ねずこん読書記録

小さな会社を経営しています。読んだ本について書き残していきますー

まとめ#16 2018年1~3月:読んでよかった本5冊

こんにちは。

2018年に入ってからは、読んで面白かった本はできるだけ個別にブログ記事におこすようにしました。
心に残った文章を引用として残しておければなと思っています。

 

サピエンス全史 

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

 

長いです。長いですが、1冊で10冊にも相当する驚きを与えてくれた本。
私たち人=ホモ・サピエンスをこれだけ地球上に反映させてきたのは虚構を信じる力である、っていうのは驚きポイント。
一昨年に出版されてからまだ色んな人が書評を書いたり読書会を開いているのがよくわかる、興味深い内容でした。時間をあけて再読したら新たしい気づきがどんどん出てきそう。

しんどいオカマの悩み相談

Twitterでご活躍のBSディムさんが、一般の方からの質問に答えたその内容をまとめた本。

パフェよりも甘い恋や、ポテチよりもしょっぱい見栄だって、立派な原動力となってくれる

みたいに、紡がれる一言ひとことがとても素敵。 

 

世界からバナナがなくなるまえに 

世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち

世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち

 

世界中で消費されているカロリーの約80%が、わずか十数種類の作物から得られているという現実。短期的に実りの多い一つの作物に生産が集中し農産物の多様性が失われることで、自然災害や疫病に対する脆弱性が上がってしまう構図。

毎日口に入れているものの背景にある危機について、改めて気づきをくれた本。 

猫はためらわずにノンという

猫はためらわずにノンと言う

猫はためらわずにノンと言う

 

東京、みんなあくせく働き/生きすぎじゃないですか?
気高く自由に、自分の幸せを大切にして生きる猫の姿勢から私たちは多くを学ぶことができるのかもしれません。

猫と一緒に生活するフランス人作家さんが書く、見習うべき猫の姿勢をまとめた本。

 

アルゴリズム思考術 

アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール (早川書房)

アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール (早川書房)

 

いかにコンピュータに考えさせるか、 を突き詰めて生まれた現代のアルゴリズム。コンピュータだけではなく、われわれ人も、そのアルゴリズムから学ぶべきではと思い手を伸ばしました。個人的大ヒットの本。

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 それぞれの本の読後感を個別記事を残しているので、ご関心があればぜひ読んでみて下さい:-)

nozomitanaka.hatenablog.com

nozomitanaka.hatenablog.com

nozomitanaka.hatenablog.com

nozomitanaka.hatenablog.com

nozomitanaka.hatenablog.com

 

記録#13『猫はためらわずにノンという』良い生き方は猫に学べ。

この本のコンセプトは、以下に集約されています。

確かに猫 は、人間よりよっぽど質のいい暮らしをしている。
猫が毎日をどう過ごしているかを観察し、何を思い、何を欲して生きているのかを考えてお手本にしたらいいかもしれない。
(Kindle の位置No.26) 

TwitterInstagramで猫と一緒に生活している方々の猫愛を見るたびに幸せな気持ちになるんですが、
そういう方々は猫から生き方を学んでいるから、より一層幸せに見えるのかもしれません。

自由なら、あとはどうでもいい

東京で生活していると、みんな忙しさに汲々としているなと感じます。
いつか自由に生活をしたい!と考えながら、仕事や日常の雑務で自分をどんどん縛り付けて、自由からあえて遠ざかっているように見える。

猫は自分を縛ることなく、自由に生きている。たまには休みをとって、頭の大掃除をして、自由を体験してみるのが大切

まずは自分のことを考えよ

猫にとっていちばん大切なことは、自分自身の快適さを保つこと、であるように見えます。
そのために自分の縄張りを作りコンフォートゾーンにします。

物質的にも精神的にも、他人の世話をやく前に、自分の面倒をみることをまず考えよう。自分の面倒を一番よくみることができるのは、間違いなく自分自身だ。だって、自分が何をしてほしいかは、自分自身が一番よく知っているわけだから。 自分自身が幸せで生き生きとしていれば、あなたのそばにいる他人にもそれを分け与えることができるはずだ。 さぁ、ちょっとだけ猫のまねをして、あなた自身の縄張りを作ろう。(Kindle位置:No.247 )

猫が静けさを好むわけ

街はどこもうるさくて苦手です。クラクションだったり携帯電話の通知音だったり。

世の中の騒音というものは、それが心の安らぎまで奪っていくからストレスとなる。その前に心の中の静けさを少しでも確保できれば、耐えられる(Kindle位置:No.616) 

猫は静かな環境でこそいきいきします。見習って、うるさいところを離れて、静かなところで頭を整理したいです。

猫は仲間を選んでいる

猫は気の合わない仲間とは付き合わない。一方で人は、鼻持ちならない人や気に食わない人とも、しょうがないなーと色んな理由を付けながらわざわざ近寄っていったりする。

バカなヤツはいる。もともと人間はバカな生き物なのだ。でも、そんなヤツと無理につきあうことはない。あなたの人間関係をバカに捧げる必要はないのだから。 (Kindle位置:No.634)

猫、↑みたいなこと思っていそう。 

欲しいものは欲しいという

なにか欲しい時、人は、言ったり言わなかったり。言ったとしてもふんわりと伝えるだけだったりします。

ほしいときは、明確に。言わないと伝わらないもの。

猫は何かが欲しい時、回りくどい表現をしないし、欲しいものが手に入るまでとことんあきらめない。 (Kindle位置:No.913) 

本当に大切なこと以外にはかまうな

やっていることや持っているものに縛られないこと。大切なことは何?とよくよく問いかける。

猫には、もっている物も社会的な地位も意味がない。他人からどう思われようと、どう見られようと、あるいは批判されようとどうでもいいことなのは、すでに十分見てきた。
いつも自分を取り巻いている環境やもっているものは、いわば鏡の中の自分のようなものだ。いくら磨き上げても本当の自分とは違うのだから、そこまでこだわる必要はないと猫が教えてくれているのだろう。
Kindle位置:No.1,067) 

上を目指すときには猫を眺めよう

高いところを目指すのはいいけど、何があっても自分に優しく。

何かをしなくてはならない時、私たちはわざわざハードルを高めにして、自分に厳しくしてしまいがちだ。それは下手をすると、自分で自分にムチ打つ結果となる。
高い野心をもつのはいい、ベストをつくすのもいい。それがしかしうまくいかない時のことを考えてみよう。失敗した自分にどのくらい寛大になれるか、ここがポイントだ。
あなたが正直で、仕事やプロジェクトにできるだけのことをしたのなら、誰もあなたを責めたりしないはずだ。まして体を壊してでも、どんな時でもすばらしい成果を出せなんて言う人はいない。(Kindle位置:No.1,119) 

猫はためらわずにノンと言う

猫はためらわずにノンと言う

 

 

 自分の生活を冷静に振り返りたくなる、素敵な本でした。

記録#12『快感回路』『依存症ビジネス』消費者を考えさせるな、反応させろ。

一つ前のブログで、反応しない練習という本を紹介しました。
人の悩みを引き起こすのはいろいろな欲(承認欲など)に基づく"反応"で、自身の反応を冷静に見極めることが心安らかに生きていく方法の一つ、というお話でした。

初めて読んで以来1年間、そうだそうだ自分の反応をメタ認知しながら落ち着いて生活していきたい、と思っていますが、なかなかどうして完璧にとは行かないものです。
コンビニで美味しそうなお菓子を見かけるとつい買ってしまったりするし、人に注意されると多少引きずるし、理不尽なことを言われると少しムカッともします。そんなことをしても幸せになれないのに。

その背景にある"快を求める心"を知りたいと思い、表題の2冊に手を伸ばしました。

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まず『快感回路』から。副題は「なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか」です。
扱っているテーマは、薬物、セックス、健康に悪い食事、ギャンブルなど。それぞれが生物として生きていく上では必ずしも必要ない(あるいは害である)のに、なぜ人はそこに快楽を感じてしまうのか。

快楽を感じる脳の部位は特定されており、内側前脳快感回路の活性化と変化がすべての依存症の核心にある、とのこと。ここが活性化するのは、人が生物として生き残る上で数万年に渡って行ってきた進化の過程で最適化された結果です。

人は進化しすぎたのでしょうか。薬物やアルコールはこの快楽回路を自身でハックする技術の一つで、それが例え人体に有害なものであっても数百年・数千年単位では回路の再設計が追いついていないのが現状。

行動を引き起こす刺激は、それ自体本能的あるいは人工的に快をもたらすもの、たとえばセックスや食べ物や薬物である必要はなく、どんな音でも匂いでも色や形でも記憶でも、快感と結びつけられれば、それ自体が快い刺激となりうる(Kindle位置:No.2,248)

 一つ驚いたのは、過去の著名人、快楽回路ハックしまくってるってこと。

激しい思考を伴う人ほど、バランスをとるためにも依存できる何かが必要になるんでしょうか。 

さらにもうひとつ驚いたのは、動物たちのマスターベーションの多様さについて。

しかしおそらく動物たちの中で最もマスターベーションに創造性を発揮しているのは、オスのバンドウイルカだろう。彼らはくねくねと動き回る生きたウナギをペニスにまとわりつかせる。(Kindle位置:No.1,649) 

すごい。。。創造的すぎる。

また、同性愛についてもこんな記述が。

同性愛行動は500種以上の動物で報告されており、おそらくもっと多くの種で行われているだろうと指摘している。同性愛は オスでもメスでも見られるが、オスのほうが観察例が多い。動物の同性愛は想像できるありとあらゆる形で表れ、思いも寄らない形のものすらある。オス同士、メス同士のオーラルセックスはハイエナやボノボ(ピグミーチンパンジー)など数多くの種で報告されており、ボノボではメス同士が生殖器をこすり合わせる (Kindle位置:No.1,651)

 快楽を得るために、生物はこんなにもクリエイティブになれる(むしろクリエイティブの源泉は快を求める心?)と思ったりしました。

快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか (河出文庫)

快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか (河出文庫)

 

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 もう一冊は『依存症ビジネス』。

上で見たとおり、快楽を求める心がこんなにも生物にとって普遍的なものなら、それをビジネスにするのは自然なことなのかもしれません。

現時点ではまださほど顕著にはなっていないものの、 21 世紀初頭の社会に生じたもっとも影響力のあるトレンドとは、 気分を向上させたいときはいつでも、自分に報酬、すなわち「ごほうび」を与えるという習慣がますます強まったKindle位置:No.151) 

 カフェで食べる砂糖たっぷりのカップケーキ、やめられない携帯ゲーム、ブックマークしているポルノサイト、一日の終りに飲むアルコール、、、全てある種の依存症です。これらのビジネスは、大きくなる。
「よくわからないけど、どうしても○○したくなってしまう」というのは、ビジネスの提供社側からしたらたまらなく有利な条件ですね。医療等の分野でも「ゲーミフィケーション」が話題になっていますが、これも良い意味での依存症を生み出す仕掛けです。21世紀のトレンドなんでしょうか。

面白かったのが、ドーパミンの仕組みについて。

ドーパミンは「好き(嗜好 liking)」という衝動 よりも「欲しい(希求 wanting)」という衝動 のほうに深く関わっている、と考えられるようになった(Kindle位置:No.1,157) 

この区別は面白いと思いました。

依存症はこのドーパミンの機序、つまり好きというより欲しいという衝動の高まりによって起こる、と。依存症は、とあるものを好きになっていくプロセスではなく、とあるものを欲しいと思う感情がどんどんでてきてしまう状態。

ドーパミンに誘発された快楽を経験すればするほど、私たちはその経験を繰り返したくなるのだ。しかし、報酬経路が再配線されて耐性のレベルが上昇した結果、その行為から満足感を得るには、いっそう努力しなければならなくなる。だからこそ、依存者は常に、より大きなハイを求めているように見える(Kindle位置:No.1,213) 

 欲しいという思いの高まり=依存症、だとすると、合法的な依存症と非合法な依存症の境目がますます曖昧になるな、と読みながら思いました。

 食物への依存という、つかみどころのないコンセプトは、 正常な行動と人生を狂わせてしまう本格的な依存症のあいだに広がりつつあるグレーゾーン に私たちを向きあわせる。糖分がマウスにコカインと似たような反応を引きおこすことは、すでに見てきた。他の食物については、マウスはそういった反応を示さない。だが、人間は脂質と塩分を好むように進化してきたため、糖分のようにドーパミンの波を次々と引きおこすわけではなくとも、依然として不健康な量の脂質と塩分をとってしまう(Kindle位置:No.2,318)

 また引用だらけになってしまいました。面白い本。

依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実

依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実

 

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依存症という視点で、人が"反応"から逃れられない現状を読みながら学びました。

『依存症ビジネス』の最後にあるこんな一文。

やっかいなことに、テクノロジーの進歩が加速すれば、依存症を引きおこす薬物や経験が生みだされる速度も加速する。このジレンマを、2010年に発表したオンラインの記事のなかでうまく表現したのが、シリコンバレーの投資家でブロガーのポール・グレアムだ。彼は短いエッセイ「依存の加速」で、私たちを依存症にするプロセスを止めたければ、病気を治療するための実験も停止しなければならないと指摘する。なぜなら、それらは同じ研究から生まれるものだから。(Kindle位置:No.4,678)

ポール・グレアム、さすがの視点だ。。。

自分が何に依存しているのか、観察するところから始めようと思います。

記録#11『反応しない練習』騒がしいこの世界で心静かに過ごすために

2017年に読んだ本の中でいちばん、自分の生活の捉え方を大きく変えた本でした。

鈍感な世界に生きる 敏感な人たち』を読んでみて、この本の中で紹介されるHSP(Highly Sensitive Person)というのに自分がどうやら当てはまるらしいと思ったのが2016年の末。

どうやったら周りに振り回されず落ち着いて毎日を過ごしていけるのかな」と思っている中で出会ったのがこの本でした。

タイトルそのまま、周りに反応しないために練習しませんか、という内容。

勘違いされやすいのですが、反応しないことは、無理してガマンすることや、無視すること、無関心でいることではありません。

悩みを増やしてしまうようなムダな反応を〝最初からしない〟こと

怒りや、不安や、「どうせ自分なんて」と暗い気分が出てきたら、すばやくリセット・解消することです。(Kindle 位置No.33)

この反応に至る経路の解説がとてもクリアでわかりやすいです。

①まず〝求める心〟があり、
②それが〝七つの欲求〟を生み出し、
③その欲求に突き動かされて、人は反応する。

④ときには欲求を満たす喜びが、
⑤ときには欲求がかなわない不満が生まれる。

そういうサイクルを繰り返しているのが、人間の人生である。(Kindle 位置No.288)

求める心は、"快"をもとめる心。その快は7つの欲求にわかれ、①生存欲、②睡眠欲、③食欲、④性欲、⑤怠惰欲、⑥感楽欲、⑦承認欲となる。

これらの欲求に基づいて反応するが、その思いに執着してしまうことが不満・不幸を生みます。

人は三つの執着によって苦しむ。

①求めるものを得たいという執着(だがかなわない)
②手にしたものがいつまでも続くようにという執着(やがて必ず失われる)
③苦痛となっている物事をなくしたいという執着である(だが思い通りにはなくならない)

では、これらの苦しみが止むとは、どういう状態なのだろうか。それは、苦しい現実そのものではなく、苦しみの原因である〝執着〟が完全に止んだ状態なのだ。 (Kindle 位置No.588)

上の構造を考えるときに、"反応しない"という目的を達するために、「正しい理解」が大切になります。

「正しい理解」とは、「自分が正しいと考える」ことではありません。「自分流の見方・考え方で理解する」ことではありません。

むしろ逆に、「自分はこう考える」という判断や、解釈や、ものの見方をいっさい差し引いて、「ある」ものを「ある」とだけ、ありのままに、客観的に、主観抜きの〝ニュートラル〟な目で、物事を見すえることを意味しています。

「正しい理解」に「反応」はありません。ただ見ているだけです。動揺しない。何も考えない。じっと見つめているだけです。そういう徹底したクリアな心で、自分を、相手を、世界を理解することを、「正しい理解」と表現しています。(Kindle 位置No.503)

その「正しい理解」に基づいて、「正しい努力」を行うことの大切さ。

「正しい努力」とは、いわば「外の世界」を忘れて、「自分のモノゴトに集中」して、そのプロセスに「自ら納得できる」ことです。(Kindle 位置No.1,482)

この本を読んでから、ここで書かれているような正しいことをしよう、と思っています。普段生活していると日常に流されること多く、欲に流されることもあるし、自分ではどうにもならない他人のことが気になることもありますが、心がけとして正しい道に戻ってこよう、 という思いを新たにしました。

目を閉じるのは、反応しないため。目を開くのは、妄想から目を醒ますため。Kindle 位置No.1,673) 

このなかに、ブッダが語ったいろいろなアイディアが共有されています。
ちなみに全体読みながら、日本の仏教ってブッダが行ったことと全然ちゃうやん、となりました。

ブッダの考え方の特色は、「人生には悩み・問題がつきものなのだ」という現実を、最初に受け入れてしまうところにあります。

私たちが日々感じている満たされなさ、生きづらさ、憂鬱といった思いを「ある」と認めてしまうこと。そのいさぎよさ、合理性が、仏教の特徴です。(Kindle 位置No.209)

荒々しい言葉を語る人もいるかもしれないが、わたしは荒々しい言葉を語らないように努力しよう。

自分の考えに囚われる人もいるかもしれないが、わたしは自分の考えに囚われないように心がけよう。

間違った理解や思考を手放せない人もいるかもしれないが、わたしは正しい理解と思考が身につくように頑張ろう。

見栄やプライドにこだわる人もいるかもしれないが、わたしは見栄やプライドから自由でいられるように精進しよう。

自分をよく見せたがる人もいるかもしれないが、わたしはありのままの自分で生きていくように努めよう。(Kindle 位置No.725)

道の者よ、迷いに満ちたおのれの心の状態に気づくがよい。そこには〝五つの妨げ〟がある。 すなわち、

①快楽に流される心、
②怒り、
③やる気の出ない心、
④そわそわと落ち着かない心、そして

⑤疑い、である。

気づくがよい。このような心の状態では、物事をよく理解することも、正しく考えることもできない。ゆえに苦しみの連鎖は、いつまでも続くであろうと。(Kindle 位置No.1,784)

 

 悩んだ時に返ってくる本がもう一冊増えました。すばらしい一冊です。

 

記録#10『巨大投資銀行』骨太に生きていく

読んだ本の記録は読書メーターにまとめているんですが、表題の「巨大投資銀行」を読むのはこれで6回目でした。最初に単行本で読んだのが2012年なので、だいたい年1回くらいのペースで読んでいる計算です。

巨大投資銀行(上)

巨大投資銀行(上)

 

主人公、桂木英一は旧態依然とした都銀を抜け出し、30代後半にして外資投資銀行のモルガン・スペンサーにバイスプレジデントとして入社します。時代は1980年代。日本企業がアメリカでのプレゼンスを着実に高める中で、ジャパンデスクで働く桂木は丁寧に仕事をこなし成果を出していきます。日本のバブル崩壊やニューヨーク9.11等をくぐりに抜けて、最後は邦銀を率いる立場に。

自分ではコントロールできない要素に振り回されながらもまっすぐに仕事に取り組むその姿に、自分の仕事が辛くなるたびに勇気づけられてきました。。

主人公以外の登場人物の魅力も、この小説をいっそう素敵にしています。

・お前は朝起きてまず何をする?と聞くチャーリー・ホウズィア

ソロモン・ブラザーズの凄腕トレーダーだった明神茂をモデルとした竜神宗一

・人付き合いにも食事にも自らのスタイルを貫き通すセールスの藤崎清治

私は特に、藤崎が好きです。

最後、桂木が邦銀の代表取締役に就任した時、藤崎が贈った詩。

生徒諸君に寄せる (宮沢賢治

諸君よ紺色の地平線が膨らみ高まるときに
諸君はその中に没することを欲するか
実に諸君はその地平線に於る
あらゆる形の山岳でなければならぬ

諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いてくる
透明な清潔な風を感じないのか
それは一つの送られた光線であり
決せられた南の風である

諸君はその時代に強いられ率いられて
奴隷のように忍従することを欲するか
むしろ諸君よ
更にあらたな正しい時代を作れ

宙宇は絶えず我らによって変化する
潮汐や風
あらゆる自然の力を用い尽くすことから一足進んで
諸君はあらたな自然を形成するのに務めねばならぬ

新しい時代のコペルニクス
あまりの重苦しい重力の法則から
この銀河系を解き放て

新たな時代のマルクス
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴らしく美しい構成に変えよ

新しい時代のダーウィン
更に東洋風静観のキャレンジャーに載って
銀河系空間の外にも至って
更にも透明に深く正しい地史と
増訂された生物学を我らに示せ

衝動のようにさえ行われるすべての農業労働を
冷たく透明な解析によって
その藍色の影と一緒に 舞踊の範囲にまで高めよ

新たな詩人よ 嵐から雲から光から
新たな透明なエネルギーを得て
人と地球にとるべき形を暗示せよ

また来年も読むことになりそうです。  

記録#9『しんどいオカマのお悩み相談』正論でなんともならないこの世界で

わたし、Twitterで大活躍の「西のオカマ BSディム」さんという方が大好きです。

twitter.com

そんなディムさんが匿名で寄せられる一般の方のお悩みに答える連載が最近本になったので、手を伸ばしてみました。

副題が

明るくないし強くもない孤独に苦悩し続けるオカマが
ひとりの人間として綴る哀憐の讃歌
 

 なんでしょうこのパワーのある文章。

寄せられる悩みは、

  • 同僚のSNS上での幸せアピールが見ていてしんどい
  • 太っているのではと心配で外出が怖い
  • 友人も恋人もいない孤独と向き合えない
  • 生きる理由が見当たらない

など様々で、ディムさんも一人の悩み続ける人として、真摯に言葉を寄せています。

パフェよりも甘い恋や、ポテチよりもしょっぱい見栄だって、立派な原動力となってくれるわ。(どうすれば暴飲暴食をやめられますか?という相談に) Kindle位置. 245

行動のきっかけは、他人をうらやむ気持ちでもかまわないわ。
でも、それは自分自身が心から欲しているものを探求するための検証なのだと思ってほしいのよ。
検証結果が得られさえすれば、すぐに飽きてしまってもかまわないと思えるし、情熱を持ち続ける義務感も持たなくていいでしょう。
(どうすればないものねだりをやめられますか?という相談に)Kindle位置. 679

人生の先にはなにもないかもしれないけど、その過程における選択肢は無限だからね。
探求の道のりまだまだ長いけれど、ほかの誰でもない、自分自身の心の欲求と向き合うことの大切さをどうか忘れないでいてほしいわ。
(どうすればないものねだりをやめられますか?という相談に)Kindle位置. 682

 よくみる、私がすべての答えを授けてあげる!っていうスタイルではなくて、相談をしている人に、うん私もそう、と寄り添う姿がとても素敵だと思いました。

本棚において表紙・背表紙を見るだけで心が落ち着くような、すてきな本です。

 

 

記録#8『弱いAIのデザイン』AIに強弱あるんですか?という人にぜひ

AIああAI、と喧しい時代

AI(人工知能)に仕事を奪われる」「今後10年で現在の半分の仕事がなくなる

そんな話の起点になったのは、2013年にオクスフォード大学のMichael A. Osborne教授がCarl Benedikt Frey研究員と共同で出版した「雇用の未来」という論文です。

THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?(元論文)*1

それ以来、新聞や週刊誌で「将来AIに奪われる仕事リスト」「AI時代にも稼いでいける職業はどれ?」なんていう特集が組まれたりしています。

AIって何のことなんでしょうね。上の元論文ではAIではなく、computerisation(コンピュータ化)っていう表現をしていたりします。

弱いAIとその付き合い方

最近読んだ『弱いAIのデザイン』という本では、AIを大きく3つに分類しています。

  1. スーパーAI:強いAIを生み出し続けるAI。神。ここまで来るとSF。
  2. 汎用AI(強いAI):人間のような抽象思考を行いすべての領域をカバーしてくれるAI。24時間365働き続ける優秀な子。
  3. 弱いAI(特定機能特化型AI):掃除や料理など一部の機能に特化して、データをとったり解析したり、指示したり活動したりしてくれるAI。機能外のことについては無力。

多くの人にとってAIというと1 or 2のイメージだと思いますが、現実に検討されインストールされているのは3です。

代表的な例だと、ルンバなどの自動掃除機やSpotifyAmazon Musicみたいな音楽リコメンドサービス。ルンバやSpotifyに今日の夕食のメニューを考えてもらうことはできませんが、それぞれ任されたことは人間並みに/人間以上にしっかりやってくれます。そんな弱いAIが、今後もっと色んな分野で導入されていくと思います。(わたしが携わっている医療・ヘルスケアの領域でも)

弱いAIを使ったプロダクトの切り口

どんなところで弱いAIが活躍してくれそうな領域のリスト。アイディア出しやワークショップの切り口に良さそうだなと思いました。

  • 準備:人間の行動を検知し、その人の役に立てるように自ら準備する(例:オフィス椅子に座った瞬間にPCを起動する)
  • 最適化:実現性を考慮し、ユーザーに最適なものを選択する(例:オフィスに到着した時の気分を予測し心地よい作業用BGMを流す)
  • 助言:進行中のタスクを監視し、よりよい選択肢や代替案を示す(例:長時間パワポ作業をしている人に休憩を提案する)
  • 操作:自らの裁量でAI自らがアクションを取る(例:届いた宿泊予約確認メールを認識してカレンダーに予定・場所・日時を入れる)
  • 抑止:目的や状況を踏まえて一部の機能をオフにする(例:PCスクリーンを投影中にチャット通知をオフにする)
  • 終了:使用中止となった時に機能全体を停止する(例:オフィスから人がはけ次第、照明を空調を自動できる)

上の例を書いていて、「それIFTTTでできるやん」って思うものもあったりして、私のなかでもAIっていうものが全然理解できてないんだなぁという振り返りになりました。IF-Thenを人間が書くのと自律的に書くのの違い...??

製品・サービスデザイン上のポイント

表題の本は、弱いAIを組み込んで製品・サービスをデザインしていく上で何が大切かについて述べています。まとめると「このAIでできること・できないことをユーザーに明確に認識させること、その上でAIを信頼させることが大切」ということだと思います。

  • できることを明確に伝えることはもちろん価値にある
  • 一方でできないこともしっかり伝えておかないとユーザーの期待値に合わなかったり時に大事故になるなんてことも(自動運転のAIとか)

私もAmazon Echoやルンバを使っていますが、いろんなことを彼らに期待してしまいます。AIが組み込まれた製品を使うとユーザーの期待値がどんどん上がっていくのはある種自然なことなのかもしれません。設定変更や再起動なんていういかにもめんどくさそうでどうしてもユーザーがかかわらなければいけないシーンでも、どれだけユーザーに失望を与えず使い続けてもらえるか、そのための期待値コントロールをどうするかがデザインの重要なポイントになるんだと感じます。

本書の中では、

  • セットアップ
  • 実行把握
  • 実行管理

などの各プロセスで、いかにユーザーの期待値をコントロールし、信頼関係を築き続けるかに関する考え方やそれを実現しているプロダクト例をたくさん紹介してくれていて、プロダクト企画や設計に関わる人が読むと面白く読めるんではと思いました。

さいごに

いま仕事で関わっている医療・ヘルスケアの分野でもAIの活用が進むことが予想されています。特に画像診断では事例が相当出てきていて、疾患の早期発見や医療者の負担軽減につながるサービスが実現するんじゃないかと思っています。*2

私たちのサービスはメッセージング・コミュニケーションの領域ですが、上で言うところの「助言」「操作」あたりではAIの活用余地がかなりあります。AIの脅威について語るんではなく、それを使っていかに目の前のプロダクトを改善してあたらしい価値をつくるかに全力を尽くしたいと思います。

ツールからエージェントへ。弱いAIのデザイン - 人工知能時代のインタフェース設計論

ツールからエージェントへ。弱いAIのデザイン - 人工知能時代のインタフェース設計論

  • 作者: クリストファー・ノーセル,武舎広幸,武舎るみ
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  • 発売日: 2017/09/29
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*1:日本語での論文紹介記事はこちら

*2:たとえば東大発スタートアップ・エルピクセルさんのこちら