ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#105 『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』これは必読。

学部生のときに他学部生向けの経営学の授業をとっていて、そこで教官が「経営学はね、単独の学問じゃないんですよ。経済学と心理学と社会学の知見をちょっとづつ借りてきてる得体の知れないなにかなんです」とおっしゃっていて、へーそんなもんか、と思った記憶があります。*1

それでも、2012年に入山先生の『世界の経営学者は今なにを考えているのか』を読んで、なんだむちゃむちゃ学問じゃん、そして面白い、と思いました。

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だいぶ時間は立ってしまいましたが、その入山先生が書いた次の書籍、ということで、下記に手を伸ばしてみました。 

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

 

中で紹介されている論文は1990~2010年くらいのものが多く、それ自体が"最先端"かといわれるとそうでもない気がしますが、論点自体はイノベーション・新規事業周りから組織まで幅広く、まさに今必要とされている問いが網羅されている気がします。

特に面白いなぁと思ったものを、簡単にまとめておきます

求められる戦略の型は、事業として直面する競争の型により異なる

本書の頭にあるのは、戦略のお話。「一般的に良い戦略はあるのか?」という問いに対して、いやそんなものはなくて、各事業が位置する市場環境に応じて最適な戦略タイプは異なるよ、とのこと。

  • IO型<安定した業界構造> → SCP戦略<ポジショニング命、他社と比してどう守るか>
  • チェンバレン型<参入障壁が低く競争激しめ> → RBV戦略<差別化された製品・サービスを提供するためのリソース強化>
  • シュンペーター型<不確実性の高い競争環境>→リアルオプション戦略<計画を捨てて小さく試し続ける>
新興企業のビジネスモデルに求められるのは「新たなつながりを生むこと」

新規事業周りにいるとよく聞く"ビジネスモデル"という言葉、定義がなかなか定まらないままいろんな方が使っている印象がある言葉。

Amit, R. & Zott, C.(2001)の論文では、下記のように定義されています。

The business model depicts the design of transaction content, structure, and governance so as to crteate value through the exploitation of business opportunities.

アミット・ゾットが上記の論文の中で行っているのはAmazoneBayなどの59のネット系企業の事例を踏まえ、価値を創造するビジネスモデルの条件を帰納的に導いていて、

  1. 効率性(Efficiency):従来よりも取引上のコストを抑える
  2. 補完性(Complementarity):複数の企業を結びつけることでシナジー効果を創出する
  3. 囲い込み(Lock-in):他社に顧客が流出することを防ぐ
  4. 新奇性(Novelty):それまで結びついていなかった取引主体同士をつないだり、あるいはその関係性を変えたりする

の4つ。更に彼らが2007年に190のネット系企業を分析した結果、

  • 新奇性が高いビジネスモデルを持つ企業は一貫して高い企業価値を持つ
  • 囲い込み/補完性は企業価値と相関はない
  • 効率性も新奇性も高い企業は逆に企業価値が低下する

という結論に至ったと。面白い結論。とにかく、シンプルで新たなつながりを生むビジネスモデルが求められると。

知の深化と探索を同時に達成する両利きの経営
  • 既存事業を行っていく上で必要になるのは、現在の製品・サービスを前提として改善を目指す「知の深化」であり、企業組織のデザインもそれに従いがち
  • しかし知の深化に傾倒すると中長期的なイノベーションが阻害され"コンピテンシートラップ"に陥る
  • それを避けるために「知の探索」を行うインセンティブ付けを会社全体で行う必要があり、外部コミュニティとの交流促進、既存組織の目標に縛られない「出島」組織の設立、などの工夫を行うこと。かつ、知の探索を行うチームと、知の深化を行うチームのフォーマル/インフォーマルな社内交流も促進する
問いと観察、実験とつながり。これぞ起業家精神

有名だけどそれほど査読付き論文が多くないクレイトン・クリステンセン。彼がその人脈をフル活用して書いた「イノベーティブ・アントレプレナー」に関する論文で提示された、彼らに共通する思考パターンが、

  1. Questioning:現状に常に疑問を投げかける
  2. Observing:興味を持ったことを徹底的にしつこく観察する
  3. Experimenting:疑問・観察から、仮設を立てて小さく実験し続ける
  4. Idea Networking:他者の知恵を活用する

とのこと。

いま準備している自分の会社のテーマとして考えていた「問いと観察、小さく実験」がまさに書かれていて、きたー!となりました。原論文を読んでみようと思います。

終わりに

その他にも、

  • 婿養子に継がせるオーナー企業・同族企業のパフォーマンス(ROA/成長率)が高くなる
  • ベンチャーキャピタル(VC)はスーパーローカル、VC所在地と投資先企業の地理的な距離の中央値は100km未満
  • 皆が共通の何かを知っているかよりも、誰が何を知っているかを知っている組織のほうが強い、トランザクティブメモリーが高まると生産性も高まる
  • 弱い人脈から生まれたアイディアを会社で実現するためには、 強い人脈を持った人が必要

のような話があって、どれも元論文が紹介されています。

最近DHBRで入山先生がずっと連載をされていたので、その連載も出版されたらいいなぁと期待。

とてもいい本でした。おすすめ。

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

 

 

*1:教官は査読付き論文をゴリゴリ書いている立派な方でした