記録#70 『ボローニャの吐息』香りのするエッセイたち。
『ジーノの家』を読んでから、内田洋子さんの違う作品も読んでみようと思って手を伸ばしてみたこの作品。
イタリアの、その中でも特に南部の魅力が語られているのが、内田さんの作品の魅力。
「南はなんとなく治安が悪そう。。行くとしてもフィレンツェ、ミラノあたりがいいな」なんて思っていた私も、この本を読み進めていくに従って、イタリアブーツの踝・踵あたりの村に行ってみたい、そんな気になってきます。
内容は、いくつかのエッセイがまとまったもの。大好きだったのは、
- 「キス」:恋に恋する思春期の女の子を連れて、アイエツの『接吻』という絵画を見にミラノの美術館に行く。その艶めかしさ、別れの想い、当時の国際情勢へのメッセージ。芸術というものを感じるお話。
- 「ゆらり、ゆらり」:ヴェネツィアで染料のことを聞こうとしたら、仮面屋に行きあたった。吸い込まれるような深い目。隔たった実と虚が、仮面を通じて入り交じる。モノクロ?虹色?そんな区別に問を投げかけるお話。
- 「流浪の人」:自分らしさを追求してきた自由で美しい女性・ミーナが結婚を決めた。一緒にドレスのデザインを決め、街を周り、準備を重ねてきた。いざ結婚式、参加者の数だけの自由がそこにある。結婚という形が絶対唯一のものではなくなってきているヨーロッパからの、生き方に関するお話。
- 「ボローニャの吐息」:1980年の夏に駅で爆破がおき、多くの方がなくなったボローニャの街。同年、ボローニャを発ってシチリア島に向かっていた航空機は空中で爆発する。フランスの芸術家、クリスティアン・ボルタンスキーは、世界中から人が集まるブックフェアの裏側で、その航空機の断片を集め、鎮魂の芸術を作り上げる。芸術と向き合う姿勢を問われる、そんなお話。
どれも、イタリアという国、絵画や舞台、演劇に関する興味をかきたてられたり、頭をがーんとされる感じのお話。でも、嫌じゃない。とても穏やかな心持ちで読める。
素敵な文体、素敵な本でした。おすすめです、ぜひ。