ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#100 『タタール人の砂漠』日常への埋没、虚栄がもたらす人生の"手遅れ"感

区切りの#100は、ずっと読みたかったこの本。 

5年ほど前に、有名な書評ブログで紹介されてちょっと話題になったもの。

40超えたら突き刺さる『タタール人の砂漠』: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる 

タタール人の砂漠 (岩波文庫)
 

書かれたのは1940年代のイタリア。第一次・第二次世界大戦で疲弊した欧州で出版された当初、この本はそれほど話題に上ることはなかったそうです。それでも着実に、イタリアと言うよりはむしろドイツなどから少しずつ売れ始め、いまではイタリア文学を代表する作品の一つとされています。

 

舞台は、砂漠に面するとある砦。その砂漠の向こうにあるタタール人の国からの侵攻に備えて建っているものの、これまで実際にタタール人が攻めてきたことは、ない。

そこに赴任することになった若い中尉は到着早々、儀礼と見張りを延々と繰り返す退屈なその職場を離れたい、という旨を上官に告げます。しかし、なんだかんだと諭されて、結局数ヶ月、数年とそこで過ごしてしまう。そうすると、少しの休暇で故郷の街に戻っても、そこには自分の居場所がなくなっている。

退屈な砦にしか自分の居場所がない。若い最良のときは、退屈な砦で失われてしまった。そんな人生に最後に意味を与えてくれるような戦いを、タタール人との戦いを待つように、今日も砂漠のむこうを見つめ続ける。

 

この小説のテーマは、「人生」。↑に紹介したブログの中での一節が、そのテーマをずばっと切り出しています。

大事なことは、これから始まる。だからずっと待っていた。ここに来たのは間違いだから、本気になれば、出て行ける。けれど少し様子を見ていた。習慣のもたらす麻痺が、責任感の強さという虚栄が、自分を飼いならし、日常に囚われ、もう離れることができない―――気づいたらもう、人生の終わり。 

幸いなことに、まだこういう感覚を感じる年齢ではないのですが、「人生を棒に振ってしまった」と感じる壮年期以降に読んだら、心に刺さりすぎて還ってこれないのでは、と思うような内容。

深く、深く突き刺さる深い小説でした。メッセージのある、強い小説。

タタール人の砂漠 (岩波文庫)