ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#69 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』ひとりひとりに眠るストーリー。

大好きなポッドキャストTakram Castで紹介されていた本。

ある日、ラジオのレギュラー番組を任されることになったポール・オースター。内容に困った彼に、妻のシリはこういいます。あなたが物語を書くことはない、全米からいろんな人にそれぞれ自分の物語を書いてもらって、あなたはそれを朗読すればいいじゃない、と。

全国から集まった4,000のお話のうち、紹介されたもの・印象に残った180のお話を収録したのが、この本。 

ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉 (新潮文庫)

ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉 (新潮文庫)

 
ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉 (新潮文庫)

ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉 (新潮文庫)

 

「庶民」たちはしばしば驚くべき物語を語った。何よりもまず、私たちの大半が、 どれほど深く、情熱的に内なる生を生きているかを私は思い知らされた。我々の抱く愛着はこの上なく激しく、我々の情愛は我々を圧倒し、規定し、我々と他人を区切る境界を消し去る。(pp.12)

素晴らしい。とにかく素晴らしい。このお話が集まったのは1990年代の末、SNSなんていうものはまだ生まれておらず、個人の中に、貴重なストーリーがひっそりと眠っていた時代。ラジオというメディアを媒介として、それぞれのストーリーが紡がれ、全国に広がっていく。とても素敵だと思いました。

  • 例えば。貧しい家族の中で、ひとりの小さな男の子が考えた、無料で皆を喜ばせるプレゼントを作り出す話。(pp.90 "ファミリー・クリスマス")
  • 例えば。小学校の卒業式に着ていく長ズボンが買いたいと伝えた男の子と、火の車の家計の中でそれをなんとか準備してあげたいと悩み抜く母親の話。(pp.112 "金の贈り物")
  • 例えば。全裸で海に飛び込んだ女性が浜辺に戻ると服がなくなっていて、焦っていたら遠くから見知らぬ人たちの話し声が聞こえて思わず走り出してしまった女性の話。(pp.195 "ザッツ・エンタテインメント")
  • 例えば。第二次世界大戦末期、太平洋海域にいる基地で「自分は臆病です、本土に帰らせてください」と申し出て本土に帰還しようとした男と、残された男の話。(pp.337 "1985年8月")
  • 例えば。数学が好きなひとり、編み物が好きなもうひとり、微妙な関係にある二人がクリスマスを迎えて、プレゼントについて考える話。(pp.378 "数学的媚薬")

あまりの滑稽さに笑う話、しっとりと自然を感じる話、深い悲しみをなんとかこなれさせようとする話、愛を感じる話。あくまで投稿されたもの、真実かどうかはわかりませんが、これぞ人生、それでも人生、と言いたくなるお話の数々でした。

この本の原著が発売されたのは、2001年の9月13日。"911"として知られるテロの2日後でした。この本のリリースのキャンペーンとして全米を回った著者・オースターは、各地で参加者とそれぞれが持つストーリーを語り合ったそうです。

そんなお話も含めて、そこにはストーリーがある。

素晴らしい、本当に素晴らしい本でした。 

ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉 (新潮文庫)

ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉 (新潮文庫)

 
ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉 (新潮文庫)

ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉 (新潮文庫)