たなかの読書記録

スタートアップで働く人間が、読んでよかったなぁと思う本を紹介していきます。

記録#20 『心の疲れをとる技術』心のムリ・ムラ・ムダとどう向き合うか

疲れの時代です。
マッサージ屋さんは盛況だし、疲労回復!みたいな本が並び、疲れをふっとばすみたいなCMもたくさん流れています。 

体の疲れだけではなくて、心の疲れも大きな問題です
居酒屋さんにいったときにサラリーマンが「いやー、疲れたよ」といっている時、その疲れは体の疲れでしょうか。心の疲れでしょうか。スーツを着た多くのサラリーマンが疲れを感じているのは、仕事のプレッシャーや家庭の問題に由来する心の疲れでしょう。

体も心もMAXに疲れる職種があります。軍人です。戦場に出向けば過酷な環境で交戦し、生死を争う精神的なプレッシャーも相当なものでしょう。
日本の自衛隊員も、中東に赴いた派遣団の活動は一般の軍隊に近い活動量・精神的負荷を伴うでしょうし、災害に伴う被災地での活動でも、その心身に与える疲労感は相当なものだと思います。

この本の著者・下園壮太さんは、その自衛隊で「コンバットストレス教官」として、隊員に心の疲労・メンタルヘルスについての教育を担当されています。そんな方が教える、心の疲れへの対処法。

人生という長期戦

下園さんは、自衛隊と人生の共通点として、どちらも長期戦であることを指摘します。

今、思うのは、自衛隊のメンタルの強さは「長期戦を戦える力」であるということだ。
自衛隊は国の存続の最後の砦。どんなに苦しくても、どんなに長期化しようとも、決してへこたれず最後まで任務をやり遂げなければならない。そういう組織なのだ。
長期戦を戦うには、二つの要素が必要になる。
一つは「組織力」。自衛隊には戦車や大砲の部隊だけでなく、通信、医療、物資、輸送、情報などの部隊がある。自衛隊が活動するとき、そこには、道路ができ、居住テントが張られ、食堂ができ、お風呂ができ、病院ができ、電話が引かれる。メンタル面も個人だけに任されるのではなく、同僚が支え、上司がケアし、専門家が治療し、組織としても対応する
長期戦を戦う二つ目の力は、「疲労のコントロール」だ。
何かが起こると、まず一つの部隊が迅速に対応し、一生懸命働く。しかし人間が活動する以上、すぐに疲労してしまう。疲労するということは戦力が低下するということだ。任務達成が危うくなる。そこで、戦力が低下しきる前に、部隊を交代させる。

Kindle位置:20) 

長期戦を戦う上で重要なのは、組織化された活動を安定して実施していくために、個々の隊員が疲弊していないこと。
自衛隊は常に組織として一定のパフォーマンスを出せるように、隊員に強制的にオフを与えます。例えもう少しで仕事が完了するところであろうと、プロジェクト全体が長期にわたるのであれば、無理にでも仕事を引き剥がして休息を与える。とても合理的だと思いました。

私たちも、いかに疲弊しようと、人生を勝手にやめるわけには行きません。
自分の頭が求めていなくても、無理にでも疲れを取るための休息を取るべきなのかもしれません。 

心のムリ・ムダ・ムラ

下園さんは、心の疲れを「ムリ・ムダ・ムラ」という3つの視点から説明しています。

  • ムリ:ムリして疲労がたまっているのに、それを自覚できず、止められず、深みにはまっていくカニズム
  • ムダ:心のエネルギーを最も低下させる、感情のムダ遣いをするカニズム
  • ムラ:エネルギーの出し方にムラがあり、自分と周囲が翻弄されるカニズム

少し話がそれますが、プロジェクト・マネジメントに関する大好きなブログの中でこの「ムリ・ムダ・ムラ」というコンセプトが紹介されていて、なるほどと思った記憶が蘇りました。下記は2016年に読んだ記事の中でも最も感動した記事のうちのひとつ*1です。

「ムリ」:短期目標を追い続け、だんだんに麻痺してくる心

多くの人が「ムリ」のメカニズムにはまって疲れをためていく。
頑張っている自分が好き、短期的な目標達成のために走り続けている。一方で年齢とともに体力も思考大量も回復力も落ち、自分が想定する限界と実際の限界にギャップがでてくる。

多くの人が短期目標に突き動かされる人生を送っている。
それは、短期目標が持つ魅力が大きいからだ。短期目標は、やる気を瞬発的に出すことができる。
やる気が出ているとき、我々は快感と高揚感を持てるし、自信を感じやすい。短期の目標は、明確に意識しやすいため、仲間と共同作業を行いやすい。だから「仲間と一緒にやり遂げる」という感覚も持てる。
さらに、短期目標は必死にならざるを得ないので、そのほかの小さい悩みを考えるいとまがない。つまり、嫌なことを忘れられる効果もある(Kindle位置:395)

このムリな状態が続くとへたってしまいそうなもんですが、それを続けさせてしまうのが麻痺というメカニズム。
麻痺は興奮状態も伴うために、ムリをしているのにむしろ快感を得てしまうことも。
しかしそれはあくまで一時的なもの、疲れが積み重なると結局は破綻してしまう。

「ムダ」:怒りや不安により自身がダメージをおっていく 

疲れというのは、エネルギーを使いすぎている状態。
それは何かを達成するために行っている「ムリ」だけでなく、周囲に自然に反応するときの感情面の「ムダ」からも生まれます。仕事人間や趣味に没頭する人は「ムリ」が、周囲の目が気になって仕方ない人なんかは「ムダ」が心の疲れを招いているのかもしれません。

怒りだけではない。「不安」も最悪をイメージし続ける思考が延々と続くので、消耗が激しい。不安が長引くと、我々はあっという間に体重が減ってしまう。
「喜び」さえ、それほど長くは続けられない。エネルギーを使っていることに変わりはないからだ。喜びは、もともと周囲に安全や食料・水などの存在を知らせる感情で、笑いと大声が特徴だ。笑いと大声もエネルギーを使う。息ができないし、笑い続けることが苦しいのは、誰でも知っている。
どんな感情でも、大きなエネルギーを使っているのだ。(Kindle位置:1,418) 

この部分の内容は、以前読んだ「反応しない練習」の内容とも重複するなと思いました。仏が伝えたかったのは、「そんなムダな反応で自分を傷つけてもいいことないよ」ってことでしょう。

nozomitanaka.hatenablog.com

「ムラ」:ムリ・ムダを繰り返す心の波

なにか最適なレベルがあるときに、過剰にやりすぎてしまうことを「ムリ」、必要以上に資源を使いすぎてしまうことを「ムダ」。そのムリ・ムダの状態が一定せず、行き来してしまうことが「ムラ」です。

心が麻痺して「ムリ」の状態が長く続き、その後心が折れてしまい作業にミスが増えて「ムダ」の状態に移行する。その後復帰してまた「ムリ」をしてしまう。こんな状態は、「ムラ」の多い状態といえます。

ムリとムダの混在がムラだ。ムラは、何かをしようとすると必ず生起する。それは、人がやはり動物で、やる気のある時とそうでない時、健康な時と病気の時、スキルが十分な時と未熟な時があるからだ。
だから、ムラをゼロにする必要はないが、コンスタントなパフォーマンスをするためにはムラを少なくしなければならない。 (Kindle位置:2,587)

ムラが大きくなると、本人が辛いのはもちろん、周りの人も対処が難しくなります。

心の疲労とどう向き合うか

この本のタイトルには「心の疲れを取る技術」とありますが、これは何かの道具を買ったり学んだりすればすぐに身につく技術ではありません。

  • 日常の「ムリ」をなくすには、組織としての休憩導入の仕組み化、個人としての動・静両方のストレス解消方法探索が必要
  • 感情の「ムダ」を無くすためには、①湧き上がった不要な感情を抑える練習②大局的に物事を見る視点コントロールの練習③自信を感じられる工夫・練習が必要
  • 「ムラ」をなくすには、まずは本人のムリを減らすこと。周り・チームとしてできる対策は、予備・バッファを持つころ

どれも、組織・チームとして工夫しましょう、個人としても意識して練習しましょう、という内容です。

そらそうですね。一瞬で疲れがなくなったら言うことありませんが、そんなのムリです。

個人的には、社会全体としてこの「ムリ・ムダ・ムラ」のために疲弊していて、感情のはけ口を求めている気がします。一部の麻痺した人たちを治療して、その人から派生して苦しんでいる・疲れている人が減っていくといいなと思います。

 

*1:ふたつだけど。