記録#217 『逃亡くそたわけ』危うい2人が、九州を南へ南へと。
『舟を待つ』の一行目に感動した絲山秋子さんの作品を読んでみる。
主人公の花ちゃんは躁鬱病。躁の症状が出て、自殺をはかった。それで精神病院に入ったのだが、ある日、同じ病棟に鬱病で入院している「なごやん」という男の子を誘って脱走する。銀行でお金をおろし、とにかく逃げるのだとばかりに、ほとんど目的もなく「ルーチェ」を駆って九州縦断の旅に出る。
花ちゃんは21歳の女の子。一緒に福岡の精神病院に入院していた少し年上の男性と二人、九州の南へと車で向かっていく。
躁と鬱の2人、男女、車という密室。
これは恋愛小説なんだろうか、と思いながらも、そうとは言い切れない車内の2人の描写。名古屋生まれながら東京にあこがれを抱き続けるなごやんと、福岡という街に絡め取られようとしている花ちゃん。
お互いに少し実自分をさらけ出しながら、大分、熊本、宮崎を経ていく。なんだろう、なんだろう、この危うい感じは。と思っていたら、2人は鹿児島へ。
躁と鬱を時折見せながら至った薩摩半島の先端。
そして至る、
「帰るか」
「うん」
という瞬間。
なにか二人と合わせて、読み手の私まで解放されたような。