記録#143 『病の皇帝「がん」に挑む(下) -人類4000年の苦闘』ランダム化、苦闘、分子標的薬、進展
上巻に続き。
がんの原因
20世紀に入り紙タバコの消費が一気に増えたのと同時に症例が一気に増えたのが肺がん。その因果関係を突き止めるための研究が始まります。タバコ業界のロビィストがいたり、研究方法の困難さがあったり。
次は胃がん。ヘリコバクター・ピロリによる胃潰瘍発症を確かめるために、自身の身を呈して(研究者自身が菌を飲み込んで自らの身体を実験台にして)確かめた結果を論文にする。
更には乳がん。マンモグラフィによる生存率変化を確かめるために国家を巻き込んだ研究プロジェクトに。アメリカもスコットランドでおきた、研究手法の設定ミスや現場の医療者介入でサンプルに偏りが出てしまいデータを捨てなければいけないことに。
あまりに多様ながん。しかし少しずつ少しずつ、癌の原因がみえてくる。
がんの特徴と治療法の発展
100種類以上もある腫瘍のタイプとサブタイプの挙動を説明するために、1999年のがん生物学会議でロバート・ワインバーグとダグラス・ハナハン2人の腫瘍学者が6つの特徴にまとめ、発表します。
- 増殖シグナルの自己充足
- 増殖抑制のシグナルへの不応答
- プログラム細胞死(アポトーシス)の回避
- 無制限な複製力
- 持続的な血管新生
- 組織への湿潤と転移
そして、
メカニズム全体が明らかになったことで、がんの予知と治療は今後、現在の科学者たちが経験したことのないほど合理的な科学となる
と。
がん細胞を標的とした新しい治療法を生み出すために、
- がん細胞を分裂に駆り立てるのはDNA内の突然変異の累積であるという原則
- 原がん遺伝子とがん抑制遺伝子はたいてい細胞のシグナル伝達経路の中心に位置しているという原則
- 変異と淘汰の生存の絶え間ないサイクルによって無制御の分裂という性質以外にもいくつかの性質を獲得したがん細胞が作り出されるという事実
という原則を踏まえ、正常細胞とがん細胞の僅かな違いに着目し、そこに効く薬の開発が進められました。
そこで出てきた分子標的薬、代表的なものはハーセプチンやタルセバ。最近では免疫チェックポイント阻害剤。良いものがたくさん出てきていますね。
読後感
この本の中では、がんという根絶しないであろう病に対する人間の戦いが描かれています。成功もあれば、失敗も。
著者も医師、解説も医師、訳者も医師。現役の医師の方でもこの本をおすすめする方がたくさんいらっしゃるのがよく分かる内容でした。
ほんとうにおすすめ。文庫版も出ています。こちらのほうが手回りは良さそう。