記録#55 『歴史は実験できるのか 自然実験が解き明かす人類史』社会をよーくよく観察する
『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンドと、『国家はなぜ衰退するのか』のジェイムズ・A・ロビンソンが編著者としてまとめた、経済史分析等に用いられる"自然実験"に関する本です。
- 作者: ジャレド・ダイアモンド,Jared Diamond,ジェイムズ・A・ロビンソン,James A. Robinson,小坂恵理
- 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
- 発売日: 2018/06/06
- メディア: 単行本
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自然実験というのは、社会科学という(構造的・倫理的な理由によって)ランダム化などの実験が行いにくい分野において、「自然の中から実験に近い環境を見出してそれを研究対象にしよう!」という分野。
経済学や政治学、社会学、心理学なんかで用いられることが多いです。
この本は、読み物というよりかは様々な研究者の、自然実験に関する論文を章立てて紹介していく、という形式のもの。
- 第1章:ポリネシアの島々を文化実験する
- 第2章:アメリカ西部はなぜ移民が増えたのか 19世紀植民地の成長の三段階
- 第3章:銀行制度はいかにして成立したか アメリカ・ブラジル・メキシコからのエビデンス
- 第4章:ひとつの島はなぜ豊かな国と貧しい国にわかれたか 島の中と島と島の間の比較
- 第5章:奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか
- 第6章:イギリスのインド統治はなにを残したか 制度を比較分析する
- 第7章:フランス革命の拡大と自然実験 アンシャンレジームから資本主義へ
それぞれは、問題意識⇨定義⇨分析⇨結論、みたいなthe 論文ぽい構成になっているので、万人にとって読みやすいかというと??なんですが、内容自体はとても興味深く読めました。
私としては、第4章、第5章、第7章が面白かったです。
- 第4章:植民地の関係で島の東西が分断されたハイチとドミニカの豊かさの系譜。初期にはハイチのほうが経済的に豊かだったのに、現在はドミニカは経済的に成功している一方ハイチは最貧国のひとつ
- 第5章:奴隷貿易の輸出地となった場所は、現在他のアフリカ地域と比べても貧しい水準にある。著者の推計によると、アフリカとそれ以外の途上国の所得格差のほぼ30%が、奴隷貿易によって説明できる
- 第7章:制度変更が経済に与える影響を観察するために、"撹乱"の要因としてドイツ国内でフランス革命の影響が及んだ地域とそうでない地域を区別し分析を行っている
制度の話がでてきて、ヴェブレンなんかを読んだ大学院時代を懐かしく思い返していました。
「経済学者は歴史をこう読み解くのか、そういう着眼点で研究対象を抽出するのか」そんな学びが得られる本です。
- 作者: ジャレド・ダイアモンド,Jared Diamond,ジェイムズ・A・ロビンソン,James A. Robinson,小坂恵理
- 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
- 発売日: 2018/06/06
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