たなかの読書記録

淡々と、読んでよかったなぁと思う本を紹介していきます。本のジャンルはばらばら。紹介するタイミングは四半期/年ごとが基本、その他は気まぐれです。

『世界からバナナがなくなる前に』効率を追って脆弱さが生まれる

ここ最近、食や農業の問題はそこかしこで取り上げられています。

途上国を中心とした飢餓、都市における食料廃棄、不衛生な環境で抗生物質まみれで育てられる牛や鶏に起因する食肉の安全性、遺伝子組み換え作物の登場...

どれも大きな問題です。そんな中で、この本でまた一つ大きなテーマが自分の中で増えました。

"農作物の品種の多様性喪失"です。

 

世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち

世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち

 

世界中で摂取されているカロリーの80%は、たった12種類の植物から得られている」そんな驚きのデータからこの本は始まります。

有史以来、ヒトは野生の植物を採取し、それを栽培する術を開発し、農業として育ててきました。その方法は地域ごとに異なり、それに合わせて品種も各地域で独自の発展を遂げてきました。しかし産業革命以降、農業の工業化が進み、育てる品種を絞り込んで、肥料や殺虫剤を使いながら最大効率で栽培する手法が主流になります。

表題のバナナやゴム、カカオ、コーヒー、ジャガイモ、キャッサバ...

あらゆる品種で限られた品種を効率的に育てる農業が中心となり、それに合わせて、真菌やウイルス、害虫等による被害がでると広範囲で一気に広がる事になります。そういう意味で、現代の農業は短期的な効率性・生産性が最大化されている一方で、一度被害が出たときのインパクトが非常に大きくなるという意味での脆弱性を抱えています

この本の中にも、このような脆弱性が露見した悲しいストーリーが色々出てきます。

  • パナマ病でなくなってしまった甘くて美味しいバナナの品種・グロスミッチェル
  • アフリカのキャッサバ栽培を救うために、南米のアマゾンに"天敵"を探しに行くスイス生まれのヒッピー研究者
  • 天然ゴムを安定的に確保しようとブラジルで天然ゴムプランテーションの運営に乗り出したヘンリー・フォードとその失敗
  • ナチスが迫る1940年代のロシア・レニングラードで、採集した植物の種子を必死に守りながら餓死していった研究者たち
  • 政敵を追い落とすために作物をダメにする菌をばらまく農業テロを行い何百万人もの職を失わせた農業団体関係者

 生産性向上が叫ばれるこの世の中で、品種絞込みの流れが止まることはないでしょう。そんな中で、世界中が飛行機でつながりヒトも自由に移動する中で、菌やウイルスが運ばれるスピードも上がっていきます。

それによって、いろんな作物が壊滅的なダメージを受ける頻度は高まり、より深い社会問題として認識される日が早晩来る気がします。一部ではもう来ているのかもしれませんが。

日々仕事をしていると工学系・情報系のテクノロジーのお話にたくさん触れますが、ヒトの生き死にに関わる食のテクノロジーについても、もっと突っ込んでいこうと感じました。

これまでは研究者や農業メーカーの努力によって、上のような様々な問題が解決されてきました。これからも同じようになんとかなるのでしょうか。。そんな問題意識が頭のなかに植え付けられる、深くて良い本でした。