記録#246 『すべての医療は「不確実」である』
感じたこと
- ランダム化比較試験の高額な費用や負担を考えると、研究期間が短くなってしまったり、代替指標での確認にとどまってしまったり、完全な検証は難しくなる。なるほど。
- 経皮的椎体形成術の有用性を検証するための"プラセボ"として、手術室内をセメントのにおいでいっぱいにしたり、背中をあえてグリグリ押したり、手術後も手術をしたように振る舞ったり、、、ランダム化の労力、科学的検証のためにはここまでするのか、と。
- 新聞メディアが招いたHPVワクチンの非接種率拡大。数十年後に子宮頸がんワクチンの患者が増えたときに、記事を書いた人や紙面を割くことを決めた人は、その責任を負う気があるのだろうか。
- 食事と健康の間に意外な関係性を求めるべきではない、はまさに。よく噛んで、腹八分目で、バランスよく食べる。これにまさるものなし。
内容
- 著者の専門は臨床疫学:医療の不確実性に挑む科学
- EBMは1990年から始まった新しい学問
- EBMとは、個々の患者に対する臨床判断の局面において、最新かつ最良の科学的根拠を、明示的かつ良心的に一貫して適用すること by Sackett博士
- 臨床疫学の論点は、
- どのような環境的要因・遺伝的要因が、どの程度の確率で、病気の発症や悪化を引き起こすのか?
- どのような検査が、病気を正しく診断する確率を高めるのか?
- 多くの治療の選択肢があるとき、どの治療が有効・安全である確率が高いのか?
- 重い病気にかかった後、どの程度の確率で、どれぐらい長く生きられるのか?
- 「科学的根拠」というときの科学とは、再現性、反証可能性が担保されていること
- 医学は科学の一分野で、上記2要素を満たすことが求められる
- 一方医療は医学を基とするものの、純粋に科学だけでは割り切れない要素も含む
- 医療は、個々の患者の病気や生活に関する情報を収集し、科学的根拠のある診断法や治療法を利用して、患者の病気を直したり生活の質を向上させることを目的とする
- 臨床疫学の役割は、大規模な患者データを分析し、医療における不確実は諸現象が起こる確率を求め、より正確な診断、より効果の高い治療を個々の患者が選択できるための根拠を提示すること
- 臨床疫学の研究結果は、臨床の現場にも、疾患ごとの治療のガイドラインという形で反映されていく
- 日本では様々なデータが整備されつつあり、疫学研究を行う基盤が一定整っている
- 上記データを活用していくつか興味深い知見が生まれている
- 科学的根拠のない治療方法が世の中に蔓延している
- 風邪に抗菌薬(抗生物質)はむしろ有害:風邪はウイルス感染がほとんど。抗菌薬は細菌にはきくがウイルスには効かない。2017年6月、抗微生物薬適正使用の手引きが厚生労働省から出され、風邪に抗菌薬は処方しない方針を通達。
- がん治療において、代替医療を用いた患者の5年後死亡率は通常治療患者の2.5倍以上
- 代替医療:効果が証明されていない、医療者以外が行う治療
- MMR(麻しん・風疹・おたふく)ワクチンで自閉症、はデータ捏造の結果。未だにワクチン副作用論の根拠として提示する人もいる
- 子宮頸がんワクチンについても、新聞メディアなどで副作用(かつ因果関係は未検証)を課題に報告し、ワクチンの有用性については報道が少なく、ワクチン否定論者が蔓延。年間1万人の患者、3千人の死亡者が未だに生まれている。
- 漢方医学は、これまで代替医療だったが、近年はEBMの範疇に入っている
- なぜ医師は、効かない治療法を提供するのか by 2004年のBritish Medical Journal論説
- 臨床的な経験
- 代替アウトカムへの過剰な信頼
- 疾病の自然経過
- 病態生理モデルへの誤った愛着
- 儀式や秘技
- 何かをなすべき必要
- 誰も猜疑を挟まない
- 真、または仮定の、患者の希望
- 日本語で、科学的根拠のある治療法を確認したり、代替医療を特定するためには、マインズのガイドラインライブラリは使えるはず。
ワクチンを使おう。科学の恩恵を受けよう。感情に流されて、未来に損失を先送りにするのはやめよう。