記録#85 『都市と野生の思考』 ゴリラと哲学が混じり合う
友人から、面白いよと進められて手にとって見た本書。さすがはさすが、面白い。
お二方とも京大が出自で、鷲田先生はその後大阪大学学長などを経て現在は京都市立芸術大学の理事長、山極先生は京都大学の総長を務めていらっしゃる。モードの迷宮、などで知られる鷲田先生は、"臨床哲学"をテーマとして社会に寄り添う哲学を世に訴え続け、山極先生は日本のゴリラ研究の第一人者としてご活躍。
そんなお二方が語る、大学のこと、老いのこと、家のこと、ファッションのこと、食のこと、自由のこと、アートのこと。面白くないわけがない。
「私たちは社会との向き合い方として、猿よりももっとゴリラに学ぶべきではないか」という山極先生。
- ゴリラ社会で尊敬されるためには、他者に寛容であることと、他者を引きつけることが求められる。サル社会のように武力を誇示することが必要とされない
- ゴリラは孤独に耐えられない。オスのゴリラは群れを離れてひとりになり、ぐーたら自由を謳歌しているとだんだんにそわそわしてきて、群れを求める
人間は老いてくると頭髪が薄くなったりお腹が出たりする、それは触れ合いやすさを高めるための仕掛けじゃないかと。ゴリラも、老いると優しい性格になるそう。面白い。
鷲田先生は、自由だったりアートだったりの話にさすがの切れ味。
- 物事の捉え方としてある微分回路(変化を読み取る)と積分回路(これまでの蓄積から判断する)の使い分けで、アートは微分回路がものすごく敏感な状態
- 自由は依存の中にこそある、IndependenceというよりInterdependenceのほうが五感として近いのでは
大学のあり方だったり、京都の魅力だったり、お二方の対話には広さと深さとがそれぞれあって、本文の中で語られる"野生の知恵"というものを感じる内容でした。
素晴らしい本。おすすめ。