記録#313 『医療4.0 第4次産業革命時代の医療』
感じたこと
- それぞれの医療者によってみている課題も違うし、フォーカスも違う。多様な取り組み領域が生まれるのはとても健全なことだ。
- 小児から救急まで、またエンジニアから腫瘍血液内科の専門医まで、幅広い方々のアクションと問題意識を伺うことができたのはとても良かった...
内容
- 日本の医療における変化と課題
- これからは急激な人口減少を経験する。明治時代から見ると4倍近くの急激な増加を遂げた人口も、2060年には8,674万人程度へと4千万人規模で減少する。ただし高齢者の増加は東京都や大阪府などの都市圏で上昇し、地方部ではむしろ高齢化がピークに達しているところも。
- 社会保障給付は2016年に118.3兆円に達し、その半分が年金、医療費が3ワイr、介護費用が2割となっている。また、社会保障給付費が国民所得に占める割合も3割に達している
- 死因としての感染症が減少する一方で癌・心疾患、脳血管疾患など生活習慣病が増加し全体の6割をしめ更に増加を見せている。また生活習慣病関連医療費は全体の3割を占める
- 寿命そのものは伸びているものの健康寿命との間には10年のギャップが存在しており、要介護率や認知症罹患率は上がっている。2025年には65歳以上人口の約20%・700万人が認知症患者になると想定される
- 医療とテクノロジーの現状と展望
- ウェアラブルデバイスでの健康管理:アップルウォッチやFitbit・Alta、ムーヴバンド3などの腕に巻くものから、東レ・hitoeや東洋紡・COCOMIなどの衣服センサーも。メガネ型としてJINS MEMEも。これらを活用することで割引のある保険商品も登場
- ゲーミフィケーションの活用:POKEMON GOによる運動効果向上、大腸がん発見のためのスマホゲーム・うんコレなどはエンターテイメント性をキーにした事業展開
- 医療情報非対称性の解消:胃癌早期発見のための「ピ」や、大腸がん早期発見の「プ」などのプロジェクトが立ち上がり。ベテラン医師のノウハウをデジタルデータ化しAIに読み込ませるなど。
- ゲノム医療で個人を見える化:全遺伝情報を解析し予測医療に活用する、あるいは遺伝子編集などを通じて根治や予防を図る
- AIによる画像診断:エルピクセル社の画像異常検知による医師診断支援や国がんが研究する内視鏡検査時のリアルタイム病変検出システムなど。眼科領域でも眼底画像から糖尿病性網膜症を検出するサービスが2018年4月にFDA認証されており、医師を介さない自動診断が可能に。
- AI問診で医療者の業務負荷軽減:自治医科大学が開発している総合診療支援システム「ホワイトジャック」やUbie社が提供する電カル連携型問診・病気予測アプリなど。
- 家庭での事前問診:LINEを用いた受信前問診「メルプWEB問診」やメディカルローグ社のpre putがあり、今後はスマートスピーカーやIoTデバイスとの連携が期待されう領域。
- AIによるセルフケアサポート:小児科オンラインやMedical Note医療相談、LEBERなどの遠隔医療相談を活用して一般的な対処法を把握する。その他ココロワークスやcotreeでは臨床心理士がカウンセリングサービスを、famioneでは不妊症看護認定看護師によるチャット相談、ラッコの妊娠相談室ではLINEで手軽に妊娠や性感染症の相談が可能
- AIによる創薬支援:化合物のビッグデータを含めて新薬の効果や副作用を予測し新薬候補を絞り込む。
- AIによる介護プラン作成やトレーニングの効率化:ユマニチュードケアに基づくエクサウィザーズ社の認知症ケアコーチングAI。1万件の介護保険データをベースにしたCDI社のケアプラン自動生成。さらに認知機能検査・経過観察支援システムのD-Cloud Pro等を提供
- 手術支援ロボット:ダヴィンチやSedasysを始めとする外科領域でのロボティクス×AI
- VR/AR:医学教育や治療、手術分野での活動。シルバーウッド社のVR認知症、mediVR社のVRリハビリ、CT画像から臓器の立体画像を作成するHoloEyesXRなどが代表的な事例
- 医師同士の遠隔連携支援:皮膚科と眼科領域でのD2D連携支援「ヒポクラ」、参加医師同士の質疑応答機能も内包する「AntaaQA」など
- アプリで治療支援:禁煙治療アプリCureApp禁煙や不眠症治療アプリyawnなどは臨床研究を実施。JOINのように保険償還まで狙う
- PHRによる情報管理一元化:救急搬送時の医療情報確認のためのMySOSや、Welbyマイカルテ、CARADA、MeDaCaなどが該当。医療機関の診察や検診データをいかに連携させるかが課題。
- 未来を描く医師30人による展望
- 阿部 吉倫(Ubie共同代表、医師)
- 医師が事務作業や調べ物に費やしている時間は膨大。AIにより非中核業務を削減し医師が患者と向き合える世界を実現する
- AI搭載医療機器を含めたより効率的な診断デバイスにより検査コストや診断リードタイムを削減し、治療効果の低い疾患に対するアプローチは個別化治療で解消されていく
- 外来患者満足度に大きく相関があるのは接遇と待ち時間。AI技術を活用した電子問診票を活用することでカルテ記載をサポート、医師の生産性向上を支援する
- 17年12月に製品版をリリース、導入も進んでおり多施設研究も開始されている
- 五十嵐 健祐(御茶ノ水循環器内科院長)
- 医療の民主化、つまり医療者が本当に手がけるべき医療を取捨選択する時代がくる。かぜは自宅療養やセルフメディケーションで治療、インフルエンザ検査も医療行為ではなくなり薬局などで自己検査する
- さらには予防の重要性が高まり、喫煙が違法行為になることまであり得るのでは。
- 判断主体と責任主体が切り分けられることで諸問題が発生する「判断責任ミスマッチ」はAI時代のこれから深い問題になりうる
- 今後も医療分野の制度やルールはどんどん変化していく。その中で重要なことは圧倒的な現場視点とそこから生まれる当事者意識と使命感を持ち続けることを大切にしていく
- 石井 洋介(日本うんこ学会会長、医師・クリエイター)
- 健康意識が高くない人にいかにアプローチするかを考えるときに、「楽しい」「面白い」を再重視したエンターテイメントファーストな医療情報発信を考えた
- 多くの地域の医療は撤退戦で、現状の医療提供体制と比較すると縮小の方向性に動いていく。その中で、医療者のマンパワーのみに依拠しているといずれ回らなくなる
- 危機がすくそこまで迫る中、AIやロボットなどの活用はできる人が引っ張って進めていくべき。主体性を持ったイノベーターをたくさん生むこと。
- 伊藤 涼(MediBloc社Alliance member、医師(内科・救急科))
- 猪俣 武範(IoMT学会代表理事、順天堂医院眼科助教)
- 人間とAIのもつ力をかけ合わせたハイブリッドメディシンの時代に。
- 医療機器時代がIoMT化されれば院内の流通プロセスやオペレーションが改善され、さらには診療の質の改善に重要な「過程」のデータが取得されるようになる
- 岩本 修一(ハイズ人材戦略部長、総合診療医)
- 診療報酬が将来的に下がっていく上で、病院施設としてのブランディングを通じて「選ばれる病院」になっていくことが求められる
- 更には職員から選ばれる、地域から選ばれるといった外部からの視点をおりこんだ施設評価を実施していくべき
- 病院経営を担うマネジメント人材の重要性は今後10年重要となり、よい病院経営が良い現場に、良い現場が良い医療につながるというサイクルを生み出す
- 小川 晋平(AMI代表取締役、循環器内科医師)
- 沖山 翔(アイリス代表取締役、救急医)
- 菊池 亮(メディサイド代表取締役、整形外科医)
- 救急自動車に依る救急出動件数は年間600万件以上と毎年過去最高を更新しており、そのうち半数が軽症の傷病者。医療リソースを圧迫している。また夜間の受診患者の5~7割、小児だと9割は入院が必要ではない軽症患者。
- 自己負担比率を高めるような施策に加え、22時以降二次・三次救急のみになってしまう医療共有を変化させるためにファストドクターを立ち上げ
- 北城 雅照(新潮会理事長、経営心理士、整形外科医)
- 近都 真侑(千葉西総合病院産婦人科、ヤフー株式会社産業医)
- 小橋 英長(慶應義塾大学眼科学教室特任講師)
- 小林 紀方(クアドリティクス代表取締役、脳神経外科医)
- 佐竹 晃太(キュアアップ代表取締役、呼吸器内科医)
- 柴田 綾子(「ラッコの妊娠相談室」運営、淀川キリスト教病院産婦人科)
- 白岡 亮平(ナイズ理事長、メディカルフィットネスラボラトリー代表取締役、小児科医)
- 園田 正樹(Connected Industries代表取締役、産婦人科医)
- 田中 由佳里(東北大学大学院医学系研究科行動医学助教、消化器内科医)
- 中西 智之(T-ICU代表取締役、集中治療医)
- 中山 俊(アンタ-代表取締役、翠明会山王病院整形外科)
- 二宮 英樹(トライディア データサイエンティスト、医師)
- 30年前には高度なツールだったExcelがいまでは民主化されたように、今後はscikit-learnやTensorFlow、ChainerなどのPythonライブラリも今後どんどん一般化していく。その中でキーになるのはデータ量を樹分にモテるかと、適切なラベリングができるかどうか
- 現状ガイドラインに沿った標準治療が浸透していない部分もあり、医療の標準化や効率化はもっとアプローチできる部分。
- AIを用いた画像自動読影システムはすでに開発されており、イスラエルのゼブラ・メディカル・ビジョン社は1スキャン1ドルでの自動読影サービスを既に提供
- 飛行増加データの前処理は非常に大変、日常診療を行っていくうちに自然と臨床的に有用なデータが蓄積していくような世界を実現できないか
- 橋本 直也(kids Public代表取締役、小児科医)
- 小児医療の中心が非感染性疾患に写ってきており、虐待や肥満、心身症、発達障害、アレルギー、不登校、不慮の自己などに代わってきている。児童虐待の相談は年間12万件、不登校の生徒数も13.5万人と過去最高を更新している。
- 産前産後の切れ目のないケアやプレネイタルビジットといった妊婦・母親に対するケアの充実が急務
- 小児医療現場では軽症受診や重複受診の多さが医療リソースを圧迫しており、更に小児医療の地理的偏在も問題として指摘されている
- 小児科オンラインは行政や企業との連携により99.9%のユーザーは無料で利用することが可能。現在産学官連携のランダム化比較試験も実施しており、今後社会インフラの一つとして成立させていきたい
- 原 聖吾(情報医療 代表取締役)
- 現状日本で取得されているのは病気になったあとのデータ。病気になる前の生活環境や習慣などのデータは整備されていない
- 病気になったあとの治療には40兆円を超える国民医療費が投じられている一方で、その周辺にある健康管理関連市場は4千億円程度と1%にとどまる。それに伴うデータ量にも大きな差がある。
- 今後は病気前・病気後のデータと都合を皮切りに、より広範なデータ活用、よりよい医療の実現に向けて進んでいく
- 原 正彦(日本臨床研究学会代表理事、mediVR代表取締役、循環器内科医)
- セルフメディケーションを中心に発展していく。医療費の増大がこのまま続いていくと国民皆保険制度を維持できなくなる。自身が行っているプロジェクトはすべてセルフメディケーションが普及した未来を意識している
- mediVRでの自宅リハビリも、脳梗塞後に家族が「ファミリーメディケーション」に近い形でリハビリを提供できるのでは、という思いから実施
- 現在薬の効果はRCT・マスデータにより薬の効果をが推定されているが、今後は個々人に対する薬剤の効果を個別に予測し最適な治療を提案できるようになるのでは
- セルフメディケーションが進む前段階として医療現場の自動化が進む中で様々な派生効果がでてくる
- 眞鍋 歩(Mediplat、眼科医)
- firstcallを通じて予防医療の推進を実現したい。病気に対する正しい知識と、症状を放置せずに早めに誰かに相談できる環境をそれぞれ提供する
- 明星 智洋(江戸川病院腫瘍血液内科副部長、プレシジョンメディスンセンター長)
- 物部 真一郎(エクスメディオ代表取締役、高知大学医学部特任准教授、精神科医)
- SenselyやFigure1のように、医療者とエンジニアが共同してスタートアップが立ち上がってきている
- 臨床の現場の課題を持った医師や患者とエンジニアがともに課題解決に取り組んでいくような絵姿が今後どんどんと生まれていくのでは
- 森 維久郎(デジタルハリウッド大学大学院、「腎臓内科.com」運営、腎臓内科医)
- これまでの医師は「一般人が知らないことを知っている」という情報の非対称性が価値だったが、これからは情報のキュレーションに価値を見出すことになる
- 今後の医療にとっては医療の質よりも行動変容が大切になるのでは。そのためには患者・家族にとっての納得度が重要になる。正しい医情報は届けているが行動につながらない患者、というも一定存在するのが現状。彼らをどう動かせるのか。
- 技術を扱えることの価値は今後どんどん減ってくる。現場最強、の価値観を持っている。
- 透析を実施する人の4~50%が糖尿病。自身が糖尿病だと知っていたとしても、約40%が治療を中断してしまう。既存の啓発・投薬だけでは不十分で、コミュニティ形成やエンターテイメント性を高めることが必要になる
- 吉永 和貴(フリクシー代表取締役、エンジニア、医師)
- 2030年には「ヘルスケアなら〇〇」のような世界的プラットフォーマーが現れるのでは
- システムのことがわからない医師は「この前依頼したこの機能、まだ開発できないの?」などと言いがち。データ処理などの目に見えない部分も大変なんだよ...
- 吉村 健佑(千葉大学医学部附属病院病院経営管理学研究センター 特任講師、精神科医、産業医)
- 阿部 吉倫(Ubie共同代表、医師)