ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

まとめ#6 2015年7-9月】読んでよかった本5冊

だいぶバタバタした3ヶ月でしたが、ちょこちょこ時間をつくって少しずつ読書しています。
手に取る、実際に買う、読んでみて「おぉ」と感じる本の種類がそれぞれどう変わってきたのか、改めて振り返ってみると面白いと感じてます。
この3ヶ月は、当たりが多かった気がしています。2015年最後の3ヶ月もしっかり時間を確保して、ゆっくりお勉強&リラックスできればいいなぁと願いを込めつつ、今期面白かった本を5冊ご紹介します。

 

●ルシファーエフェクト byフィリップ・ジンバルドー

「悪の陳腐さ(the banality of evil)」

ナチス犯罪に対する裁判レポート中で、執筆者ハンナ・アーレントが記した言葉です。
ユダヤ人を含めた数百万人の人間を強制収容所に送り込み、ホロコーストの中心的な役割を果たしたアドルフ・アイヒマン、彼は非道な行為を行う"特別な"悪をまとった人間だったのか。実際の裁判を観た彼女は、アイヒマンは決して特殊な個人ではなく、どこにでもいる"有能な官僚"であると結論づけます。そんな彼にさえ悪は憑依しうるのだと、悪というものはそれほど特別なものではなく誰にでも/どこにでも起こりうるのだと表現したのが、冒頭の言葉。

"悪の陳腐さ"というアーレントの言葉が共感を呼び続けているのは、世界のあちこちで大量虐殺が起こり、拷問やテロリズムが依然として地球上にあふれているからだ。私達はこうした心理から距離を置き、悪人の愚行や暴君の無分別な暴力を個人の気質の問題とみなしたがるが、アーレントの分析は、人間がいかに変わりやすいかを示し、個人の気質に帰結する姿勢を否定している。社会的な勢力は、人間のこの変わりやすさにつけ込むことで、普通の人々をぞっとするような行為にかりたてていくのだ。(pp.467)

本書の中で、ジンバルドーは、自身が行ったスタンフォード監獄実験を通じてそれを立証します。看守/囚人というランダムに割り当てられた役割を通じて、20歳前後の若者(及び参加した著者やまわりの大人たち)の行動/精神状態がいかに変化していくのか。本書の冒頭は、その詳細なレポートから始まります。日曜日、彼らが突然集められ、金曜日、予定よりも1週間早く実験を中止するまで。個人としては善良で何も問題がないように見える人間が、刑務所という仮想空間に置かれるだけで、豹変する。

組織や風土が個人に与える影響がどれだけ大きいのか、示唆深い文章です。
800ページにも渡る大部で読み応えたっぷりです、ぜひ手に取ってみてください。

ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき

ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき

  • 作者: フィリップ・ジンバルドー,Philip Zimbardo,鬼澤忍,中山宥
  • 出版社/メーカー: 海と月社
  • 発売日: 2015/08/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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すばらしい新世界 byオルダス・ハクスリー

2015年4月、中国の研究チームがヒトの受精卵に世界初の遺伝子操作を行ったことが論文を通じて発表されました。髪や眼の色、得意なスポーツ、知性などを親が望むようにコントロールした上で生まれてくる「デザイナーベビー」が生まれてくる日が近づいてきているのかもしれません。

本書で描かれるのは、それよりももっと進んだ社会。西暦2540年、人は受精卵の段階からビンの中で培養され、生まれる前から階級が完全に固定され仕事から居住区まで総てが固定化されている。睡眠時教育で価値観が醸成され、このような状況に疑問を持つことはない。加えて、副作用のない麻薬が開発され、ほんの少しの辛さもそれで紛らわすことができる。まさに「すばらしい新世界」です。

ハクスリーはこの"ユートピア"を支持しません。それは、培養にミスがあったために、上記のような価値観に対して疑いをもつ主人公の存在と、以下の記述に凝縮されます。

確かに現在は厭わしく、現実はおぞましいーーけれども、嫌悪を催すほど切実なものであるからこそ、この現在の現実はすばらしく、意義深く、この上もなく大切なのだ。(Kindle版 No.3,101-3,103)

悩むこともなく、快楽に身を委ねる生活は幸福なのか。私達にとっての理想社会とはどのようなものなのか。
この本が書かれたのは1932年。80年以上も前です。"人間中心"が大きなテーマとなり科学技術がどんどん前進していく現代にも生きる、深い洞察があるように思います。

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

 

 

●僕らの哀しき超兵器 --軍事と科学の夢のあと by 植木不等式

面白さ全開。
世の科学者とは、なんて想像力豊なんだろう。
氷で出来た空母、発火物を背負い木造建築物に忍びこむコウモリ、おがくずに混ぜた細菌兵器、、、
どれも時代の要請や技術力の不足から頓挫していった「哀しき」アイディアたちだけど、今なら!と思うものもちらほら。
個人的に一番の衝撃だったのは、1970年代のチリで、工場・生産設備をすべてつなげて管理する構想があったこと。Industry4.0の先駆けが、社会主義的な計画経済運営の妖精から生まれてくるのはある意味自然なことなのかもしれないですが。

科学は夢を語る。語られた夢に、人々は夢を託す。夢の駄賃に税金を払う。科学はそれを食べて育つ。食べて私たちにまた夢を見せてくれる。夢の下地がたとえ兵器であろうと、何だろうと。
科学は獏だ。夢を糧にする。そして私たちもまた。
人間は獏である。(pp.43)

植木等をおもいっきり意識した著者名も、個人的にはツボでした。

ぼくらの哀しき超兵器――軍事と科学の夢のあと (岩波現代全書)
 

 

●二つの祖国 by山崎豊子

7月あたり山崎豊子祭りをしていました。その中でも一番刺さったのがこれです。

太平洋戦争に突入しようとする時代の米・カリフォルニアに生きる日系二世が主人公です。アメリカでは日本人として、日本ではアメリカ人として、どこにいってもアウトサイダーとして扱われるなかで生じるアイデンティティの揺らぎを、とても丁寧に描写しています。

後半、東京裁判の描写がなされていますが、この本を通じて初めて知ったこともたくさんありました。インドのパール判事が全体の判決に与しなかったことは有名ですが、判決に際して1,235ページもの意見書を提出し、かつその根拠が「事後法であるため」とうところにあったことは本書を通じて学びました。また、清瀬弁護人のこの発言も。

「我々がここに求めんとする心理は、一方の当事者が全く正しく、他方は絶対不正であるということではありませぬ.......われわれは困難ではありますが、近代戦争を生起せしめた一層深き原因を公正に探求せねばなりませぬ、近代戦争の悲劇の原因は、人種的偏見によるのであるか、資源の不平等によるものであるか、関係政府の単なる誤解に生ずるのか、裕福なる人民、又は不幸なる民族の強欲乃至貪婪にあるのか、これこそ人道のために究明されなければなりませぬーー」(kindle合本版 No.17,257-17,263)

山崎豊子作品は、何度も何度も読み返したくなるものばかりですね。すごい。

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)

 

 

●へぐりさんちは猫の家 by廣瀬慶二

ほっこり。
とにかく癒やされました。動物と一緒に生活したいです。

へぐりさんちは猫の家

へぐりさんちは猫の家

 

 

積ん読が溜まってきています。これからも、わくわくしながら読み進めたいと思います。