ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#71 『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』コンセプトにロジックを与える。

イェール大学で准教授を務める伊神先生が単著を発表されたとのことで、まわりの方々も面白いよと薦めてくださり手にとってみました。 

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

 

 イノベーターのジレンマ、Wikiでいうとこんなものです。

巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論。クレイトン・クリステンセンが、1997年に初めて提唱した。

大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映るだけでなく、カニバリズムによって既存の事業を破壊する可能性がある。また、既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない。そのため、大企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にある。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまうのである。

新規事業界隈にいるとよく聞くし、破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)と合わせて使われることも往々にしてある言葉。クリステンセンは、経営者へのヒアリングや業界紙の追跡を通じてこのコンセプトを生み出していますが、経営学という側面、理論的な背景は確立されている、というわけではありませんでした。

クリステンセンの洞察の主眼は既存企業の組織的・心理的バイアスにあるが、一方で論理的には「既存企業は無能だったゆえに淘汰された」と言うに等しく、一部からはトートロジー(同義反復)あるいは「後付けの経営学」といった批判的な指摘も強かった。

 (イェール大学経済学部 伊神 満 准教授インタビュー 

http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-STIH3-3-00102.pdf

 本書は、伊神先生がこのイノベーターのジレンマについて、「置換効果」、「抜け駆け戦略」、「能力格差」という経済理論に基づく数理モデルを用いて解説をしていく、というもの。その中には構造推定だったりシミュレーションだったり、「あー、大学院のときにやったなー」という内容で溢れています。

  • 置換効果:新製品が投入されることで、似通った既存製品の需要が代替される効果
  • 抜け駆け戦略:既存大企業が、新興企業に先んじて製品を市場投入し新興企業を叩き潰す戦略
  • 能力格差:そもそものイノベーションを生み出す研究開発能力。一定の技術開発を行うための必要投資額等で推定

伊神先生らしい、皮肉のきいたダイレクトな語り口で、わかりやすく論が進められていきます。

http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-STIH3-3-00102.pdf

↑が伊神先生のインタビューですが、話し方のダイレクトさがすごい。。笑

アナリストの仕事は楽しかったです。投資に対するアドバイスとして結論がはっきりしてさえいれば何をテーマにどう取材し分析してもいいので、アカデミックな研究と 100% 別物というわけではありません。それに世界で 5 人くらいしか理解者のいない学術論文とは違って、アナリストのレポートは世界中の機関投資家に毎日読んでもらえます(読まずにメールごと削除する顧客の方が多いのですが)。

こんな文体が、1冊続きます。最高。

新規事業・イノベーション周りで働く社会人から、産業組織論・IOの研究ってどんなものなんだろうという経済学部生まで、幅広い方が楽しめる本だと思います。

おすすめ。

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明