ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#94 『小売再生 -リアル店舗はメディアになる』五感で驚きを与えるのがリアルの価値。

我が家では、Amazonで買い物をする頻度が年々上がっていて、本にとどまらず、最近はお香やお皿なんかもAmazonさんにお世話になることもあります。

2011年に開発者・投資家であるMarc Andreessen氏が書いたエッセイ、"Software is eating the world"はそこかしこで話題となり、その中でインターネットに駆逐されるものの代表例として上がっていたのが小売業界でした。

この7月にウォルマート西友を売っぱらって日本から撤退する、のような話もあり、小売業界はどうなるんだろう、と思いながら本書に手を伸ばしました。

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

 

本書は最初、いかにインターネット経由発の小売業(特にAmazon)が成長しているか、彼らの守備範囲がいかに広く、私たちの意思決定の中で大きな割合を占めるようになっているか、というところから始まります。

アマゾンはプラットフォームやネットワークという視点で物事を見ている。要するに同社のイノベーションはすべて余裕を持って開発されているから、社外の企業にも提供できるのだ。たとえば、アマゾン・エコーというスマートスピーカーの開発にあたってアマゾンは、広く開発者向けにAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース=他社のソフトと連携できる機能) を公開している。このAPIのおかげで、他社がエコーと連携可能な製品を開発できるのだ。また、アマゾンがクラス最高水準の配送ネットワークを構築できるとすれば、他社にもサービスを開放しない理由はない。同社のファッションショッピング番組「スタイルコードライブ」が人気を集めれば、アマゾン取り扱い製品以外にも有料で開放する販売プラットフォームとなっても何ら不思議はない。言い換えれば、アマゾンが新たなイノベーションを市場投入するたびに、蜘蛛の巣に粘着力たっぷりの新たな糸が張られるのだ。

 (Kindle位置:364)

しかし、著者のダグ・スティーブンスは小売領域を専門とするコンサルタント。ただ「Amazonすごいですね、小売はもうだめだ」とはしない。

小売の生きる道は、リアルな体験、驚きを、五感をフル活用して提供することだ、という。それがつまり、彼が言うところの"メディア"(広告ではなく)なんでしょう。

ショッピングの本当の楽しみは、妥当性と偶発性の絶妙なバランスにある。買い物客としては、自覚しているニーズや好みを刺激する商品に出会えることは確かにうれしい。と同時に、自分の趣味に合うとは思ってもみなかった店、まさか存在するとは思いもしなかった商品、何の前触れもなく突然ハッとさせられたり魅了されたりした出来事などと出会える驚きや喜びも心のどこかで切望している。実店舗はこうした魔法のような場所になりうるし、そうあるべきなのだ。
Kindle位置:1,832)

店舗が果たす役割は、モノ売りではなく、体験の提供になる。

現実のショッピング空間は、わたしたちを圧倒し、このうえなく楽しくて、心を揺さぶるような体験が可能なメディアになるだろう。現実世界でのメディア体験は次の3つを目標とする。

▼ 身体的な関わり合いや五感に訴えるさまざまな働きかけを通じて、魅力ある明確なブランド・ストーリーを伝える

▼ 没入型の環境で実際に身体を動かして製品を体験できる機会を提供する

▼ 客の話を聞きながら、製品、サービス、別の購入候補などを網羅するブランドのエコシステム全体に誘う入り口の役割を担う

Kindle位置:2,193) 

フンワリ気味ではありますが、コンセプトとして面白いな、と感じました。b8taだったりの事例は面白くて、ぜひ行きたいなーと思いました。

また、サービス設計・開発の領域でここ数年来ずっと言われている"UX"、"顧客体験"という(非常にふんわりした)言葉を、小売という文脈でこの本は5つの視点から捉えています。これも良いポイントだったなと。

  • 「消費者を惹きつけること」
  • 「独自性があること」
  • 「個々の消費者の趣味嗜好を反映できること」
  • 「驚きがあること」
  • 「繰り返し楽しめること」
    Kindle位置:58)

ちょっと長いですが、デジタル化が叫ばれる中で、リアルの価値について考えさせられる良著でした。おすすめ 

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる