記録#123 『ファイナンス思考』 あなたの活動、価値につながっていますか?
いま本屋さんの経営書のコーナーに行くと間違いなくあり、ダイヤモンド社も週刊ダイアモンドで表紙専有の特集をくむくらい話題の新著。
著者はマッキンゼーののちmixiで代表取締役を務め、現在はシニフィアン株式会社で共同代表を務める朝倉さん。Tokyo Founders Fundなどでスタートアップ投資をされたり、スタンフォード大学で研究員をされたり。
本のタイトル「ファイナンス思考」は、対となるコンセプトの「PL脳」と比較するとわかりやすくなります。
「PL脳」とは、「売上高や利益といった損益計算書(PL)上の指標を、目先で最大化することを目的視する思考態度」のことです。
(pp.3)
これに対して、ファイナンス思考とは、価値思考・長期思考・未来思考をかけ合わせたもの、と朝倉さんはいいます。
あれ、PL上の指標、具体的には売上や営業利益などを追求することは価値を生み出し、未来につながっていくのでは?というのが自然な感覚だと思います。確かに。
しかし朝倉さんはいいます。
会社の意思決定の中には、会社の価値向上ではなく、実は、目の前のPLを最大化することを目的とした近視眼的な内容が紛れていることが珍しくありません。会社の長期的な成長のために必要であるにもかかわらず、目先の業績が悪化することを嫌い、積極的な投資に躊躇してしまうケースや、逆に企業価値には貢献しないのにPL上の業績数値を水増しする施策に走ってしまうといったケースが少なくないのです。
(pp.26)
会社で働く皆さんであれば、心当たりがあることもたくさんあるのではないでしょうか。
- 期末に売上の数値を作るために取引先や卸業者に在庫を"押し込む"
- のれん償却の費用を計上すると営業利益が押し下げられるために有望なM&Aを見送る
- ソフトウェア開発の費用を機能改良・強化という漸次的な対応とみなし、PL計上せずに無形固定資産とする
どれも、PLには貢献するものの、価値には影響しません。
PLは企業の通信簿として事後的な意味を持つものの、それを目標設定のツールとすると様々齟齬をもたらしてしまう。その良い例だと思います。
PL脳の企業の行動パターンとして、下記5つがまとめられています。
① 黒字事業の売却をためらう
② 時間的価値を加味しない
③ 資本コストを無視する
④ 事業特有の時間感覚を勘案しない
⑤ 事業特有のリスクを勘案しない
(pp.35)
ファイナンス思考では、追うべきはあくまで価値です。「利益は意見、キャッシュは事実」という格言、まさにそのとおりですね。
ファイナンス思考の特徴は、
・会社の施策の意義を、「その施策が将来に渡って生み出すキャッシュフローの最大化に貢献するのか」という観点から評価する
・その評価の時間軸は、PLのように1年/四半期といった短期・他律的なものではなく、長期で自律的なものとする
・そのための経営アプローチはテクニカル・管理的な視点を離れ、より主体的にキャッシュをコントロールし積極的に機会を追求する姿勢が求められる
(pp.48~53よりまとめ)
にあります。本書では、その事例として、Amazonを始めとするGAFAはもちろん、リクルートやJT、日立などの事例が丁寧に語られています。
PLはあくまで通信簿として使い、組織の目標設定としてPLのみに注力してしまうことは避け、価値の増大・ファイナンス思考を大切にしていくこと。
コンサルタントとして様々な企業の現場を拝見してきた経験をみていて、「確かにPL脳の組織・チームが多かったなぁ...」と思いを馳せました。。