ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#35 『ゴールドマン・サックス M&A戦記』 スキームの妙とプロ意識を学ぶ

マッキンゼーゴールドマン・サックス、ハーバード...

タイトルに入れると売上が上がるカタカナ組織のようですが、実際は2~3年在籍しただけ、みたいな中途半端な著者が書かれた本も多い印象です。*1

本著の著者・服部さんは、MIT Sloanを出てから合計14年間ゴールドマン・サックス(以下、GS)の投資銀行部門で戦って最後はマネージング・ディレクターとして退任された方。書籍内で紹介される事例も、通信・自動車・製薬・金融と多岐にわたっているし、それぞれのプロジェクトの金融スキームや現れた課題、プロジェクト期間についても(守秘義務に触れない範囲で)丁寧に語られていて、興味深く読めました。

紹介されているプロジェクト

私はこれまで関わったのはBDDのレベルで、M&Aや資金調達のプロジェクト全体を俯瞰したことはありませんでした。

この本では、それぞれのプロジェクトがどんなきっかけで始まり、その中でGSがどんな役割を期待され、どのくらいの期間でどんな結果に至ったのか、さらにそれらの企業がどんな未来を辿ったのかまで書かれていて、学びたっぷりです。

幅広い。私がもう少しファイナンスのスキームに精通していれば、もっと楽しめたのに...

「MAのチームはそんなことを考えているんだ!」と勉強になったのが、下記のような事例

  • グラクソ:50%出資の子会社について、親会社が株式を単に買い取るのではなく、株式発行主体の子会社自身が株式を買い取る「有償選択減資」を行うことで売却金額を非課税に
  • AOL:既存契約をあえて一方的に破棄し違約金を支払い契約を巻き直すことで、受贈益課税の対象となりうる価値評価の差を圧縮する
  • 日本リース:自動車リースを行う企業の事業譲渡を行う上で、車検証上の所有名義をすべて書き換える必要があり、車検証原本を陸運事務所に持ち込むことの手間、車検証不所持運転の法律リスクを抱えるため、事業譲渡を断念
  • ロシュ・中外:両社ともに血液スクリーニング検査技術を保有するため、統合により米国における独禁法にひっかかる。それを回避するために「有償減資による株式割当」を採用(完全子会社の株式を自社株主に一回で割り当て、資本関係を断絶)

金融のスキームは、ただ引き出しを開けて制度を事例に適用させていくのではなく、極めて高いレベルでの頭の柔軟性、交渉術が必要なんだと痛感しました。

働き方に関するメッセージ

ページを繰り始めてすぐ、著者から働き方についてのメッセージが出てきます。

 基本的な考え方は、 「会社と自分は常に対等な関係でなければならない」というものだ。どこの国でもサラリーマンというものは「社畜」という言葉もあるように、少しでも気を抜けば、やはりどうしても「会社」が有利な立場に立ち、「個人」を支配してくる

 ましてある程度、歳を重ねて結婚して家庭を持ち、住宅ローンを抱えれば、もはや会社の言いなりに人生を歩む以外の選択肢を目指すことは極めて困難な状況に陥りがちだ。しかし、就職直後から会社と自分の考え方のギャップに強く悩まされたこともあって、私は若い頃からこんな考えが強く芽生えた。

(p.2)

この問題意識は、最近私が感じていることと重なります。

会社が上というわけでもない、自分が上というわけでもない。あくまで対等。少なくともそういうマインドセットで働いていくことが、健全に生活していく上で重要です。

 「会社というものは自分の味方ではない。敵とまでは言えないが、少なくとも黙っていても会社が自分のために何かを施してくれるというものでは絶対にない。会社で自分の思いを通すためには、会社と個人は常に対等の関係になければならないし、更に対等な上で日々是勝負であり、これにある程度勝たなければ、自分の思いを遂げることはできない

今でも、この考えは変わっていない。そしてこれを実践するためには、

  • 自分の人生は自分でリスクを取って自分で切り開く、
  • 特に人生の後半の時期に、少なくとも自分の居場所は自分で決められるような立場にいたい、
  • 全く自分の意志とは無関係に、組織の側に自分の居場所を一方的に決められることだけは絶対に避けたい

(p.2-p.3)

プロフェッショナルとしての挟持を感じました。企業の寿命が短くなり、労働市場で戦うシーンが増えていくであろうこれからの時代に、皆に必要となるメンタリティだと感じます。

本を読み進めるに連れて、「自分の働き方はこれでいいのか」「顧客に感謝されるだけの成果をあげているか」について振り返る、良い機会となりました。

 

*1:3年しかいなかった新卒入社先ファームについて、私はなにも書ける気がしません...少なくとも私は