たなかの読書記録

スタートアップで働く人間が、読んでよかったなぁと思う本を紹介していきます。

記録#38 『ホーキング、宇宙を語る』時間、ビッグバン、ブラックホール

今年3月に亡くなった物理学者、スティーブン・W・ホーキング博士。ALSを患いながらも、一流の宇宙物理学者として長く活躍してこられました。

本書はそんなホーキング博士の研究内容について、一般向けに書かれたものです。全世界で1千万部以上売れているらしい。すごい。

確かに数式も少なく言葉自体は平易です。が、宇宙というものを考えるときに必要となる時間の概念や光の性質、素粒子論などについて、それほど多くの人が理解できるとはとても思えず...最後まで通読できる方がそんなにいるんでしょうか...

時間の話

ニュートンアリストテレスが信じてきた”絶対時間”というものについて、「そんなものはないよ」というお話。

絶対時間とは、「いかなる観察者とも無関係に存在し、宇宙のいかなる場所でも一定の早さで進んでいく」時間のこと。客観的事実としての、どの空間でも、どの人にとっても、同じように流れていく、そんな時間。

アインシュタインが発表した相対性理論はその考え方を覆すもので、

  • 運動をしている物体は、その運動速度が早いほど(光速に近いほど)時間の流れが遅くなること
  • 強い重力を受けている物体は、その力が大きいほど時間の流れが遅くなること

ということを示し、「時間は伸び縮みするよ、絶対的なものじゃないんだよ」と我々に教えてくれます。

この辺の説明は、下記の記事がわかりやすかったです。*1

ai-revolution.net

ビッグバンの話

「ビッグバンの前に何があったのか」、問うことは現状無意味だよ。だって時間という概念が生まれたのもビッグバンのときなんだから」というお話。

ビッグバン時点の宇宙は、無限のエネルギーを持ち、大きさはゼロ。いま、宇宙は膨張しており(年5~10%??)、それぞれの宇宙の温度は少しずつ下がっている。

地球という単位で見ると温暖化なんだと叫ばれてますが、宇宙単位では冷却中なんですね...

ブラックホールの話

ホーキング博士は1974年、「ブラックホールはそれほど黒くないかもしれない」という仮説を提示しています。

これは、ブラックホールが光を含めてあらゆるものをその超巨大な重力のうちに取り込んでしまうため、真っ黒に見える(光を発することができない)はずという当時広く信じられていたブラックホール論に異を唱える説でした。

ホーキング博士は、とある物質はこのブラックホールから飛び出てくるはずだとして、科学者はその現象を「ホーキング放射」と呼んでいたとのこと。

2016年、どうやらこの仮説が正しいことが実験で確かめられています。

wired.jp

1970年代ではそもそも観察技術が足りなかったため検証できなかった仮説が、今になってようやく確かめる事ができたと。

ホーキング博士、すごい、その想像力たるや。 

おわりに

とにかく難解でした。何度呼んでも、私には完全に理解できるような内容ではないと思います。

それでも、ALSと戦いながら、家族と精一杯生活を楽しみながら、この境地まで到ることができるというのは、人間に対する讃歌だとも思うわけです。

 

ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)

ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)

 

 

*1:正直、この本だけだと宇宙のことがよくわからなくて、いくつか追加で記事を探して読みふけりました...勉強になりましたありがとうございます...!!

記録#37 『世界の国 1位と最下位』岩波ジュニア新書 1冊目。

岩波ジュニア新書の本をいくつか読んでみようと思っています。

このシリーズの本の末尾に「岩波ジュニア新書の発足に際して」という文章が載っています。

 君たち若い世代は人生の出発点に立っています。君たちの未来は大きな可能性を持ち、陽春の日のように光り輝いています。勉学に体力づくりに、明るくはつらつとした日々を送っていることでしょう。

 しかしながら、現在の社会は、また、さまざま矛盾をはらんでいます。営々と築かれた人類の歴史の中で、幾千億の先達の英知と努力によって、未知が究明され、人類の進歩がもたらされ、大きく文化として蓄積されてきました。にもかかわらず現代は、核戦争による人類絶滅の危機、貧富の差をはじめとするさまざまな人間的不平等、社会と科学の発展が一方においてもたらした環境の破壊、エネルギーや食糧問題の不安等々、来るべき二十一世紀を前にして、解決を迫られているたくさんの課題がひしめいています。現実の世界はきわめて厳しく、人類の平和と発展のためには、きみたちの新しい英知と真摯な努力が切実に必要とされています。

 きみたちの前途には、こうした人類の明日の運命が託されています。ですから、たとえば現在の学校で生じているささいな「学力」の差、あるいは家庭環境などによる条件の違いにとらわれて、自分の将来を見限ったりしないでほしいと思います。個々人の能力とか才能は、いつどこで開花するか計り知れないものがありますし、努力と鍛錬の積み重ねの上にこそ、切り開かれるものですから、簡単に可能性を放棄したり、容易に「現実」と妥協したりすることのないように願っています。

 わたしたちは、これからの人生を歩むきみたちが、生きることのほんとうの意味を問い、大きく明日をひらくことを心から期待して、ここに新たに岩波ジュニア新書を創刊します。現実に立ち向かうために必要とする知性、豊かな感性と想像力を、きみたちが自らのなかに育てるのに役立ててもらえるよう、すぐれた執筆者による適切な話題を、豊富な写真や挿絵とともに書き下ろしで提供します。若い世代の良き話し相手として、このシリーズを注目してください。わたしたちもまた、きみたちの明日に刮目しています。 (1979年)

 1979年という年は、1960年代末から続いた冷戦の緊張緩和から一転、再度緊張が高まった年です。ソ連アフガニスタンに侵攻、中東ではイラン革命が起きるなど国際情勢が緊迫し、1980年からはイラン・イラク戦争に発展するなど、世界中が大混乱に陥りました。

 そんな中で、これからの時代を背負う子どもたちに対して、矛盾に溢れたこの世界の中でそれぞれの能力や才能を開花させ、生きていくことの意味を提示しようとする姿勢と、その思いから生み出される本や知識。いっそう複雑化するこの世界でも、一読の価値があるのではと思います。

1位はわかる。では2位、3位は?

本書『世界の国 1位と最下位』は、人口や国土の広さ、経済規模、食料自給率貧困率などについて、世界で1位の国と最下位の国を比較することを基本としています。人口なら一位は中国、最下位はバチカン、といったように。

ただ、個人的に面白いなと思ったのは、上位・下位それぞれ2~10位程度の"群"とその分布についてのコメント。

例えばGDP国内総生産)の視点でいうと、最下位として紹介されているのはツバルとナウル*1。それに続いてアフリカのギニア湾上に浮かぶ島国、サントメ・プリンシペとなります。最新のデータ*2を見ると、その他に下位に位置する国はキリバスパラオマーシャル諸島ミクロネシアといった太平洋上に浮かぶ島嶼国家が並びます。

これらの国々を群としてみると、島国であるというだけではなく、長年他の国の植民地とされる中である種いびつな経済構造(単一作物栽培など)を強いられてきた国ということがわかります。この他にも、貧困率や食料自給率出生率なんかについても、群で捉えると、ただ知るだけではなく、考える、というきっかけになるな、と思っています。

ナウル共和国について紹介した本を読んだ時の感想を書いた記事。『アホウドリの糞でできた国

nozomitanaka.hatenablog.com

日本の人口がフィリピンより少なくなる日

私自身も、本書を読んでいて初めて知った事実がたくさんあります。

GDPのだいたい概念としてGNH(国民総幸福量)が紹介されていたり、オリバー・サックス開発経済学の概念がたくさん出てきたり、2010年にそういうトピック盛り上がっていたな、と思い返すきっかけにもなりました。 

おわりに

岩波ジュニア新書シリーズ、ざっとテーマだけでも見てみると面白いと思います。

岩波ジュニア新書 - 岩波書店

短歌は最強アイテム』なんていう尖ったタイトルのものも... 

世界の国 1位と最下位――国際情勢の基礎を知ろう (岩波ジュニア新書)

世界の国 1位と最下位――国際情勢の基礎を知ろう (岩波ジュニア新書)

 

 

*1:本書出版の2010年時点。2016年ではツバルが最下位で約3,400万ドル(約35億円)

*2:世界の名目GDP(USドル)ランキング - 世界経済のネタ帳

記録#36 『独学プログラマー』 やるぞ、Pythonでデータサイエンス

昨年2017年末にG's AcademyのData Science Bootcampに参加して、Pythonを活用した機械学習・データサイエンスにトライしていました。

いまはビジネス・デザイン中心に働いていますが、中期的にデータ周りの力をもっとつけて、データサイエンスの方々と一緒に働けるようになりたいなと思っています。

それに向けて、一人ひっそり学びを続けています。どこかのコミュニティに入ってメンター探して、みたいなのをおすすめされるんですが、人見知りを発動させてなかなか飛び込めずにいます...*1

タイトルそのまま、「独学プログラマー」読んでみました。著者のコーリー・アルソフさんは政治学を学んで大学を終了後、1年間プログラミングを独学しながら、その後eBayのソフトウェアエンジニアとして働き始めた人。相当努力されたんだろうなぁ...

プログラミングの基本

本書で言うところのプログラミングは、Pythonを基としています。これまで全く触ったことのない方でもわかりやすいように算術演算子や関数からはじめ、ループやファイル管理まで扱っています。

適宜「知識を一つにまとめる」というタイトルで演習が入っているのがとても良かったです。私はGoogle Colaboratoryを使ってやりました。便利。

www.codexa.net

オブジェクト指向”といわれるもの

これまで何度か聞いていたと思うんですが、やっとぱっきり理解できた気がします。

「相互に作用するオブジェクトを定義するパラダイム」と言われるとよくわからなかったんですが、手続き型プログラミング・関数型プログラミングと対比してもらって、かつ例もわかりやすくてありがたい...

バッグにオレンジがいくつも入っている状況を例に説明すると、どのオレンジもそれぞれがオブジェクトです。どのオレンジにも、色や重さと行った共通の属性情報があります。どのオブジェクトにも共通した属性情報がありますが、その値はオブジェクトごとに異なります。クラスを使ってオレンジにどんな特徴(属性)があるのかを定義して、クラスから個々のオレンジオブジェクトを異なる属性値で作成します。

(p.149) 

いつか誰かに説明を求められたとしても自分の言葉で伝えられるようになりたいです。

プログラマとしての心得

  • コードを書くのは最後の手段:他の誰かがすでにこの問題を解決していないか?をまず考える
  • DRY(Don't Repeat Yourself):同じ作業を繰り返さない
  • 直交性を保つ:モジュール間での依存性をなくす
  • 慣例に従う:PEP8読み込め
  • テストしろ:「テストされていないコードは、壊れているコードだ」

文中に出てくる"The Zen of Python"は仕事に立ち向かうときの心構えの話だった。

Beautiful is better than ugly.

Explicit is better than implicit.

Simple is better than complex.

Complex is better than complicated.

Flat is better than nested.

Sparse is better than dense.

Readability counts.

Special cases aren't special enough to break the rules.

Although practicality beats purity.

Errors should never pass silently.

Unless explicitly silenced.

In the face of ambiguity, refuse the temptation to guess.

There should be one-- and preferably only one --obvious way to do it.

Although that way may not be obvious at first unless you're Dutch.

Now is better than never.

Although never is often better than *right* now.

If the implementation is hard to explain, it's a bad idea.

If the implementation is easy to explain, it may be a good idea.

Namespaces are one honking great idea -- let's do more of those!

qiita.com

 

 何かデータ系のプロジェクトを始める・参加してみようと思います。 

独学プログラマー Python言語の基本から仕事のやり方まで

独学プログラマー Python言語の基本から仕事のやり方まで

 

 

*1:みんなのペースに合わせるの苦手...結果↑のData Science Bootcampも最後の演習直前にドロップアウトしました

記録#35 『ゴールドマン・サックス M&A戦記』 スキームの妙とプロ意識を学ぶ

マッキンゼーゴールドマン・サックス、ハーバード...

タイトルに入れると売上が上がるカタカナ組織のようですが、実際は2~3年在籍しただけ、みたいな中途半端な著者が書かれた本も多い印象です。*1

本著の著者・服部さんは、MIT Sloanを出てから合計14年間ゴールドマン・サックス(以下、GS)の投資銀行部門で戦って最後はマネージング・ディレクターとして退任された方。書籍内で紹介される事例も、通信・自動車・製薬・金融と多岐にわたっているし、それぞれのプロジェクトの金融スキームや現れた課題、プロジェクト期間についても(守秘義務に触れない範囲で)丁寧に語られていて、興味深く読めました。

紹介されているプロジェクト

私はこれまで関わったのはBDDのレベルで、M&Aや資金調達のプロジェクト全体を俯瞰したことはありませんでした。

この本では、それぞれのプロジェクトがどんなきっかけで始まり、その中でGSがどんな役割を期待され、どのくらいの期間でどんな結果に至ったのか、さらにそれらの企業がどんな未来を辿ったのかまで書かれていて、学びたっぷりです。

幅広い。私がもう少しファイナンスのスキームに精通していれば、もっと楽しめたのに...

「MAのチームはそんなことを考えているんだ!」と勉強になったのが、下記のような事例

  • グラクソ:50%出資の子会社について、親会社が株式を単に買い取るのではなく、株式発行主体の子会社自身が株式を買い取る「有償選択減資」を行うことで売却金額を非課税に
  • AOL:既存契約をあえて一方的に破棄し違約金を支払い契約を巻き直すことで、受贈益課税の対象となりうる価値評価の差を圧縮する
  • 日本リース:自動車リースを行う企業の事業譲渡を行う上で、車検証上の所有名義をすべて書き換える必要があり、車検証原本を陸運事務所に持ち込むことの手間、車検証不所持運転の法律リスクを抱えるため、事業譲渡を断念
  • ロシュ・中外:両社ともに血液スクリーニング検査技術を保有するため、統合により米国における独禁法にひっかかる。それを回避するために「有償減資による株式割当」を採用(完全子会社の株式を自社株主に一回で割り当て、資本関係を断絶)

金融のスキームは、ただ引き出しを開けて制度を事例に適用させていくのではなく、極めて高いレベルでの頭の柔軟性、交渉術が必要なんだと痛感しました。

働き方に関するメッセージ

ページを繰り始めてすぐ、著者から働き方についてのメッセージが出てきます。

 基本的な考え方は、 「会社と自分は常に対等な関係でなければならない」というものだ。どこの国でもサラリーマンというものは「社畜」という言葉もあるように、少しでも気を抜けば、やはりどうしても「会社」が有利な立場に立ち、「個人」を支配してくる

 ましてある程度、歳を重ねて結婚して家庭を持ち、住宅ローンを抱えれば、もはや会社の言いなりに人生を歩む以外の選択肢を目指すことは極めて困難な状況に陥りがちだ。しかし、就職直後から会社と自分の考え方のギャップに強く悩まされたこともあって、私は若い頃からこんな考えが強く芽生えた。

(p.2)

この問題意識は、最近私が感じていることと重なります。

会社が上というわけでもない、自分が上というわけでもない。あくまで対等。少なくともそういうマインドセットで働いていくことが、健全に生活していく上で重要です。

 「会社というものは自分の味方ではない。敵とまでは言えないが、少なくとも黙っていても会社が自分のために何かを施してくれるというものでは絶対にない。会社で自分の思いを通すためには、会社と個人は常に対等の関係になければならないし、更に対等な上で日々是勝負であり、これにある程度勝たなければ、自分の思いを遂げることはできない

今でも、この考えは変わっていない。そしてこれを実践するためには、

  • 自分の人生は自分でリスクを取って自分で切り開く、
  • 特に人生の後半の時期に、少なくとも自分の居場所は自分で決められるような立場にいたい、
  • 全く自分の意志とは無関係に、組織の側に自分の居場所を一方的に決められることだけは絶対に避けたい

(p.2-p.3)

プロフェッショナルとしての挟持を感じました。企業の寿命が短くなり、労働市場で戦うシーンが増えていくであろうこれからの時代に、皆に必要となるメンタリティだと感じます。

本を読み進めるに連れて、「自分の働き方はこれでいいのか」「顧客に感謝されるだけの成果をあげているか」について振り返る、良い機会となりました。

 

*1:3年しかいなかった新卒入社先ファームについて、私はなにも書ける気がしません...少なくとも私は

記録#34 『コンヴィヴィアリティのための道具』社会が技術に先行する、その逆ではない。

以前読んだ、『さよなら未来』の中で度々取り上げられていたイヴァン・イリイチの著作。

nozomitanaka.hatenablog.com

イリイチというのはどんな人物だったのか、Wikiを引用。

イヴァン・イリイチ(Ivan Illich、1926年9月4日 - 2002年12月2日)は、オーストリア、ウィーン生まれの哲学者、社会評論家、文明批評家である。現代産業社会批判で知られる。(中略)

思想家としてのイリイチは、学校、交通、医療といった社会的サービスの根幹に、道具的な権力、専門家権力を見て、過剰な効率性を追い求めるがあまり人間の自立、自律を喪失させる現代文明を批判。それらから離れて地に足を下ろした生き方を模索した。

Wikipediaより) 

本書の中でも、産業主義的な意味での生産性向上に向けた取り組みに疑問を呈することに多くのページを割いています。

産業化が進むにつれて、彼が言うところの"限界"を突破してまでその生産性が追求され、手段が目的と化し、人々の自由が制限される、というのがイリイチの主張。

人々は物を手に入れる必要があるだけではない。彼らはなによりも、暮らしを可能にしてくれるものを作り出す自由、それに自分の好みにしたがって形を与える自由、他人をかまったり世話したりするのにそれを用いる自由を必要とするのだ。富める国々の囚人はしばしば、彼らの家族よりも多くの品物やサービスが利用できるが、品物がどのように作られるかということに発言権を持たないし、その品物をどうするかということも決められない。彼らの刑罰は、私のいわゆる自立共生(コンヴィヴィアリティ)を剥奪されていることに存する。彼らは単なる消費者の地位に降格されているのだ。 (p.39)

ここでいうところのコンヴィヴィアリティとは?イリイチはそれを、相互依存のうちに実現された個的自由、と定義します。

資本主義で言うところの独占大企業、社会主義で言うところの巨大政府による個人の自由を奪うあらゆる活動・規制を退け、公正な社会のもとで個々が自立・自律的に生存・生活することを目指す。そこでは個々人が創造性を発揮し、単なる消費者としての立場ではなく、生産者・生活者として生きていくこととなる。

そんなところを目指すための道具として、コンヴィヴィアリティという考え方を提示ているのが本著です。

産業主義的な生産性の正反対を明示するのに、私は自律共生<コンヴィヴィアリティ>という用語を選ぶ。私はその言葉に、各人のあいだの自立的で創造的な交わりと、各人の環境との同様の交わりを意味させ、またこの言葉に、他人と人工的環境によって強いられた需要への確認の条件反射付けられた反応とは対照的な意味をもたせようと思う。私は自立共生とは、人間的な相互依存のうちに実現された個的自由であり、又そのようなものとして固有の倫理的価値をなすものであると考える。私の信じるところでは、いかなる社会においても、自立共生が一定の水準以下に落ち込むにつれて、産業主義的生産性はどんなに増大したとしても、自身が社会成員間に生みだす欲求を有効に満たすことができなくなる。

 (p.39-40)

一方で、「とはいえみんな産業的な効率性を追求している中でコンヴィヴィアリティ的なものを目指すのは難しいよね...」「私はあくまでそこに至るための考え方を提示するよ」と言っているにとどまっていて、なるほど思想家さんなんですね、というのが私の印象です。

とはいえ、技術に対する捉え方だったり、情報というものに対する考え方なんかは参考になる部分が大いにあった気がしています。

たいていの人々は自分の自己イメージを今日の構造につなぎとめており、そのつなぎの杭を打ち込んだ大地を失うことを望まない。彼らは産業化をさらに持続させるいくつかのイデオロギーのひとつに、心のよりどころを見出している。彼らは自分がつながれている進歩の幻想を、是が非でも後押ししなければならないような気になっているのだ。彼らは、人間のエネルギーの投入はいっそう減らし能力の分化はいっそう進めながら満足が増大することを、待ち望み期待している。
(p. 105) 

世界はいかなる情報も含んでいない。それはあるがままの姿でそこにある。世界についての情報は、有機体の世界との相互交渉を通じて、有機体の中に作り出されるものだ。

(p.191)  

技術が社会を規定するのではなく、社会が技術を規定する。そんなコンセプトも面白かったです。

脱資本主義!革命!みたいな言葉が並ぶ部分もあってちょっと喉越し悪めですが、ぱっと読み流すくらいのほうが大意がつかみやすくていいのでは、という感じです。  

コンヴィヴィアリティのための道具 (ちくま学芸文庫)

コンヴィヴィアリティのための道具 (ちくま学芸文庫)

 

 

記録#33 『TRANSIT39号 今こそ、キューバ』人、歴史、自然、街並、アート、音楽

私のやりたいことリストに「2023年までにキューバ旅行、1ヶ月くらい中米まわる」という項目がどんと鎮座しています。新婚旅行で行こうかなと思いつつハリケーンリスクを考えて回避。まだ未踏の地のままです。

大好きな雑誌TRANSITの最新号がキューバ単独の特集。素晴らしい内容でした。

暮らしと仕事

社会主義国キューバ。食事は配給?家は賃貸?仕事は公務員?

TRANSITのブログの中で誌面のイメージが一部公開されているので、ぜひこちらを。

www.transit.ne.jp

TRANSITの魅力の一つが、その国の生活を感じさせる写真が多く掲載されていること。自然で、その国の毎日を感じることができるもの。

道を歩いてた大学生とか、公演後の踊り子さんとか、ケーキ屋さんから出てきた普通のおっさんとか。きれいなショットばかりの旅行雑誌より、ぐっと惹き込まれる。

かなり丁寧にデータの紹介もしれくれて、↑のブログ内でも紹介されている記事の中で紹介されている生活の実態についての個人的驚きポイントは、

  • 国民の平均月収3千円のなか自営タクシー運転手や民宿オーナーはその30倍稼ぐ
  • 国全体の自営業者は58万人(全体の12%)で増え続けている
  • 1人あたり月44円でパン30個・米2kg・卵26個・塩330g他買えて格安、でも主食含む穀物の70%は輸入品。食料自給率全体も20~30%
  • 家賃はほぼ無料(月数十円の賃料で数十年払うと自分のものに)、住宅売買が解禁されたのは2011年でそれまでは引っ越しも難しかった
  • キューバ人医師も一つの「輸出物」。5万人の医師が海外で働き年80億ドルの外貨を稼ぐ
  • 大学・大学院も学費無料。ただし卒業後3年間は社会奉仕活動が必須で、卒業前に海外に出てしまう人もいる

写真から見える風景と、こんなデータをそれぞれ見ると、現地に行った時に感じることも増えそう。

歴史と英雄

キューバの独立・革命を語る上で欠かせないのが、ホセ・マルティ、チェ・ゲバラフィデル・カストロの3人。彼らの思想や人柄についてもしっかりみっちり紹介がされています。

歌手のコムアイさんがキューバを旅した時、15歳の子に「人生のルールは?」と聞いた時に帰ってきた言葉が「学ぶことが自由になる唯一の方法だ」というホセ・マルティの言葉だったり。ハバナの人がみな、革命の英雄カストロを「フィデル」というファーストネームで呼んでいたり。

革命への熱い想い。教育と学びへの信頼。自由の希求。そんな彼らの心が、今のキューバにも根付いていることが感じられます。

ペンは雄弁なり。国府として敬われているホセ・マルティは、雑誌『黄金時代』で子どもたちに優しく語りかけ、フィデルゲバラも文盲撲滅に務めた。為政者の前に期待するだけでは自由はつかめない。搾取されないため、未来につなぐために自らが賢くあるべきなのだ。彼らは倒すこと以上に築くことに心を砕いた戦士だった。その先に今浴びているこの広場での沢山の笑顔や自由な空気がある。

あと、フィデル・カストロがむちゃむちゃ食いしん坊で、たっぷり昼食を食べた後にアイスクリームを18個も食べたというエピソードには流石に笑いました。

芸術の舞台

バレエで有名なキューバ。いまは踊り全般、アート全体でも盛り上がりを見せているようです。

『新世紀キューバダンスの幕開け!』という記事で紹介されているダンスチーム、ぜひ見に行きたい。

  • ACOSTA DANZA
  • Ballet Folklorico Cutumba
  • Ballet Rakatan
  • Ballet Nacional de Cuba

インテリアデザイナー紹介のコーナーで取り上げられているAmano ProjectだったりReinaldo Togoresだったりの椅子も素敵だし、Martinez-Becerraが手がけたレストランにも行ってみたい。

あぁ、素敵。

おわりに

雑誌の付録として、5人の「キューバの達人」によるトラベルガイドもついてました。

  • Salon Rojo(ライブハウス)
  • La Luz(カフェ)
  • Rio La Plata(バー)
  • Borona(本屋)

あたりはぜひいきたい...

これを持参して、必ず行くぞキューバ

 

 

記録#32 『詩という仕事について』偉大な文人による言葉と文章の本質論

アルゼンチン出身の作家・小説家・詩人でもあるホルヘ・ルイス・ボルヘス

彼が1967-68年にハーバード大学で行った詩学の講義をまとめたのがこの作品です。

文学とは、物語とは、比喩とは。20世紀を代表する文人で言葉の本質を見つめ続けてきた著者からのメッセージが溢れています。

文章・書物は人と触れ合ってこそ。

言葉は、書物は、人に読まれることで世界として立ち上がる。

書物は、物理的なモノであふれた世界における、やはり物理的なモノです。生命なき記号の集合体なのです。ところがそこへ、まともな読み手が現われる。すると、言葉たち自体は単なる記号ですから、むしろ、それら言葉の陰に潜んでいた詩は息を吹き返して、われわれは世界の甦りに立ち会うことになるわけです。
Kindle位置:146) 

すっと入る比喩・暗示

なぜ詩作のなかで比喩・隠喩を用いるのか。それは、断定は論証を要求し、それは人を不審にし、逆の結論に導かれるから。

はっきりした物言いより、暗示の方が遥かにその効果が大きいのです。人間の心理にはどうやら、断定に対してはそれを否定しようとする傾きがある。エマソンの言葉を思い出してください。

Arguments convince nobody.

「論証は何ぴとをも納得させない」と言うのです。それが誰も納得させられないのは、まさに論証として提示されるからです。われわれはそれをとくと眺め、計量し、裏返しにし、逆の結論を出してしまうのです。
Kindle位置:1,049)

言葉・辞書が思考を制約する

私たちは言葉によって思考をしています。思考をするためには、それに合わせた言葉が必要です。

自分自身の思考は自分の中に持つ辞書に制約を受けるし、誰かに物事を伝えるときには、その人が持つ辞書の中でしか内容を伝えることはできません。さらに言語を跨ぐと、正確な対応語がなかったりします。*1

しかし私たちは、相手と自分が同じ言葉の辞書を共有している、という誤解をまましてしまいます。

多くの思い違いのなかに、完璧な辞書が存在するという思い違いがある、あらゆる知覚に対して、あらゆる言説に対して、あらゆる抽象的観念に対して、人はそれに対応するものを、正確な記号を辞書の内に見いだし得ると考える錯誤がある、と。言語が互いに異なっているという事実そのものによって、そうしたものは存在しないと考えさせられるわけです。
Kindle位置:2,504)

なぜそんなことになるのか。言語は、言葉は、それぞれの土地や人からボトムアップで立ち上がってきたものだから。

言語は学士院会員もしくは文献学者の発明品ではないという趣旨であります。それはむしろ、時間を、長い時間をかけながら農民によって、漁民によって、猟師によって、牧夫によって産み出されてきました。図書館などで生じたものではなく、野原から、海から、河から、夜から、明け方から生まれたものなのです。

 (Kindle位置:2,519)

作品をどうつくっていくか。誰、よりも、何。

書き手の立場も読み手の立場も離れて、何を書くか、何を伝えようとしているかに集中すること。

私は作品を書くとき、読者のことは考えません(読者は架空の存在だからです)。また、私自身のことも考えません(恐らく、私もまた架空の存在であるのでしょう)。私が考えるのは何を伝えようとしているかであり、それを損わないよう最善を尽くすわけです。Kindle位置:3,702)

ボルヘスは、上記の講義をメモ一枚見ることなく行ったようです。

すごい。

言葉について改めて考えさせられる素敵な本でした。 

詩という仕事について (岩波文庫)

詩という仕事について (岩波文庫)

 

 

*1:出身の長野には「ずく」という(かなり一般的な)言葉がありますが、標準語には対応する言葉がないです