ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#28 『これからは、生き方が働き方になっていく』内容はさておき。

Mistletoeでスタートアップ投資のディレクターを務める鈴木絵里子さんの初の著書。

Amazonでの本の紹介はこんな感じ。

楽しいのが一番だから、ワークライフバランスはもう考えない。好きなことを仕事にして、仲間やパートナーとコミュニティを作り、自分の多面性をさらけ出す。セクハラにもNOと言う。

ミレニアル女子の今と未来。

 (「Book」データベースより)

現在を「時代の大きな転換期」と捉え、AIやロボティクスなどのテクノロジーを基盤にした社会変革が進む中で、自信・つながり・コミュニティ化の3つの要素を持って、未来に対してワクワクしながら行きていこう、といった趣旨でした。

個別には、

  • 自分の好きなことを探ってそれを仕事に
  • 過去の学びのUnlearnと柔軟な学び、PDCAの代わりとしてOODAの実践
  • 土壇場では生き物として備わっている内なる声に従う
  • 家族も一つのコミュニティ、↑の学びを家庭でも活かす

って感じでしょうか。

 

著者の鈴木さんは、ご自身でフェミニストを自称していらっしゃいます。文中でも、ご自身が男性上司とした辛かったコミュニケーションや男性社会で行きていくことの生きづらさについての記述がちょくちょく書かれています。

読みながら、ピーター・ティールが最近の米国政治について語った、下の言葉を思い出しました。

 ティールはこうも言う。

 「僕は、選挙が現状を改善してくれるとはあまり期待していません」

 彼によれば、政事は多くの領域に介入しすぎている。ソフトドラッグを使うと捕まるのに、なぜ経営能力のない「無思慮」な金融機関を、自分たちの税金で救済しなければいけないのかわからない、というのだ。

 「政治は人々をいきり立たせ、人どうしの結びつきを破壊し、人々のビジョンを二極化します。『われわれの世界』と『あいつらの世界』、『善人』と『悪人』という対立です」

 (『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』 p217)

政治っぽい表現が苦手です。そんなに対立を煽ってなにかいいことがあるんだろうか、と思ったりします。

多様性や多面性を伝えようとする人やメディアがつかう「われわれ」と「あいつら」的な表現を見るたびに、わたしは少しずつがっかりして、かつその言説が社会に広がるのを見ると、 害悪であるとさえ思うわけです。 

これからは、生き方が働き方になっていく

これからは、生き方が働き方になっていく

 

 

記録#27 『人生やらなくていいリスト』人生誰もが自然を生きるアーティスト。

ご自身のオウンドメディア・4dskやその他記事で、独自のライフスタイルを発信し続ける四角さん。

ソニー・ミュージックやワーナーミュージックで10年以上プロデューサーとして働き、いまはニュージーランドに居を移しライフデザイナーや教育家等としてご活躍されています。

私自身はこの本を通じて初めて知ったのですが、自由な行き方を追求していらっしゃる。

「人は誰もがアーティスト(表現者)」というメッセージを掲げ、すべての人間に眠るオリジナリティを再起動すべく活動し、オルタナティヴな生き方を提唱し続ける執筆家。

大量消費社会と中央集権制度から距離を置くべく、持続可能でインディペンデントな生き方を求め、ニュージーランドの原生林に囲まれた湖で、自給自足ベースの〝森の生活〟を営み、年の数ヶ月は世界中で〝移動生活〟を送る。

 (4dsk-Profile

い、いいなぁ。。

自分の中にあるアーティスト性を見つめる

この本のメッセージも、まさにこの、人は誰もがアーティスト、という信念に基づき、自分の内面を活かすような生き方を、と伝える本でした。

周りの目や期待から自由になろう。

常識という小さな檻から飛び出そう。

基準がハッキリしない、無意味な人生の勝ち負けレースから脱出しよう。

もう、自分で自分を縛り付けるのはやめにしよう。

僕らが従うべきものはたったふたつ。自然の摂理と、自身の心の声だけだ。

(p10) 

自身の心の奥にアクセスし、自分自身と向き合える「孤独な時間」、この時間を「アーティストタイム」と呼び、今でも大切にしている。

 (p52)

 スピリチュアルっぽい方で、↑みたいなことをおっしゃる方は一定数いらっしゃるんですが、四角さんは音楽業界で数々のヒットを生んできたプロデューサー業・マーケティングのプロフェッショナルでもあるので、バランスの取れた表現で溢れていて、すごくいいなぁと感じました。

  • 会社の中では、特別なことではなく、当たり前のことを一生懸命にやること(四角さんにとっては、挨拶を続けること、感謝を伝えること)
  • 全てを平均点でやるよりも、自分ができることを他の人ができない品質の高さででやり遂げること(四角さんにとっては、好きな音楽と釣りについて熱意を持って伝えること)
  • いざというときには「これをやらなくても死なないよな」という心のバッファを持つこと(四角さんにとっては、やりたいことリストを作ってからTodoリストをひとつひとつ削除していくこと)
  • 心をリフレッシュする逃げ場所を持つこと(四角さんにとっては、休日にフライフィッシングをしに湖にいくこと)

自分の中で、少し前に読んだ『さよなら未来』とつながる部分がたくさんあって、すっと心に落ちてきました。 

nozomitanaka.hatenablog.com

 

自然を見習い、謙虚に生きる

自然の摂理に従って生きる、という四角さんの姿勢、見習いたいなと思いました。

いろんな物事を「私のおかげ」「誰かのせい」とするばかりの私たちに、自然は「そうじゃないよ」と語りかけてきます。

 マーケティングは、フライフィッシングと同じ。
 あらうる創意工夫と試行錯誤を重ねた末、魚が釣れたときには、自分の戦略が正しかったとか、魚や自然界に勝った、と勘違いしてしまうものだ。

 でも、実はそうではない。
 野生の生き物は、ぬるま湯の文明社会に生きる僕らと違い、数千倍もの熾烈な生存競争を生き抜いてきた強者たち。そして、厳しい自然界は、美しくシンプルに循環していて、そこには一切の矛盾がない。

 いっぽう人間は、自然界では身一つで生きることもできない、弱い生き物。矛盾と不正だらけの社会に生きる、複雑でいびつな生き物だ。そもそも人間は、大自然や野生の動植物たちからは、相手にもしてもらえない存在。まず、そのことを自覚し、心に刻み込まないといけない。

 だからこそ、狙って釣れるようなものではないし、釣れたときには自然と謙虚な気持ちになり、「運」と呼ばれる「なにか大きな存在」への感謝の念が湧いてくる。 (p243)

 肩の力を抜きながら、周りに感謝して生きて行きたくなる、いい本でした。

人生やらなくていいリスト (講談社+α文庫)

人生やらなくていいリスト (講談社+α文庫)

 

 

記録#26 『自分の仕事をつくる』魂を込めたものづくり。

 働き方研究家・西村佳哲さんによる、様々なものづくりのプロフェッショナルとの対話集。

 豊かな生のための、豊かなプロダクト・サービスの大切さ。

 そんなことを考えさせられる本でした。

やたらに広告頁の多い雑誌。10分程度の内容を1時間枠に水増ししたテレビ番組、などなど。様々な仕事が「こんなもんでいいでしょ」という、人を軽く扱ったメッセージを体現している。それらはかくしようのないものだし、デザインはそれを隠すために拓かれた技術でもない。p006

  ある、そんなものに溢れてる。

 人間は「あなたは大切な存在で、生きている価値がある」というメッセージを、つねに探し求めている生き物だと思う。そしてそれが足りなくなると、どんどん元気がなくなり、時には精神のバランスを崩してしまう。

 「こんなものでいい」と思いながらつくられたものは、それを手にする人の存在を否定する。とくに幼児期に、こうした棘に囲まれて育つことは、人の成長にどんなダメージを与えるだろう。

 大人でも同じだ。人々が自分の仕事を通して、自分たち自身を傷つけ、目に見えないボディブローを効かせ合うような悪循環が、長く重ねられている気がしてならない。p006

 この本の中で、西村さんは、柳宗理さんのスタジオだったり、パロアルトのIDEOオフィス、ベンチュラのパタゴニアなんかを訪ねたりしています。とっても羨ましい。

 どの作り手も、自身の製品に魂を込めて、世の中に問いを立てています。

 ただ図面を引いて値札を付けて、ということではない、目的と手段のバランスが取れた、素敵な仕事を実践している方々ばかり。

 折に触れて読み返したい本です。

 

 最近はハンドメイドマーケットアプリをよく見ています。そこにある製品の多くは、作り手の想いに溢れていて、使っていてもとても心地が良い。

 働き方だけではなく、生き方を振り返る意味でも、良い仕事というものを考えることの大切さを痛感しました。 

 個人として心の響いた一節はこれ。

仕事を通じて自分を証明する必要はない。むしろそれはしてはいけない。 

 自分はどこまで言っても自分。自分を証明するための仕事は、社会にとってはうるさいものになる。それはしちゃだめだよね、と。

 いつまでも本棚に残るやつです、この子。

自分の仕事をつくる (ちくま文庫)

自分の仕事をつくる (ちくま文庫)

 

 

記録#25 『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』徹底して競争を避ける逆張り人生。

 ピーター・ティール。

 電子決済プラットフォーム・Paypalや、CIAなどを顧客とするデータ分析企業・Palantirの創業者であり、Facebookの最初期からの投資家であり、スタートアップ界隈のみんなが大好きな本「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」の著者でもあります。

 この本は2017年9月にドイツで刊行された"Peter Thiel: Facebook, Paypal, Palantir - Wie Peter Thiel die Welt revolutioniert - Die Biografie"の邦訳。これまではバラバラとしたWebメディアやいろんなインタビューでは彼について色々明らかになってきましたが、1冊の本としてまとまったのは初めてかもしれません。

 ポール・グレアムやベン・ホロウィッツと並んで、その物事の捉え方について常々関心を持ってきたので、発売後すぐに読んでみました。

根底にある、圧倒的な独自性、逆張りの姿勢 

 ピーター・ティールは、2016年の米大統領選挙でシリコンバレー全体を敵に回しながらドナルド・トランプ候補に巨額の献金をして話題になりました。トランプ大統領誕生後は彼のテクノロジー面でのアドバイザーを務め、この3月に行われた最近のインタビューでも対中貿易などの問題に取り組むトランプ政権への評価を口にしています。*1

 大学では哲学を専攻していたという出自、「破壊的イノベーション」や「パラダイムシフト」等のバズワードの忌避、そして上記のような政治姿勢、全てにおいて徹底的な逆張りの姿勢を見せています。

 その背景にあるティールの思想は何なのか、この本を通じて明らかにされています。

 彼が深く信頼を寄せるのは、スタンフォード大学在籍時の恩師・フランス人哲学者のルネ・ジラール。模倣と競争をテーマとする研究を世に多く出しています。ジラールの主張によれば、人間の行動は「模倣」に基づいていて、他人が欲しがるものを自分も欲しがる傾向にある。よって模倣は競争を生み、競争はさらなる模倣を生む、と。

模倣こそ、僕らが同じ学校、同じ仕事、同じ市場をめぐって闘う理由なんです。経済学者たちは競争は利益を置き去りにするといいますが、これは非常に重要な指摘です。ジラールはさらに、競争者は自分の本来の目標を犠牲にして、ライバルを打ち負かすことだけに夢中になってしまう傾向があると言っています。競争が激しいのは、相手の価値が高いからではありません。人間は何の意味もないものを巡って必死に戦い、時間との戦いはさらに熾烈になるんです」p25

 ティールは、自分の思想や行動が誰かの模倣になっていないか、それが競争という茨の道へとつながっていないかを常に自問自答し、他人に投資をするときにもそれを大きな基準の一つとしているのでしょう。(本書の中で、その姿勢がウォーレン・バフェットと比較されていたり) 

 WIRED元編集長の若林さんとの対談記事のタイトルもそのまんま。これも面白い記事。

wired.jp

シリコンバレーを離れるティール

 大統領選あたりから、ティールに対するシリコンバレーからの風当たりは強まるばかり。そんな中で、彼は拠点をシリコンバレーからロサンゼルスやニューヨークに移そうとしています。

『ウォールストリート・ジャーナル』の記事によれば、いまのシリコンヴァレーは政治的に不寛容で極端に左傾しているのだという。反対意見はすべて排除されるような状況となっており、異なる視点を受け入れない文化は革新を妨げると考えたティールは移転を決意したのだと、記事には書かれている。 ティールはまた、シリコンヴァレーはワシントンから押し寄せようとしている規制の津波への備えができておらず、テクノロジーに新たな波を巻き起こすシリコンヴァレーの力は損なわれるだろうと警告するひとりでもある。 

ピーター・ティールがシリコンヴァレーに発した「不器用な警告」の真意|WIRED.jp

 本書の中でも、スタンダード大学での雑誌出版(スタンフォード・レビュー)、Paypal、Palantirそれぞれの組織で、いかにティールが思想や得意分野が異なる人達とチームを築き、それを成長させてきたかについて書かれています。

 プロダクト中心で、焦点を絞り込んだ上で即座に判断を下していく「アジャイル」な企業経営を続けてきたティールからすると、平準化されたエリートたちの閉鎖空間となったシリコンバレーでチームを作っていくことの魅力度はどんどん落ちているのかもしれません。

おわりに

↑の話の他にも、

  • グローバル化=「コピペ」
  • 「人は死ぬ」という概念への挑戦
  • 優秀さを基準にしない、Palantirの採用基準
  • 大学退学を迫るティール・フェローシップの現状と効果

のような話があって、最後の最後まで味わい尽くせる本でした。

小手先のスキル本よりも、異端の経営者、ピーター・ティールについて書いた本から学ぶことのほうが多いと思います。ぜひ。 

ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望

ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望

 

 

 

 

*1:同じ記事の中でビットコインに対する深い信頼を示していたり。時期が時期だけにすごいなと。

記録#24 『Lean UX アジャイルなチームによるプロダクト開発』Leanは文化だ。

5月から会社での役職が「リードソリューションデザイナー」になるので、GWの課題図書、学び直しです。

良いプロダクトをいかにスムーズに世に出していくか。デザイン、エンジニアリング、QA、マーケ、それぞれのチームが最適化された動きをしていても、全体を通してみたときには必ずしも理想的な進め方になっておらず、しばしば手戻りしたり、成果が無駄になったりする。

そこには断絶されたチームがあり、異なる目標があり、違う情報が眠っているから。

じゃあどうそれらをつなぐのか。そのための原則とプロセスに関する本です。内容を簡単にメモで残しておこうと思います。

Lean UXとは

リーンスタートアップアジャイル開発に触発されて誕生した、コレボレーティブかつ部門横断的な活動によってプロダクトの本質を素早く明らかにするための実践的な手法

  • ユーザー、ユーザーの課題やニーズ、解決策、プロダクトやサービスにおける成功の定義についてチームの共通理解を得ることを目指す
  • 意思決定に求められる証拠や検証結果を構築するために、デリバリーよりも学習を優先

Lean UXの基盤

①ユーザーエクスペリエンスデザイン
  • 人間を直接的に観察することを原動力とし、
  • デザイナー的な感性と手法を用いて技術的に実現可能なものを活用し、事業戦略とユーザー価値とマーケットにおける機会に置き換えながら人々のニーズを満たしていく
アジャイルソフトウェア開発
  • プロセスやツールよりも対人コミュニケーション
  • 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェア
  • 交渉よりもユーザーとの協調
  • 計画に従うことよりも変化への対応
リーンスタートアップ
  • 構築→計測→学習(Build→Measure→Learn)

Lean UXの原則

●チームビルディング

  • 部門横断チームで小規模+一つの場所に:非公式コミュニケーションを促進する
  • 自己充足的で権限を持つ:外部環境との依存関係を最小化する
  • 課題焦点型:機能の実装ではなく課題解決を目指す

●チーム・組織文化

  • 疑問から確信へ:最初はすべて推測や仮説、徐々に確度を上げる
  • 結果ではなく成果:有意義かつ計測可能なユーザーの変化を追う
  • 無駄を省く:最終目的とのつながりを担保
  • 共通理解を生む:チームとしての集合知
  • ヒーローは不要:個人に頼らない
  • 失敗を許容する

●プロセス 

  • バッチサイズを小さく:実装していないアイディア(在庫)を減らす
  • 継続して発見する:定期的にユーザーをプロセスに巻き込む
  • ユーザー中心・現場中心に:GOOB(Getting out of the Building)
  • 仕事を外面化:自分の手元に仕事を閉じない、誰でも見える場所に
  • 分析より形に:成果物ベースでの議論を
  • 中間生成物をなくす:ドキュメンテーションへらす

おわりに

プロセスについても色々事例があって面白いんですが、Lean UXの実現のために一番必要なのはツールや知識ではなく、文化なんだと感じました。

良いプロダクトをつくるための組織づくり・文化づくり、改めてがんばっていきます。 

Lean UX 第2版 ―アジャイルなチームによるプロダクト開発 (THE LEAN SERIES)

Lean UX 第2版 ―アジャイルなチームによるプロダクト開発 (THE LEAN SERIES)

 

 

記録#23 『さよなら未来 エディターズ・クロニクル2010-2017』イノベーションは勇気から生まれる

Twitterで下記の記事が流れてきてから、この本を読むのがほんとうに楽しみでした。

sayonaramirai.com

若林さんは、WIREDの編集長をされているときからずっと文章を読むのが楽しみな人で、クラシコムの青木さんとの対談なんか読んでても最高なわけです。

情報はいらない。未来も語るな。必要なのは「希望」である──編集者 若林恵×クラシコム 青木耕平対談 後編 – クラシコムジャーナル

上にあげた表題本の紹介サイトですが、日々テクノロジーがどうこうっていう人たちから色々お話いただく私からしても、このあたりの文章なんてものすごくしびれます。

 新しい世界を再想像するための種は探せばみつかる。少なくとも海外では確実に増えている。ただし、それはテックの領域においてではない。むしろカルチャーだ。「未来を考えることはテクノロジーを考えることである幻想」にまどろんだアタマで無理矢理でっち上げた「未来」をこねくりまわしているうちに、世界の風景はどんどん変わっている。先日北欧で訪ねたほとんどのコワーキングスペースのトイレは、当たり前のようにジェンダーフリーでしたよ、とか。風景が変わるということは文化が変わるということだ。もちろんそこにテクノロジーは大きな寄与をしている。ただし、それはあくまでも遠景の地紋としてだ。 

実際の本の内容は、若林さんが2010年以来Wired.jpだったりメディアに寄稿して記事をベースに、現在地から幾つかコメントを差し挟むものなんですが、↑のスタンスは全然ぶれない。私の解釈ですが、

  • インターネットを中心とするテクノロジーは個人の力を強める方に向かっていて、国家や大企業のような大きな組織から、個人や小企業のような小さな主体に移っていくだろう
  • 一方で、もともと社会の一領域でしかなかった経済が、科学技術なんかを背景にむしろ社会を覆い尽くすような規模にまで広がっていて、KPIだなんだと経済指標でしか評価されないような世の中になっていないか
  • そんな世の中の、科学技術に基づく未来なんて見据えても仕方なくて、希望や感動みたいな人の感情、そんな不安定なものまで抱きしめて進んでいけるようにならなあかんのじゃないか
  • そのためにはまず私たち一人ひとりが根っこの部分から感動する、心揺さぶられるような体験をしようよ、それを基にして人を、物事を見据えようよ、たとえば音楽とか、映画とか、旅とかさ

ということを、何度も、真摯に、まっすぐに伝える本でした。 

 まだ4月ですが、間違いなく今年の読んでよかった本ベスト10に入る本です。そして、今後10年で何度も読み返すことになる本だと思います。

いくつか、心にど刺さりした言葉を。

UXを語る前に自分の感動を見つめる

 自分になんの感動の体験もない人間が、もっともらしく「ユーザー・エクスペリエンス」を語り、数字しかあてにできない人間がしたり顔で「顧客満足」を論ずる。それによっていかに多くの現場がモチベーションを奪われ、クリエイティビティが削がれ、結果どれだけ多くのリスナーが離れていったことだろう。そりゃそうだ。そんな連中が作ったものに一体誰が感動なんかするもんか。

 人を動かす新しい体験をつくろうとするとき、人は「動かされた自分」の体験を基準にしてしか、それをつくることはできない。未来を切り開くことと「自分が心を動かされたなにか」を継承し伝えることは同義だろう、とぼくは思っている。(アー・ユー・エクスペリエンスト?)p92

答えの前に問いがある

 昨今「課題解決」なんてことがさかんに言われて、デザインもまた、そのための便利なツールとされている節があるけれど、僕がこの二冊に感銘を受けたのは、そうした風潮に真っ向から抗っていると読めたからだ。いま目に見えている課題を解決するなんて志が低い、そんなのは小さなビジネスしか生まないとティールは喝破し、ウィルコックスは、クスクスと笑いながら優等生的な「課題解決」を茶化してみせる。そしてともに「答え=ソリューション」ではなく「問い」の重要性に思いを至らせてくれるのだ。

 この特集の焦点は、どうやらあたりまえを疑う方法としての「デザイン」といったあたりにありそうだ。「問いのデザイン」とでも言おうか。それは、あまりに素朴な疑問やバカげた視点を見出すことで、見えなかった現実を見せてくれる実験のようなものだ。

 見え方においてはアートや発明といったものと隣接し、機能としては批評やジャーナリズム、詩や演劇のように振る舞い、感情においてはユーモアやノスタルジアなどと結びつく。問いのデザインは単なるソリューションビジネスを超えた、(哲学的な、とも言える)固有の領土を獲得し始めているように見える(専門家の言う「スペキュラティブデザイン」は、これにあたるのだろうか)

 しかし、それが果たして新しいことなのかどうかは知らない。縄文人ダ・ヴィンチが稀代のデザイナーであったというのなら、デザインは単に原点回帰を果たしているだけかもしれず、デザインを「見えていない世界を見ようとする人間の根源的な衝動」と見るのであれば、それを、ぼくらが、いま、なぜ、これほどまでに必要としているのかを問うことこそが、今どきのデザイン論の本義なのかもしれない。 p221

多様性を保つ責任はわたしたち全員にある

 いずれにせよ、僕らは一足飛びに未来に行くことはない。ユートピアディストピアも突然には出現しない。それは絶え間ない変化の蓄積の結果、気づいたらそこに現れているものだろう。その変化の間、日常レベルにおいても様々な軋轢や摩擦を起こしながら、時代の歯車は進んでいく。という意味で言えば、僕らは皆が全員、未来というものに対して多かれ少なかれ責任を負っている。こうなればいいのに、も、こんなものいらない、も、重大な判断、決断となる。そのときぼくらは、なにを見ながら、その判断を下すことになるのだろう。

 ぼくはといえば、今まで生きてきた中で大事だと思ったり、好きだと思ったものが失われないでほしいと思っている。その中身は、当然人それぞれによって違うものであって、それは違っていれば違っているほどいいと思う。ぼくは、未来の暮らしがその振れ幅と多様性とを許容するものであってほしいと思う。(静けさとカオス)p261-262

おわりに

タイトルにも書いた、「イノベーションは勇気から生まれる」ということば。この対になるのは、ニーズから生まれるイノベーション。そんなもんあるかボケ、ということなんでしょう。

勇気と愛。人生を豊かにする2つのもの。

いつも取ってるいい言葉メモが一気に増えました。素敵。おすすめです。 

 

記録#22 『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』 エビデンス・ベースト・食事。

数年前まで、食事に関する情報といえば「減塩!」「低脂肪!」「腹八分目!」「この栄養素!」のような内容が中心だったと思いますが、

最近はもっと尖った食事方法を提示する本が増えてきた気がします。

とはいえ、どれも個人の体験談+α(関連論文の提示など)に留まっている印象です。

そんな中でこの本。本書表紙裏のタグライン、こんな感じです。

今あなたが信じている健康情報は本当に正しい情報でしょうか?

本書では、最新の膨大な研究論文をもとに、
科学的根拠に裏付けされた「新しい時代の食の常識」を教えます!

著者はハーバードで学び、現在はUCLAで働く医師・医療政策学者の津川友介さん。

個別の論文から安易に結論を出すのではなく、それぞれのエビデンスレベルを見極め、メタアナリシスを中心とした「強い」エビデンスをもつ食事内容を紹介してくれています。かつ、それぞれの食事がどの疾患のリスクをどの程度低減させるのか(例:1日あたり85~170gの魚を摂取すると心筋梗塞により死亡するリスクが36%低下する)まで明記しているところも素敵だなと感じるポイントです。

誤った情報を入れないために

今後もどんどん食事に関する研究は進んでいく中で、津川さんはまず以下のような注意点を本書の中で示しています。極端で誤った健康情報があふれるこの環境のなかで行きていかなきゃいけない私たち...

  • エビデンスにはレベルがあるよ:メタアナリシスorランダム化比較試験or観察研究、それにも満たない個人の意見
  • 「成分」に惑わされすぎるな緑黄色野菜・果物を食べている人は肺がんが少ないことが報告されているが、βカロテンをサプリとして摂取するとむしろ肺がんリスクは情報する、等
  • 病気の人、子供、妊婦など状況によっては究極の食事内容は違うよ

何を食べるべきか

いよいよ本論です。

日本食は健康に良い!」という人がいますが、これについて検証されたエビデンスはまだないとのこと。一方で、一定の科学的根拠に基づいて健康に良いことがわかっている食事は、イタリアやスペインのような「地中海食」とされています。(日本食のGood=魚や野菜の摂取、Bad=白米+塩分の過剰摂取)

健康に良いということが複数の信頼できる研究で報告されている食品
  1. 心筋梗塞乳がんのリスクを減らす
  2. 野菜と果物:果物は糖尿病予防になる、果物ジュースは糖尿病になる
  3. 茶色い炭水化物(全粒粉、玄米、そば、キヌア等)心筋梗塞脳卒中、糖尿病のリスクを減らす
  4. オリーブオイル脳卒中やがん、心筋梗塞のリスクを減らす
  5. ナッツ類脳卒中やがん、心筋梗塞のリスクを減らす
小数の研究で健康に良い可能性が示唆されている、ひょっとしたら健康に良いかもしれない食品
  1. ダークチョコレート:高血圧患者の血圧を下げる、心筋梗塞予防・インスリン抵抗性改善・アルツハイマー予防に効果的?
  2. コーヒー
  3. 納豆
  4. ヨーグルト
  5. お酢
  6. 豆乳
  7. お茶

何を食べないべきか

健康に良いということが複数の信頼できる研究で報告されている食品
  1. 白米:糖尿病のリスクが増える
  2. 赤いお肉(牛肉・豚肉、加工肉):大腸がん、心筋梗塞脳卒中のリスクが増える
  3. バターなど飽和脂肪酸
小数の研究で健康に悪い可能性が示唆されている、ひょっとしたら健康に悪いかもしれない食品
  1. マヨネーズ
  2. マーガリン

上にでてきたそれぞれの食材について、どんな研究があってどんなリスクが報告されているか、相当丁寧にかつわかりやすく書枯れています。その他にも

  • グルテンフリーで健康になれるというエビデンスはなく、かつダイエット効果の根拠も乏しいこと
  • 卵の摂取量についてはいろいろ説がでているが、1週間に6個以下にしたほうが2型糖尿病心不全リスクの観点から良い
  • 糖質制限として赤いお肉の摂取量を増やすことは脳梗塞やがんのリスクを高めること、かつ代表的な糖質制限ダイエットで6ヶ月では体重減少したものの12ヶ月ではもとに戻ってしまった(リバウンドした)というランダム化比較試験結果があること

などが示されていて、とても勉強になりました。

おわりに

津川さんは本書第1章で、「体に良くない」と「食べるべきでない」を混同しないように、と書いています。

私は加工肉、赤肉、白い炭水化物などは「体に良くない」と説明しているのであって、「食べるべきではない」と主張しているのではない。すべての人はその食事によって得られるメリットとデメリットを十分に理解した上で、何を食べるか選択すべきだと思っている。
甘いものが好きな人にとっては甘いものを食べることで幸せな気持ちになり、幸福度が上がるかもしれない。そういう人にとっては、甘いものをゼロにすることで健康にはなるけれども人生が全く楽しくなくなってしまうこともあるだろう。そのような場合には、幸福度と健康を天秤にかけて、毎日少量の甘いものを食べるという食事を選択するのも合理的な判断であろう。
しかし、そのような食事を正当化するために、「甘いものも少量であれば健康に悪影響はない」と解釈することはおすすめしない。そのように科学的根拠を曲解することは他の人にも間違った情報を与えてしまうリスクがあるためである。(本書pp.40)

私たちは健康になるために生きているわけではないので、正しい情報をもってデメリットを自覚しながら、食べるものを選んでいきたいなと思いました。

よし、まずはお蕎麦の乾麺を大量注文しよう。

 

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

 

 

桝田屋 うまい信州そば 315g 8袋入れ

桝田屋 うまい信州そば 315g 8袋入れ