ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#60 『シチリア・マフィアの世界』マフィア、それは心のあり方

ふらっと入った図書館で見つけたこの本。

マンガ『サンクチュアリ』が大好きな私として、読まずにはいられないタイトルでした。

シチリア・マフィアの世界 (講談社学術文庫)

シチリア・マフィアの世界 (講談社学術文庫)

 

マフィアの誕生

シチリアのマフィアは、19世紀後半の農村の大土地所有地で生まれます。

一人の大地主が数千ヘクタールの土地を所有しながらパリなどの大都市に居住し、一方で小作農民は自らの手でカバーできる範囲の小規模な土地に縛られている。そこに介在し、農地の管理から治安の維持まで幅広く影響力を行使し始めたのが、マフィアの始まりだと。

アロンジは、マフィアをシチリア人のメンタリティの中に求めることができると認めた上で、それを一つの現象に作り上げた歴史的、経済的、政治的・行政的要因を次のように指摘する。歴史的要因とは、土地貴族と農民の間に介在する農村ブルジョワジーが、極貧、道徳意識の退廃、社会秩序の混乱、荒廃した社会状況を固定することによって、自らの利益を引き出そうとした行為である。

農村において着々と力をつけ始めたマフィアは、政府と深く関わっていきます。

現代で使われる"マフィア"という言葉からは反社会的な意味合いが感じ取れますが、当時のマフィアはむしろ政治や経済に強い影響力を持ち、かつ政府もマフィアを治安維持などに活用した歴史がある、とのこと。

(政府が鎮圧できない山賊討伐に地域のマフィアを活用する、等)

この政府と農村マフィアの強いつながり、というのが、シチリアマフィアの特徴のひとつ。

マフィアという精神

当時のマフィアは自らを「尊敬される人間」と規定します。

シチリア出身の政治家、オルランドが選挙演説で述べた有名な言葉として、「マフィアが名誉という意味で理解されるならば、私はマフィアの人間であることを宣言する」というものがあります。

それくらい、20世紀初頭のシチリアにおいて、マフィアというものが精神性に深く根付いたものだったかがわかります。

しかし大土地所有性の解体や第二次世界大戦をつうじてシチリアの農業生産力が落ちるに従い、マフィアの拠点は農村から都市に移っていきます。農村のマフィアと都市のマフィアは大きく異なっており、都市のマフィアはいまでいう"マフィア"というものとかなり近い存在だったそう。

沈黙と誇りを大切にする農村のマフィアは、世界経済の発展とともに、ゆっくりと姿を消していってしまいました。代わりに台頭してきた企業家としてのマフィアは、政治や経済とと新たな形で結びつき、「イタリア経済の3割は地下経済」と言われるまでになったんですね。

尊敬、というものを軸にして政治や経済に深く根を張っていった農村マフィアが、ファシズムや世界大戦に翻弄されながら、ゆっくりとその形を変えていく。面白い変遷でした。

おわりに 

ここまで、「シチリア・マフィアの根源はその精神にある」というお話ですが、この本のあとに出版されたサルヴォトーレ・ルーポの『マフィアの歴史』のなかで全否定されているようです。

イタリアの現代史を語る上で欠かせないマフィア、という存在。だから研究はこれからもアップデートされ続けるんでしょう。著者の藤澤先生も「この本をたたき台として」とおっしゃられています。

19世紀から1980年頃まで続くシチリア・マフィアの歴史・流れを大きく掴む上でよい一冊だと感じます。 

シチリア・マフィアの世界 (講談社学術文庫)

シチリア・マフィアの世界 (講談社学術文庫)