ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

記録#29 『遅刻してくれてありがとう(上)』自転車は漕ぐことで安定する、そんな世界。

原題 "Thank you for Being Late"

本の内容は、テクノロジーや地球環境がいかに高速で変わっていっているか、その中で私たちがいかに生活していくかに関する低減。

読み始めて最初数ページは「なんでこのタイトルなんだろう?内容とあっていないな」と思っていました。でもよくよく内容を噛みしめるとすっきり。

「誰かが予定に遅れでもしてくれない限り、ゆっくり考える時間が取れないほど、私たちは忙しない・加速した時代を生きている」

著者のトーマス・フリードマンニューヨーク・タイムズ所属のライターで、全米300万部の大ヒットとなった「フラット化する世界」の著者でもあります。

そんな彼が、とある駐車場の係員との会話をきっかけにして日常の中にふと立ち止まり、自分の周りを見回して、↑の作品を書いてからの10年でいかに世界が大きく変わってしまったかについて思いを巡らせ書いた本が、この「遅刻してくれてありがとう」です。

2004年に私が、世界はフラットになったと宣言して走りまわっていたときには、Facebookはまだ存在していなかった。Twitterはまだ鳥のさえずりを意味する言葉だったし、 雲 は空に浮かんでいただけだった。4Gは駐車スペース、〝 願書(Application)〟は大学に提出する書類だった。ビジネス特化型SNSのLinkedinはほとんど知られておらず、たいがいの人間は刑務所のことだと思っていた。ビッグデータはラッパーにぴったりの名前で、Skypeは、ふつうの人が見ればタイプミスだった。これらのテクノロジーはすべて、私が『フラット化する世界』を書いたあとで開花したKindle位置:488)

加速する時代

なぜこんなに世界が忙しくなっているのか、私たちがそれに翻弄されているのか。

フリードマンが指摘するのは、

  • テクノロジー、物理的なイノベーションの加速が止まらないこと。ムーアの法則に見られるように、その加速度は上がっている。マイクロプロセッサ、センサー、記憶装置、ソフトウェア、ネットワークすべての領域で。
  • その結果市場に投入されるサービスが一気増大していること、かつ物理的な距離を超えることが容易になっていること。複利効果のために拡大はどんどん急に。
  • テクノロジー・市場の加速により自然環境に与える変化・負荷も比例して増加していること。転換点(ティッピングポイント)が見えない中で、いつ急激な崩壊がきてもおかしくない。

ということ。

「これで生活が楽になる!」と期待されたテクノロジーが登場するものの、結局前より忙しくなったよね、ということが往々にして起こります。それは、市場経済というものの宿命で、しょうがないのかもしれません。*1

私たちの期待の程度と関係なく、テクノロジーも市場もどんどん進んでいく。そんな加速の時代に、私たちは生きています。

取り残される人と社会

テクノロジーの進化、地球規模での環境変容、市場のさらなるグローバル化、、

それらの受け手である人間や社会はこれに対応できているのでしょうか。否、というのがフリードマンの主張です。

 その点は重要な事実を示していると、テラーは説明した。人間と社会はこれまでずっと、だいたいにおいて変化に着実に適応してきたが、テクノロジーの変化は急激に加速し、それらの変化をほとんどの人間が吸収できる平均的な速度を超えてしまった。もう大半の人間が、ついていけなくなった。

「それが文化的な不安の原因になっている」とテラーはいう。「それはまた、毎日のように登場する新テクノロジーのすべてから利益を最大限に引き出すことも妨げている。……内燃機関が発明されてから数十年のあいだに、つまり道路に大量生産の車があふれる前に、交通の法規や約束事は徐々に定まった。それらの法規や約束事は、いまも私たちにおおいに役立っているし、それからの100年間、高速道路などの発明に法律を適応させる時間はじゅうぶんにあった。しかし現在は、科学の進歩が、道路を使う私たちの方法に地殻変動のような大変化をもたらしている。議会や自治体は、血眼になって追いつこうとしている。ハイテク企業は、時代遅れで馬鹿げたルールに憤慨している。大衆は考えあぐねている。スマホの技術はウーバーを勃興させたが、ライドシェアリングをどう規制すればいいのかについて世間が判断を下す前に、自動運転車がそれらの規制を時代遅れにしてしまうかもしれない」(Kindle位置:638)

自動運転やCtoCマーケット、さらには仮想通貨のような世界を見ていると、法制度や国の規制がテクノロジーに追いついていないことは明らかです。

それらのようなオフィシャルな制度だけではなくて、私たち個人のレベルでも、テクノロジーの進化に追いついていない・いけない人が一定数でてきていると思います。それは、作り出す立場はもちろん、それらのテクノロジーを受容するということにおいても、です。

個人・社会として、↑の加速に対してどう対応していくか・いけるのか。

このままだと、社会として深い分断を生むか、社会全体がテクノロジー・環境に対して遅れを取ることになるでしょう。

社会にもテクノロジーを、個人には学習を

フリードマンは、そんな時代において、上述したような物理的なテクノロジーに加えて、社会の側での進化・社会的テクノロジーも必要だとしています。

 あるインタビューでベインホッカーは、私たちの眼前の難問を簡潔に要約している。
 〝物理的テクノロジー〟――石器、馬に 輓 かせる 犂、マイクロチップ――の進化〝社会的テクノロジー〟――貨幣、法の支配、規制、ヘンリー・フォードの工場、国連――を区別するところから、論を起こしている。

 社会的テクノロジーは、私たちが協力によって利益を得るために組織をまとめる手法であり、ゼロサム・ゲームではありません。物理的テクノロジーと社会的テクノロジーは共進化します。物理的テクノロジーのイノベーションは、あらたな社会的テクノロジーを可能にします。たとえば、化石燃料テクノロジーは大量生産を可能にしました。スマホはシェアリング・エコノミーを可能にしました。その逆も成り立ちます。社会的テクノロジーは、あらたな物理的テクノロジーを可能にします。スティーブ・ジョブズはグローバルなサプライチェーンなしには、スマホを作れなかったでしょう。Kindle位置:4,442) 

 さらには、各個人にとって、知識ではなく学習の重要性が更に高まると。

未来学者のマリーナ・ゴービスはいう。その世界では、大きな 格差 は「やる気の格差になるでしょう」。セルフ・モチベーション、気概、忍耐力のある人間は、無料もしくは低コストのオンライン・ツールで、一生ずっと創造し、協力し、学びつづける。宿題はやったのかと念を押す親がいなくなっても。(Kindle位置:5,467) 

 おわりに

この本の中で紹介されていたとあるサービスが、個人的にとても素敵だなと感じました。

お酒を飲みながら絵を描く教室を成人向けに提供している〈ペイント・ナイト〉だ。《ブルームバーグ・ビジネスウィーク》2015年7月1日号の記事によれば、〈ペイント・ナイト〉は、「趣味を持ちたがっている弁護士、教師、テクノロジー関係者を中心とする客に、退社後のパーティを用意している」。週に5夜、そこで教える美術教師は、人々の心をつなぐことで年間5万ドルを稼いでいる(Kindle位置:5,339) 

マイアミにいらっしゃる方のブログを拝見したらとてもいい感じ...!! ぜひ行きたい。

Paint Nite (ペイントナイト)の絵画イベントに参加して感じたアメリカ人と日本人の違い

 

下巻はこれからですが、こちらも楽しみにしています:-) 

 

*1:テクノロジーによってなくなる、とされた職業が、市場の拡大によって実は減らなかったという事例(レジ係やパラリーガル等)も紹介されていて、市場というのはつくづく直感に反するものだという気がします。