

人間関係

大きくポイントは2つ。

  • 所属するコミュニティの掟を理解し原則従おう
  • 相手を気持ちよくさせる「見えない通貨」を気前よく支払おう(挨拶、褒めること、メンツを立てること)

会社や組織には必ずくだらない、無駄だと思うことがあって(私もよくある)、でもそれにいちいち腹を立てていてもしょうがないし損。なら、まず掟を理解して、自分の負担にならない範囲で掟を守ってますよってことを伝えよう、と。

さらに、挨拶だったり相手のメンツを立てるってことは、こちらから相手に「見えない通貨」を支払うことだと。これをすることで、後々のやり取りがスムーズに行ったり。

この「見えない通貨」というコンセプト、すごく好きになりました。この通貨、ただだし。どんどん支払っていこうと思います。

生活習慣・依存

この章は、発達障害の方の辛さを追体験するような、読んでいて苦しくなる部分でした。

  • どうやって薬を飲み忘れないか
  • それぞれの薬の使用感はどうか
  • お酒とどう向き合うか

周りにこんな人がいるのかも、と思うと、自分になにかできることがあるんじゃないか、読みながらそんなことを考えていました。

全然話は違いますが、本文で紹介されていたお香と作業用タイマーさっそくAmazonで買いました。

おわりに

ライフハックとは別に、いくつか本当に素敵だな文章がありました。下に引用しておきます。

 人生において最も重要なスケジュールとは何でしょう。我々の人生に絶対に欠かすことのできないタスク。生きるために最も必要なもの。手帳のスケジュール欄に一番先に書き込んで確保すべき予定は何なのか。

 これはもう本当に明確で、「休養」だと思います。休まなければ人は死にます。そして、「休む」というタスクの実行はあらゆるタスクの中で最も容易だと言えます。「何もしない」という最優先タスクから予定を考えていくことが一番重要、という結論に僕は達しました。

Kindle位置:848)

 世界は「人生ハイスコア自慢」で満ちています。新聞も、テレビもインターネットも、人生ハイスコア自慢だらけです。まるで、ハイスコアを出すことが人生の目的みたいな気がしてきます。  そんなことはありませんよ。あなたの人生を生きましょう。

 ツイッターで僕のフォロワーが教えてくれた素敵な言葉を置いておきます。

「表彰台が全部埋まっていても、自分のレースを走り切ろうと思います」

Kindle位置:2331) 

 繰り返し述べているように、 生存は全てに優先します。逃げていいし休んでいいのです。

 努力なんてものは、やりたいときにやるべき環境が整っていたらやればいいことです。また、現在二次障害を患っている皆さん、どうか焦りすぎることなく心と身体を回復させることを優先してください。これだけ精神の疾患を患う人が増え、社会的にも知られるようになった現在でも、「うつは甘え」というあの言葉に集約される考え方を持っている人はいます。どうか、そういった言葉を真正面から受け止めず、自分の心を守っていってください。 (Kindle位置:1970)

自分の大切な人が毎日心穏やかに、元気に生きていけるように、 私も頑張っていこうと思いました。

素晴らしい本です。