記録#300 『脱走王と呼ばれた男』
脱走王と呼ばれた男:第二次世界大戦中21回脱走した捕虜の半生
- 作者: デイヴィッド・M・ガス,花田知恵
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2019/03/26
- メディア: 単行本
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感じたこと
- 捕虜になったあとは国際条約に基づき将校たちは丁重に扱われる。そんな中で、あえて危険を犯して脱走を繰り返したアレスター・クラム。何が彼をそんなに突き動かしたのか。本文にあるような、脱走がもたらすある種の高揚感なのか、自由への意志か、創造力への渇望か、祖国への思いなのか。
- 捕虜として収容されている場所で、脱走委員会なる組織があったことにびっくり。一般的なことだったんだなぁ。
- 途中でてきた特殊空挺部隊(SAS)創設者、デイヴィッド・スターリング。裕福な家に生まれながら学校は放校処分、芸術・建築の分野もすぐに投げ出し、軍入隊後も夜遊びで軍法会議にかけられる始末。しかし、SAS創設ですべてを覆したリーダー。かっこいい...
内容
- Amazon/BOOKデータベースによるほんの紹介
引用メモ
もう1週間以上あるき続けており、逃亡中によく体験する神秘的な領域に日ごとに近づいていた。自由の高揚感、危険に対する恐れ、脱走者の酔うような感覚、自然の中に一人でいると感じられる混じりけのない匂いと音、身体の酷使に加え、飢えと睡眠不足から起こる譫妄状態ーそれらが一つになると「感覚のさらなる高い領域」への道が切り開かれる。山登りの喜びに達する道と同じだ。
自由を獲得した脱走者がほぼ例外なく味わう爽快感は、たとえ短い時間であったとしても、大学生の年頃の男が規則を破る軽率ないたずらで得られる興奮を遥かに超えるものだった。しぶれるような高揚感、エンドルフィンの一撃、後にも先にも経験したことのない「魔法の時間」がある。ある脱走者はそれを「高揚感の波」といい、別の脱走者は「生涯最高の充実したひととき」といい、ドイツの収容所から何度か脱走したパイロット、テックス・アッシュは「あんなに生を実感したことは他にない」と語った。彼は「脱走の遺伝子」とか、脱走せずにはいられない「フーディーニ症候群」というものがあるのだろうかとさえ思った。彼によると「脱走は非常に中毒性があるし、あらゆる麻薬と同じで、きわめて危険だ」そして、命を落とすかもしれないこの危うさこそ、脱走を「最も偉大なスポーツ」に押し上げている秘密の要素だ。