たなかの読書記録

スタートアップで働く人間が、読んでよかったなぁと思う本を紹介していきます。

記録#31 『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八』人を動かす"何か"と"イマジネーション"

NASAのジェット推進研究所(JPL)で働く小野さん。

前著『宇宙を目指して海を渡る』を読んで以来、宇宙を目指す熱い想いと文学張りの素敵文体に魅了され、新著もすかさず読んでみました。

前作は小野さんの自伝的な内容でしたが、今作は、なんというんでしょう、宇宙の、宇宙に関わる人類の本です。

  • 第1章:いかに人類が宇宙に飛び立ったか。ロケット開発に夢を託した偉人たちと戦争のお話。
  • 第2章:アポロ計画。政治や大組織の前にひるまず、信じるものを貫き通した技術者のお話。
  • 第3章:太陽系探査。人が宇宙というものに目を向けてから、失望し、希望を取り戻した観測機のお話。
  • 第4章:地球外生命探査。著者が目下取り組んでいる、火星での生命探査のお話。
  • 第5章:地球外文明探査。間違いなく地球の外に文明はある、人の心をワクワクさせるイマジネーションの話

人を動かす「何か」と「イマジネーション」

この本の中で繰り返しでてくる言葉。

何か」と「イマジネーション」。

人はなぜ宇宙を目指すのか。何が人を地球の外への探検へと駆り立てるのか。その「何か」。衝動としての、「何か」。その根源として存在する、人の想像力、「イマジネーション」

 もちろん、その答えを知ったところで、誰の暮らしも物質的に豊かにはならない。スマホの機能が充実するわけでもなく、車をより安く買えるようになるわけでもなく、あなたの貯金が増えるわけでもなく、飢えた子供を救えるわけでもない。その答えを追うことは無意味だろうか?

 もし無意味と断ずるならば、地球に留まり、物質的豊かさのみを追求するのもまた人類の生き方だと思う。

 でも、僕は知りたい。あなたも知りたくはないだろうか?

 なぜ知りたいのか、と問われれば困るかもしれない。旅に出たい衝動と似ているかもしれない。心の奥深くで何かが「行け」と囁くのだ。きっと人類の集合的な心の奥深くでも、何かが囁いているのだ。「行け」と。あの「何か」が。

 (Kindle位置:2,085)

 その「何か」が宿った人は、夢に向かって突き進む。

『海底2万マイル』や『80日間世界一周』の著者であるジュール・ベルヌは、まだ見ぬ世界に夢を描き、1865年に『地球から月へ』を出版する。それを読んだアメリカ人、ロバート・ゴダートは、月に行くためには大砲ではなく(当時は枯れた技術とされていた)ロケットを、液体燃料を使い再発明した。また、ドイツのロケットの父、ヘールマン・オーベルトは『地球から月へ』を暗記するまで読み、却下されてでも博士論文のテーマには宇宙旅行・ロケットを選んだ。そして、1940年代以降のロケット技術開発の最重要指導者のひとり、フォン・ブラウンをロケット開発の世界へと導いたのは、この却下された博士論文だった。

宿った「何か」がその人を突き動かし、その結果がまた次の誰かの「何か」を刺激していく。

人はこうやって前に進んできた、世界を変えてきたんだ、ということを強く感じます。

イマジネーションとはウイルスのようなものだ。ウイルスは自分では動くことも呼吸をすることもできない。他の生物に感染し、宿主の体を利用することで自己複製して拡散する。イマジネーションも、それ自体には物理的な力も、経済的な力も、政治的な力もない。しかしそれは科学者や、技術者や、小説家や、芸術家や、商人や、独裁者や、政治家や、一般大衆の心に感染し、彼ら彼女らの夢や、好奇心や、創造性や、功名心や、欲や、野望や、打算や、願いを巧みに利用しながら、自己複製し、増殖し、人から人へと拡がり、そして実現するのである。

Kindle位置:671) 

宇宙は人を謙虚に、優しくする

本書の中に、太陽系探査を行ったボイジャー1号が撮った地球の写真が出てきます。

撮影ポイントは、海王星軌道のさらに向こう側。距離にして60億kmの彼方です。

下の写真で、青い丸で囲まれているのが地球です。

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Universe Todayより)

本書の中で紹介されている、天文学者・作家のカール・セーガン*1は著書「Pale Blue Dot(邦題:惑星へ)」で残したこの文章、心にぐっと残るものがあります。少し長いですが、引用。

カール・セーガンはこれをPale Blue Dot(淡く青い点)と呼んだ。この写真にインスパイアされて書かれた彼の著書"Pale Blue Dot”に次のような一節がある。

 

 もう一度、あの点を見て欲しい。あれだ。あれが我々の住みかだ。あれが我々だ。あの上で、あなたが愛する全ての人、あなたが知る全ての人、あなたが聞いたことのある全ての人、歴史上のあらゆる人間が、それぞれの人生を生きた。人類の喜びと苦しみの積み重ね、何千もの自信あふれる宗教やイデオロギーや経済ドクトリン、すべての狩猟採集民、すべてのヒーローと臆病者、すべての文明の創造者と破壊者、すべての王と農民、すべての恋する若者、すべての母と父、希望に満ちた子供、発明者と冒険者、すべてのモラルの説教師、すべての腐敗した政治家、すべての「スーパースター」、全ての「最高指導者」、人類の歴史上すべての聖者と罪人は、この太陽光線にぶら下がった小さなチリの上に生きた。

 地球は広大な宇宙というアリーナのとても小さなステージだ。考えてほしい。このピクセルの一方の角の住人が、他方の角に住むほとんど同じ姿の住人に与えた終わりのない残酷さを。彼らはどれだけ頻繁に誤解しあったか。どれだけ熱心に殺しあったか。どれだけ苛烈に憎しみあったか。考えてほしい。幾人の将軍や皇帝が、栄光の勝利によってこの点のほんの一部の一時的な支配者になるために流れた血の川を。

 我々の奢り、自身の重要性への思い込み、我々が宇宙で特別な地位を占めているという幻想。この淡い光の点はそれらに異議を唱える。我々の惑星は宇宙の深遠なる闇に浮かんだ孤独な芥だ。地球の目立たなさ、宇宙の広大さを思うと、人類が自らを危機に陥れても他から救いの手が差し伸べられるとは思えない。

 地球は現在知る限り命を宿す唯一の星だ。少なくとも近い将来に、我々の種族が移民できる場所は他のどこにもない。訪れることはできるだろう。移住はまだだ。好もうと好むまいと、いまのところ、我々は地球に依存せねばならない。

 天文学は我々を謙虚にさせ、自らが何者かを教えてくれる経験である。おそらく、このはるか彼方から撮られた小さな地球の写真ほど、人間の自惚れ、愚かさを端的に表すものはないだろう。それはまた、人類がお互いに優しくし、この淡く青い点、我々にとって唯一の故郷を守り愛する責任を強調するものだと私は思う。
Kindle位置:2,194)

宇宙は人を夢中にさせ、突き動かすとともに、謙虚に、優しくする。

小野さんや、その著作に出てくる登場人物が漏れなく魅力的に見えるのは、みな宇宙という壮大なものに挑む挑戦者でありながら、人や地球の意義を問い続ける哲学者だからなんだと感じました。

素敵な、とても素敵な本でした。 

宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八

宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八

 

 

*1:ホーキング、宇宙を語る』の序文を書いている人