記録#8『弱いAIのデザイン』AIに強弱あるんですか?という人にぜひ
AIああAI、と喧しい時代
「AI(人工知能)に仕事を奪われる」「今後10年で現在の半分の仕事がなくなる」
そんな話の起点になったのは、2013年にオクスフォード大学のMichael A. Osborne教授がCarl Benedikt Frey研究員と共同で出版した「雇用の未来」という論文です。
THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?(元論文)*1
それ以来、新聞や週刊誌で「将来AIに奪われる仕事リスト」「AI時代にも稼いでいける職業はどれ?」なんていう特集が組まれたりしています。
AIって何のことなんでしょうね。上の元論文ではAIではなく、computerisation(コンピュータ化)っていう表現をしていたりします。
弱いAIとその付き合い方
最近読んだ『弱いAIのデザイン』という本では、AIを大きく3つに分類しています。
- スーパーAI:強いAIを生み出し続けるAI。神。ここまで来るとSF。
- 汎用AI(強いAI):人間のような抽象思考を行いすべての領域をカバーしてくれるAI。24時間365働き続ける優秀な子。
- 弱いAI(特定機能特化型AI):掃除や料理など一部の機能に特化して、データをとったり解析したり、指示したり活動したりしてくれるAI。機能外のことについては無力。
多くの人にとってAIというと1 or 2のイメージだと思いますが、現実に検討されインストールされているのは3です。
代表的な例だと、ルンバなどの自動掃除機やSpotifyやAmazon Musicみたいな音楽リコメンドサービス。ルンバやSpotifyに今日の夕食のメニューを考えてもらうことはできませんが、それぞれ任されたことは人間並みに/人間以上にしっかりやってくれます。そんな弱いAIが、今後もっと色んな分野で導入されていくと思います。(わたしが携わっている医療・ヘルスケアの領域でも)
弱いAIを使ったプロダクトの切り口
どんなところで弱いAIが活躍してくれそうな領域のリスト。アイディア出しやワークショップの切り口に良さそうだなと思いました。
- 準備:人間の行動を検知し、その人の役に立てるように自ら準備する(例:オフィス椅子に座った瞬間にPCを起動する)
- 最適化:実現性を考慮し、ユーザーに最適なものを選択する(例:オフィスに到着した時の気分を予測し心地よい作業用BGMを流す)
- 助言:進行中のタスクを監視し、よりよい選択肢や代替案を示す(例:長時間パワポ作業をしている人に休憩を提案する)
- 操作:自らの裁量でAI自らがアクションを取る(例:届いた宿泊予約確認メールを認識してカレンダーに予定・場所・日時を入れる)
- 抑止:目的や状況を踏まえて一部の機能をオフにする(例:PCスクリーンを投影中にチャット通知をオフにする)
- 終了:使用中止となった時に機能全体を停止する(例:オフィスから人がはけ次第、照明を空調を自動できる)
上の例を書いていて、「それIFTTTでできるやん」って思うものもあったりして、私のなかでもAIっていうものが全然理解できてないんだなぁという振り返りになりました。IF-Thenを人間が書くのと自律的に書くのの違い...??
製品・サービスデザイン上のポイント
表題の本は、弱いAIを組み込んで製品・サービスをデザインしていく上で何が大切かについて述べています。まとめると「このAIでできること・できないことをユーザーに明確に認識させること、その上でAIを信頼させることが大切」ということだと思います。
- できることを明確に伝えることはもちろん価値にある
- 一方でできないこともしっかり伝えておかないとユーザーの期待値に合わなかったり時に大事故になるなんてことも(自動運転のAIとか)
私もAmazon Echoやルンバを使っていますが、いろんなことを彼らに期待してしまいます。AIが組み込まれた製品を使うとユーザーの期待値がどんどん上がっていくのはある種自然なことなのかもしれません。設定変更や再起動なんていういかにもめんどくさそうでどうしてもユーザーがかかわらなければいけないシーンでも、どれだけユーザーに失望を与えず使い続けてもらえるか、そのための期待値コントロールをどうするかがデザインの重要なポイントになるんだと感じます。
本書の中では、
- セットアップ
- 実行把握
- 実行管理
などの各プロセスで、いかにユーザーの期待値をコントロールし、信頼関係を築き続けるかに関する考え方やそれを実現しているプロダクト例をたくさん紹介してくれていて、プロダクト企画や設計に関わる人が読むと面白く読めるんではと思いました。
さいごに
いま仕事で関わっている医療・ヘルスケアの分野でもAIの活用が進むことが予想されています。特に画像診断では事例が相当出てきていて、疾患の早期発見や医療者の負担軽減につながるサービスが実現するんじゃないかと思っています。*2
私たちのサービスはメッセージング・コミュニケーションの領域ですが、上で言うところの「助言」「操作」あたりではAIの活用余地がかなりあります。AIの脅威について語るんではなく、それを使っていかに目の前のプロダクトを改善してあたらしい価値をつくるかに全力を尽くしたいと思います。
ツールからエージェントへ。弱いAIのデザイン - 人工知能時代のインタフェース設計論
- 作者: クリストファー・ノーセル,武舎広幸,武舎るみ
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2017/09/29
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